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事例5 宇部市(山口県)
〜災害に強いまちづくりを目指したNPOとの協働〜
1. これまでの取組み
■市民活動センターの設置
 宇部市では、87団体のNPO法人が登録されており、平成13年にオープンした「宇部市民活動センター青空」がその拠点となっている。市民活動センターの運営は、センター開設時に市とNPOの代表者との協議の結果、NPOの活動支援を行うことを目的にNPOの代表者等により組織された「NPO法人うベネットワーク」が運営を担当することになった。市では市民活動センター運営助成としてセンターの運営について補助を行うほか、職員を対象とした研修会、NPOとの意見交換会等を開催している。
 また、NPO・ボランティアを含む市民活動を推進するための基本方針を平成15年度に策定する予定となっている。
 
2. 宇部市における協働
■防災意識の高まり
 平成11年9月、山口県下で高潮により床上浸水2,506戸、全壊80戸という大きな被害を引き起こした台風18号被害の後、ボランティア団体やボランティア活動を支援する団体が県内でも数多く組織されていった。また、台風18号による災害を契機として市民たちの防災意識が高まったことは、NPO設立への大きなきっかけとなり、法人格を取得して防災活動を行うNPOも多く生まれた。
 
■NPOとの連携
 市では、災害に対するには、市民の防災意識を高めること、ボランティアのネットワークづくり、行政・市民・専門家などが一体となった組織づくりが必要であるとしている。
 平成12年2月策定の「第3次宇部市総合計画」の中で、「未来を拓く生き生きとした人と地域づくり」を施策の大綱として掲げ、その中で「ボランティア・NPO活動の振興」を挙げており、(1)活動意識の醸成のための意識啓発、(2)活動拠点施設の整備、(3)ボランティア・NPO相互のネットワークづくりといった点からの支援を行うこととし、NPO法人「防災ネットワークうべ」と協働し、「災害に強い宇部」を創り上げていくことを目指した。
 このNPOの設立には市職員が個人としてかかわっている。また、設立当時から「防災ネットワークうべ」が市の防災会議などに出席し、市と共に学び育っていった。
 
■「防災ネットワークうべ」を中核とするネットワークの構築
 市は防災ネットワークうべを中核として、他のNPO団体とも連携し、充実した防災ネットワークづくりを進めている。例えば、山口レスキューサポート・バイクネットワークは、オートバイを使って震災時の情報活動や救援活動を支援するもので、災害時には市と防災ネットワークうべの要請による指示によって活動する実働部隊である。
 市では、「防災ネットワークうべ」と協働で、(1)市民防災セミナー、(2)宇部市災害ボランティアコーディネーター・リーダー育成研修会などの事業のほか、防災訓練を行っている。
 市としては、これらの住民を対象とした事業を通して防災ネットワークうべが持っている専門知識を吸収・共有することができ、市の防災行政にフィードバックすることができたことを評価している。
 
市民防災セミナーの概要
 第1回市民セミナーを平成12年11月20日から4日間開催し、市民45名が参加した。
●1日目 「災害、宇部は少ないよね?」(講師:宇部市防災課・弘中秀治)=宇部市の災害史を学ぶ。宇部市で過去最大の被害をもたらした昭和17年の周防灘台風高潮災害と、当時市民の関心が高かった平成ll年の台風18号高潮災害について、その経過や発生原因について学んだ。
●2日目 「地震、あなたの家は大丈夫?」(講師:山口大学工学部・村上ひとみ、建設設計事務所・岡村精二)=地震に耐える木造住宅の仕組みや室内の安全対策を学び、わが家の耐震診断をやってみようということで、各自に自宅の平面図を書いてもらい、計算してわが家の耐震度を実感してもらった。
●3日目 「ボランティア、私たちにもできる」(山口県ボランティアセンター・村林康彦、宇部市ボランティアセンター・佐々木隆夫)=台風18号高潮体験と阪神・淡路大震災の体験や災害ボランティアの光と影について学んだ。
●4日目 「防災、みんなで考えよう」(防災ネットワークうべ理事長・三浦房紀)=参加者全員に災害体験や防災について考えること、このセミナーに参加しようと思った動機や感想について一人ひとりに話してもらった。
 
■NPOへの支援は行わず、相互に意思疎通を図りながら協働する
 市は防災ネットワークうべに対して、補助金の交付等の支援は行っていない。イベント等を依頼し委託料を支払っている場合もあるが、原則としてNPO独自の自主性、自立性を尊重しながら協働事業を実施していくというのが、市の基本的な方針である。
 企画・運営については、NPO法人の専門的な知識やノウハウを発揮して、行政では発想できないユニークな企画を防災ネットワークうべに担わせ、また、事業を実施する際は、市は事業の目的や考え方を提示し、これに対して防災ネットワークうべも自らの考えや、運営面での課題などについて提示し、検討する時間を十分にとり、意思疎通を図りながら、お互いの役割分担を明確にし、運営面の課題等も解決する等、スムーズな事業運営に努めている。
 また、市職員が防災ネットワークうべに参加し、共に考え協力しているのも特徴的である。
 
3. 課題と今後の展望
■NPOとの協働は成功
 宇部市は、「防災ネットワークうべ」との協働事業について、地域の防災力を高めるという当初の目的は徐々に達成されつつあると考えており、今後も同様のスタンスでの協働を続ける予定である。
 
■各団体間の交流促進により市民活動の活性化を優遇
 災害が起きたときに最も大切なことは、素早い状況把握、各団体の得意な活動内容の把握、適切なボランティアの配置である。そのためには、横のネットワークを充実させることで、「顔の見える関係」を構築させていかなくてはならない。市では、普段から各団体が他の団体の活動内容を把握でき、情報を効果的に流せるシステムづくりを急いでいる。
 社会福祉協議会や防災関係部署には、市民の膨大な情報が入ってきており、これらの情報を市の広報誌だけでなく、研修やイベントなどを介して市民に情報提供することも重要である。
 また、市内にはレスキューバイクネットワークやアマチュア無線奉仕団など、災害発生時に活動できる体制は整いつつあるが、住民にどのように伝達していくかという課題も残されている。その一つの解決策として、平成14年10月からコミュニティFM放送を利用した防災情報番組を毎週1時間放送し、各団体の内容について広く住民に紹介している。
 
■地域の防災組織の立ち上げの促進
 防災の基本は「自助・公助」である。公助は自治体など公共機関の役目として、自助は個人や地域に託されるべきものである。そのために市では、各校区に出向き住民との話し合いをもち、自主的な地域防災組織の組織化の推進やキーパーソンとなる人の発掘を心がけている。具体的には、各校区における自治会長等の会議で自主防災の必要性・重要性を説明し、自主防災組織の結成を促すとともに人材の発掘を行っている。
 現在、市内には、約70の自主防災組織が設立されており、防災ネットワークうべを中心としたネットワークの構築が急がれている。
 
NPO法人「防災ネットワークうべ」
 防災ネットワークうべは、阪神・淡路大震災や台風18号の高潮被害など自然災害の恐ろしさ、ボランティアの重要性、正確な情報の必要性などを訴えていた大学教授を中心に14名の賛同者で立ち上げ、平成12年11月にNPO法人として山口県から認証されている。
 防災ネットワークうべは災害発生時にボランティア活動を直接行うという団体ではなく、各団体の育成とサポート、ネットワーク化を目的としている。
 設立時のメンバーは、地元地方紙、建築事務所、海難防止関連会社の社員、キャンプ協会、ユネスコ協会、赤十字アマチュア無線奉仕団のボランティア活動リーダー、社会福祉協議会職員、市職員(防災課、消防局本部)、市会議員、大学教授など、さまざまな分野からメンバーが集まっている。







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