貞明皇后・高松宮をしのぶ会
―群馬・栗生楽泉園―
平成十四年度の「貞明皇后・高松宮をしのぶ会」は、同年十月二日、藤楓協会総裁寛仁親王殿下に代わって同妃信子殿下をお迎えして、群馬県吾妻郡草津町の栗生楽泉園で開かれました。
台風一過の秋天に恵まれたこの日、藤楓協会、厚生労働省、県、地元草津町など関係者多数出席のなか、式典で信子殿下は、各地の療養所で入所者とゲートボール、あるいは音楽など通じふれ合いの機会を持ったが、「今後も、入所者がいろいろ外へ出ていかれるよう機会を作ってあげられたら、と思っております」とのべられました。続いて療養生活向上、ハンセン病啓発などの功労者に対する総裁宮表彰が行われ、五人(別掲)の受賞者に信子殿下から感謝状と記念品が手渡され、また名誉総裁高松宮妃喜久子殿下からのお見舞品も入所者、職員代表にお贈りになりました。
このあと、高原厚労省健康局長、小寺県知事ら来賓のあいさつがあって式典を終了。
第二部の入園者とのふれ合いでは、地元有志による、「草津民謡」、「和太鼓」、「大正琴」などの演奏が披露され、打ちとけた妃殿下、笑顔の入所者たち、みんな一つになっての楽しいひととき。やがて、一たん退場される妃殿下は、入園者一人ひとりに優しく言葉をかけながら握手されておりました。
入所者を励まされる信子殿下
総裁宮表彰で感謝状授与
午後は第一病棟の入室者お見舞い。妃殿下は午前と同じく一人でも多くと入室者の手を握り、肩を抱くようにして慰めと励ましのことばをかけて回りました。入室者の中には親近感あふれる妃殿下のお心遣いに感激のあまり「信子さま!」と呼ぶ情景もありました。
このあと納骨堂にご供花、古い青年会館を改修してできた資料館を、東園長の説明をお聞きしながら見学するなど園内の施設をご覧になって、中央会館南側に記念植樹(アララギ)されました。
妃殿下のお手元を見守るように囲んだ入所者たちとひとときふれ合い、ここでも妃殿下は入所者におことばをかけ、この中には園内の古びた一軒屋に六十年近く暮らす亡命ロシア人、コンスタンチン・M・トロチェフさん(七三)の姿もありました、祖母がトルストイの『戦争と平和』のモデルといわれる名門『ロストフ家』の縁戚に当たり、革命で二人の娘を連れて極東に逃げ延び、ハルビンで興行していた日本の奇術団に拾われて一九三七年三月、下関へ。草創期の日本映画初の外国人女優だった長女エカテリーナが母だそうです。その後渡米した母とは大平洋戦争で引き裂かれ、横浜にいた十二才のときに発病したトロチェフさんは一九四六年、強制疎開地だった軽井沢から栗生楽泉園に送られ、孫を案じた祖母と同居。祖母と息子を米国に引き取る準備をしていた母もガンのため四十九才の若さで亡くなり、失意の祖母も一九六六年六月、八十三才で病没、草津の町立墓地に。トロチェフさん三十八才のときでした。以来、天涯孤独、木漏れ日の射す部屋の棚に飾られた美しい母、祖母の写真と、八匹の猫と暮らしているそうです。
納骨堂にご供花
第二部で地元婦人が踊りを披露
この数奇な運命をたどったトロチェフさんに妃殿下はいたわるように話しかけられ、藤田自治会長にも、またお会いできる日を、と手をお振りになりながら園を去っていかれました。
総裁宮表彰を受けられた方たち(敬称略)
中沢 敬(草津町町長)、関米一郎(群馬県視覚障害者福祉協会会長)、大滝宣隆(安中歌謡教室代表)、大塚啓栄(益子焼窯元代表取締役)、中谷千代
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