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4. 訪問看護サービスを利用した在宅での看取り
(1)在宅で看取ることになった理由(遺族調査より)
 遺族調査によれば、訪問看護を利用し在宅で看取った遺族にとって、在宅で看取ることになった理由は次のとおりである(複数回答)。
 (1)本人が望んでいた78.4%、(2)家族が看取りたいと思った68.9%、(3)入院を考えていたが結果的に在宅死となった13.5%、(4)突然なくなった12.2%など。訪問看護師の支援が、「在宅で看取る決意に影響した」と回答した介護者の比率は87.7%である。
(2)介護の状況(遺族調査より)
 死亡者本人の死亡時の年齢は、「80歳代」36.5%、「90歳以上」36.5%であった。介護が必要になってから死亡までの期間は、「1年未満」49.3%であった。
(3)介護者の不安(遺族調査より)
 在宅の看取りを行った介護者が持っていた不安、及びその不安が訪問看護師の説明や支援で和らいだか否かを示している。不安を持っていた介護者は多いが、訪問看護師の支援が不安解消に役立っていることがわかる。
 
表4 介護者の不安
  不安を持っていた
介護者の比率
不安を持っていた人の中で、
不安が訪問看護師の説明や
支援で和らいだ人の比率
症状がどのように進行するか 81.1% 85.0%
終末期に現れる症状への
対処方法
79.5% 84.5%
急変時の対応 74.3% 84.6%
臨終のときにすること 73.2% 78.8%
本人の苦痛への対処 64.7% 84.1%
介護技術 51.4% 89.2%
医療機器などの扱い 34.3% 91.7%
 
 訪問頻度はケースによる違いが大きいが最後の1週間は、夜間・深夜・早朝の訪問も含め集中的なケアがなされるケースが多い。
(4)訪問看護師による臨終の予測(利用者調査より)
 利用者調査によれば、在宅死亡者の臨終時期の予測結果は、臨終の時期が「ほぼ予想どおりだった」58.1%、「予測できないほど突然の死亡だった」14.0%、「予測より早かった」22.6%、「予測より遅かった」5.4%であった。
(5)訪問看護師の臨終への立会い(利用者調査より)
 利用者調査によれば、在宅死亡者のうち、訪問看護師が臨終に立ち会ったのは33.1%であった。
(6)グリーフケア(利用者調査、遺族調査より)
 利用者調査によれば、在宅で死亡した遺族のほとんどに何らかのケアを行っており、「特に何もしなかった」のは3.1%に過きない。グリーフケアの形態別にみた実施率は、(1)訪問が88.5%、(2)電話が52.1%、(3)カード・手紙が24.0%、(4)遺族会が11.5%であった。
 
5. 看取りの場所選択に影響している要因及び看取りの満足感
(利用者調査より)
 死亡前1ヶ月間の主治医往診の有無別に在宅死亡の割合を見ると、往診が「あった」場合は75.0%、「なかった場合は」28.0%であり、大きな差がある。主治医の往診が得られるか否かが、在宅の看取りの可否に影響していることがわかる。
 遺族調査によれば、在宅で看取った介護者は、在宅で看取ったことについて「在宅でよかった」との回答が98.6%であり、「入院させたかった」は1.4%に過きない。心残りがある人でも、在宅で看取ったこと自体は満足していることがわかる。
 
6. 訪問看護ステーションが終末期ケアに取り組む理由とケアの目標
(1)終末期ケアのニーズ(管理者調査より)
 管理者は、終末期ケアに積極的に取り組む理由として、まず、次のような終末期ケアのニーズがあることをあげている。
(1)「死ぬまで住み慣れた家で暮らしたい」という人が多い。
(2)病院から「家に帰りたい人を受け入れてほしい」との要望がある。
(3)家族に家で介護、看護をしたいという気持ちがあっても、不安が大きいので支援が必要である。
 訪問看護師になった時は、特に在宅の看取りに関心があったわけではないというスタッフは少なくないが、そうしたスタッフも含め、実際に在宅における終末期ケアを経験する中で、充実感と自分が成長できるという満足感があり、今後も続けたいと考えている。
 
7. 終末期ケアを阻害する要因
 訪問看護ステーションがあげた、ケアを断念した理由は次の通りである(複数回答)。
 「介護力不足」57.4%、「訪問看護の対象としては病状が重篤であった」22.1%、「利用者宅から訪問看護ステーションが遠い」19.4%、「終末期ケアができるほど訪問看護師がいない」16.9%、「在宅で看取りのできる医師を紹介できない」23.8%など。
 
8. 訪問看護師が行っている終末期ケア(管理者調査より)
(1)終末期にいたるまでに行っていること
(1)死に直面している本人の思いを受け止め、最期を迎えるに当っての課題を解決するための支援をする(社会的な終止符を打つための支援)。
(2)家族の思いを受け止める。
(3)家族が死を受容するための支援。
(4)家族の不安を解消するための支援。
・家族の不安を理解し、安心して介護ができるようにする。
・現在の状態、今後起こりうる症状とその対処法を説明する。
・緊急時にいつでも対応すること、及び連絡方法を説明する。
(5)安楽のための支援。
疼痛コントロール、排便コントロール、水分補給など(指導及び実施)
(6)医療的処置。
(7)介護負担を減らすための支援。
・ヘルパーの導入
・ヘルパーとの連絡調整
・福祉機器の導入
・ショートステイ利用や一時的入院の調整
・親族の介護参加の支援・調整
(8)本人と家族が楽しいひと時を過ごすための支援。
・外出(結婚式や会食への出席、墓参り、温泉旅行、ドライブなど)できるよう、医療機器の手配・調整等をする。
・外出時の付き添い(保険外サービス)。
 
(2)終末期に行っていること
1)近い将来(数日間から3週間以内)の死が不可避と判断される状態になってから訪問看護が開始される場合
(1)主治医から本人・家族にどう説明され、関係者がどう理解しているかを確認する。
(2)短期間に信頼関係を作り、ケアの方針を見出す。
2)老化と疾病があいまって、要介護状態が長期にわたり、長期の訪問看護の延長線上で終末期ケアを行う場合
(1)死期を予測する。
(2)家族・介護者が死を受容できるよう支援する。
(3)臨死期の医療的介入や看取りの場所を家族が納得し選択できるよう支援する
(4)親族や近隣の人の理解が得られるよう支援する。
(5)家族の意向を主治医に伝え、同じ方向で支援ができるようにする。
 
(3)臨死期に行っていること
 家族が在宅で看取るという結論が出た場合、次のことを行う。
(1)家族に呼吸停止に至るまでの状況、死亡の確認の仕方を説明する。
(2)主治医(または代行できる医師)の所在と連絡方法を聞き、医師による死亡確認ができるよう段取りをする。
(3)家族だけでは不安な場合、その他必要な場合は臨終に立ち会う。
(4)死後の処置の仕方についての希望を聞き対応する(指導あるいは実施)。
 
(4)遺族へのケア
(1)お悔やみ訪問。
(2)遺族に手紙を出す。
(3)気になる遺族には、電話で様子を尋ねる。
(4)立ち直りの支援(つらい気持ちを表出するための遺族会を開催する、人や場を紹介するなど)。
 
9. 終末期ケアにおける医師、ホームヘルパーとの連携
 病院などから、在宅における主治医がまだ決まっていないケースの訪問看護を依頼されることは少なくない。その場合、ステーションが医師につなげることが多い。
 本人・家族が在宅死を希望しても、主治医がそれに対応する状況にない場合は、本人・家族の希望をかなえることはできない。そこで管理者は、終末期ケアにあまり前向きでない医師に対しては、ステーションが緊急時の対応をし、医師に連絡をするなどして、医師の負担を軽減できることを説明する。ステーションとの連携による在宅の看取りを経験した医師が、在宅の看取りに積極的になる場合もある。
 終末期にある人や、その家族の気持ちを理解し、適切な対応ができるホームヘルパーはそう多くはない。終末期にホームヘルパーの援助が必要な場合は、そういうホームヘルパーを指名で依頼することが多い。
 訪問看護師をはじめ多様な職種が参加する終末期ケアの事例検討会に参加すると、ホームヘルパーは確実に力を付けていく。適切な研修があれば、終末期の利用者に対応できるホームヘルパーはもっと増える可能性がある。
 
10. 今後の課題
 日本では、終末期を在宅で過ごす、あるいは在宅で看取りをするための支援体制は極めて不十分である。在宅における終末期ケア体制の整備は、喫緊の課題といえよう。
 訪問看護ステーションは、医療と介護、病院と在宅、医師と利用者、介護職と利用者等の間をつなぐ役割を取るのにふさわしい位置にある。訪問看護ステーションが終末期ケアに取り組めるように、在宅における医療処置の範囲の拡大、管理者研修、終末期ケアが担えるホームヘルパーの育成・確保、終末期に積極的にかかわる医師の確保等が必要となる。







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