日本財団 図書館


はじめに
 近年では各種授業を始め色々な機会、様々な場所で、実学講習や体験学習が取り入れられつつあります。そうした影響を受け水族館や動物園では、入場者に対して自然にあるがままの生物の姿を見せようとしています。その一手法として、タッチングコーナーやナイトガイドを設けるということも行われています。しかし多くの場合その性格上、学問の延長線上にあり、水族館のタッチングプールなどでは、プールの上から両手で触るという範囲にとどまり、かたくるしさを感じるという意見もあります。
 一方、首都圏のこども達は、海辺に行っても海の生物を見ることは稀であるし、ましてふれあう機会は極めて少ない状況にあります。海岸で仲間達と全身を動かして遊ぶ機会や、海における四季を感じる機会も極めて少なくなっています。それゆえ鮫肌や鱗はどのようなものなのか、タコの吸引力とはどのようなものなのか、言葉や知識として知ってはいても、実感として掴めない時代になっています。
 そこで、次世代を担うこども達に、サメやタコ、カニ、ヒトデ、ヒラメを初めとする多彩な海の生物に自由に触れ合ってもらう場を与えたいと考えました。
 全身で魚を追い掛け回し、魚たちに触れることで、魚ごとに異なる肌の感触や重量感、泳ぐ速さがそれぞれの個体によって異なることを知る。蛸のヌルヌルを感じ、漁師さんにそのわけを聞く。蛸を抱きかかえることにより、足の真中に口があることに気づいたら、その不思議を博物館の館長さんに尋ねる。スタッフのひと達が色々なことを、やさしく丁寧に即座に教えてくれる。そんなすばらしい海辺の生物とのふれあい教室を設定いたしました。
 当日は、海の生物を漁業者などから譲り受け、横浜市・臨港パーク「潮入りの池」に放流し、普段余り接する機会の少ない漁業者や博物館元館長を始め海の生物に詳しいスタッフなど、実学の師を交えて、参加者自身が魚や貝に触ってみる。さらには身近な魚たちの話や東京湾や相模湾のこと、漁業のこと、海の不思議について説明していただき、魚の解剖を見学したり、磯の生物の観察の仕方について教えてもらうなど、幅広い海の環境教育の場といたしました。
 こうした体験を通じて、こども本来ののびのびとした感性の中から、自然(海)に対する興味を湧かせ、小さな生物に対しても大きな愛情を感じてもらえれば、きっと海の環境保全の重要性や命の大切さを考えるきっかけとなることと思います。
 本年度は8月から10月にかけて、一般公開のものを1回、横浜市内の小学生(小学校)を対象としたものを5回「海辺の生物ふれあい教室」を開催いたしました。
 子どもたちの指導にご協力いただいた漁業者・教育専門家・自然保護グループの方々、後援をいただいた水産庁・環境省・全漁連、会場として様々な便宜を図っていただいた(株)パシフィコ横浜など多くの関係者のご協力により、本事業を大勢の参加者を得ながらも無事故で、海の環境保護や海の生物に対する関心を深めてもらう場とすることができました。この場を借りて関係者の皆様には心から厚く感謝申し上げます。
 最後になりましたが、今回この事業実施をご支援くださいました日本財団に対して、深甚なる敬意を表すとともに厚く御礼申し上げます。
 
平成15年3月
社団法人 漁村文化協会
理事長 宮原九一







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