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はじめに
 
 廃棄されたFRP製船舶(長さ6m前後のプレジャーボート)の大半は、河川、海浜の堤防(護岸)の外又は、島影に半没状態で放置されており、これらは、台風による高潮及び地震による津波により、周辺へ打ち寄せ、被害の増大の元凶と成る事は容易に推測される。
 
 現在は、これらを水辺から堤防を越えて重機により引揚げ、クレーントラックにより積み込みの後、集積地へ搬入し、集積地で重機により粗破砕している。
 
 本研究開発事業は、此等の重機の使用に寄らずして廃棄されたFRP製船舶を粗破砕する手だてを開発する事により、廃船処理の実効を上げることを主目的とした。
 
 この目的は、切断機を携行する作業者が水辺に容易に侵入できる軽量且つ、スリムな構造の切断機であり、安全面に就いても充分考慮(三重の安全装置等)され、水辺での船体切断時に護岸等に損傷を与えない水のみによるジェット仕様(2000kg/cm2)とする事が出来、1米四方程度の板状(10kg程度)に切断する事が容易に出来るのでこれらを人力により堤防を越えてトラックに積込む事で達成された。
 
 経済効果については、産業廃棄物処理業者のFRP廃船の引取り価格は、容積単価により決められている。
 
 よって、FRP廃船を板状程度に裁断するれば、1/4以下の容積となり、これに伴い運搬経費も1/2以下となる事が予測される。
本研究開発機器のイニシャルコスト及びランニングコストが、従来の重機及びクレーントラックのイニシャルコスト及びランニングコストの倍のコスト(数量効果等を勘案)で有ったとしても、産業廃棄物処理業者へのFRP廃船の産業廃棄物としての処理経費は、1/2以下となる事が予測される。
 
 最後に本研究開発に当たっては、熱心なご協力とご指導を頂きました研究開発委員の方々並びに中部運輸局の方々にこの場を借りて感謝致します。
 
 また、当工業会の研究開発事業に対しご理解を頂きご支援を賜った日本財団に心から御礼申し上げます。
 
平成15年3月
社団法人 東海小型船舶工業会
会長 渡邊眞男
 
1. ポータブル超高水圧ジェットFRP船体切断機の開発報告
 
1.1. 開発方針
 平成14年度事業としてのポータブル超高水圧FRP船体切断機(以下『ジェットガン』とする)の開発は、昨年度事業での結果を基に、新たに開発目標を設け、ジェットガンの改良を行った。
 主な方針としては、ジェットガンを携行する作業者が、作業者の足場を確保できる場所であれば、如何なる場所、例えば、河川などの水辺にある半没FRP廃船をも切断処理できることを意図して開発を行った。
 
1.2. 開発目標
 今年度事業においての克服すべき課題、達成レベルは以下のとおりである。
 
No. 課題 達成レベル
1 人力で持運び、分解組立てが可能で船体の特異な形状に対してでも安定したノズル移動を行なえる道具であること。 ・組立て質量10kg以下 ・5トン未満の船体厚さ30mm以下の部位で速度1.2m/min.可能なこと ・船外側から施工し、切断必要長さの95%以上適応可能
2 水の飛散を止め、かつ安全に作業が行なえること。 ・飛散物が作業者を直撃しない。 ・噴射ノズルが船体側を向いてなければ噴射できない。
3 騒音と研磨材の飛散を抑える ・切断時の騒音85dB以下を目標とする。
4 高圧水供給ポンプを含む工作車の構想設計 ・4.5tトラックに、1隻の処理に必要な全ての機材を搭載可能とする。
 
 課題を克服する為、以下の開発コンセプトに従って開発を進めた。
 
1.3. ジェットガン開発コンセプト
(1)環境に優しいこと
 昨年度事業の結果より、研磨材を使わずに、水のみの切断であっても十分な切断能力がある事が分った。ノズル径φ0.75、圧力245Mpa(2500kg/cm2)の条件で、切断速度1.2m/min以上が可能である。
 
(2)軽量であること
 作年度試作機からの改良点として、駆動装置及び、制御機器を取外し、人手により携行するスタイルに変更した。これにより、ジェットガン重量は10kgから約7kgへと軽量化することが出来た。また、作業者が握るグリップ部にも配慮を行い、長時間作業を行っても疲労が少ない設計とした。
 
(3)船体の特異な形状に適応可能であること
 人手により、船体の形状に追従させるスタイルの為、より作業の自由度が増すこととなった。船体のいかなる部位、形状においても追従可能である。
 また、切断動作を安定させる為、ジェットガンの先端、ウォーターノズルの前方に「ソリ」を設けた。ソリを船体に押し当てることによって、ウォーターノズルと船体との距離が固定され、安定した切断を行う事が出来る。
 
(4)高圧水の噴射を任意にコントロールできること
 ジェットガンのグリップ部にスイッチを設けた。このスイッチは高圧ポンプのドレンバルブ(セーフティセレクタ)と連動し、作業者の任意のタイミングで、高圧水の噴射、停止が行える。
 
(5)安全な作業を行えること
 前述の「ソリ」に安全スイッチの機能を持たせる事とした。
 ソリを船体に押し当てる際にソリをストロークさせ、そのストロークを検知することによって、ジェットガンが船体と接触しているかどうかを判定する。
 安全スイッチはドレンバルブと連動し、ジェットガンが船体と離れている状態では、高圧水の噴射が行えなくなっている。
 また、ジェットガンのグリップ部付近にセーフティーロックを設け、(4)のグリップ部スイッチの誤動作をブロックする。







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