■代表者に訊く
清水 国明さん
●NPO法入明日飛子ども自立の里代表
●団体の特徴
この仕事に就く前は、夫婦ともども「ねむの木学園」で働いていました。昔から、田舎で大家族で子供を育てたいという思いがあって、たまたまその頃ねむの木学園を辞めた2つの家族と思いが一致して、田舎で暮らそうということになりました。それで、全国の農村50箇所に手紙を書いたところ、最初に返事をくれたのがここ鮫川村の村長さんでした。さっそく現地視察に行って、村長さん直々に村内を案内していただき、鮫川村を気に入りました。そして、1988(昭和63)年に「ふるさと留学 竹飛歩(たけとんぼ)」を始めたわけです。最初は不登校だからあずかるということはしていませんでした。今で言う「山村留学」の走りで、当時としては珍しかったこともあって、最も多いときは1年に41名もあずかったこともありました。ただ、そうなると、もう家族ではなくなってしまい、これでいいのかなと思うようになりました。
転機は10周年記念のパーティーを東京で行ったときに訪れました。やってきた卒業生の4割はフリーターをやっていて、目的を持たず、成り行き任せで時代に呑み込まれて生きているように思え、大人の不甲斐なさも感じました。そのとき、不登校に対する見方も変わりました。彼らはきちっとしているからむしろ風当たりが強く、つらい思いをしなければならないのではないかと思うようになり、それからは不登校生を進んで受け入れるようになりました。その後、3家族それぞれがやりたいことをやろうということで、別々の道を歩むようになり、私の家族は躓いている子供たちに積極的にかかわる道を選びました。そして、自然の真ん中に新しく施設も建て、明日飛学園を立ち上げたわけです。
大広間と食事中の風景・・・女性陣が楽しく会話を交わしながら作った料理はバラエティーに富んでいておいしく、食事中のだんらんも和やかでした。大広間の左側には清水家の部屋、男子部屋、洗面所、トイレ。右側には風呂、スタッフの部屋、女子部屋。 |
鶏舎・・・鶏は全部で700羽いるそうですが、どの鶏舎もスペースはゆったりとしていて、ぎゅうぎゅう詰めの鶏舎とは雲泥の差です。鶏もさぞかし幸せなことでしょう。 |
ここの最大の特徴は大家族制だということです。私の家族6名と一緒に大家族で生活すること自体に、言葉では表せない大きな意味があると思っています。その中で、自分の親のことが客観的に見えてくるようになるし、異なった価値観を持つ家族の中で生活するので、嫌なこともやらねばならず、自然に社会性も養われていきます。
現在は中学生を中心に7名あずかっていますが、そのうち4名は地元の学校に通っています。私は村の教育委員会から委託されてスクールバスの運転手もやっていて、毎日子供たちの送迎もしています。鮫川村の学校は都会の学校と違って、開放的で、のびのび、和気あいあいとしていて、陰湿ないじめなどもなく、とてもいい学習環境にあります。私自身は鮫川中学校の教育相談員も引き受けていて、学校との連携も親密です。
ここは本当に自然の豊かなところで、さまざまな自然体験ができます。それから、地元の人たちに教えてもらって田んぼも一緒にやっています。畑もあります。自然養鶏もやっていて、ここの卒業生が専属のスタッフになっています。良質の卵は一個40円もしますが、地元の人々にも喜んで食べてもらっています。地元の人に炭焼きを教えてもらったり、林業体験をさせてもらったりすることもあります。地元の人は大変好意的で、「竹飛歩」時代からいろいろなことで協力してくれ、とてもいい関係ができています。子供たちは道で声をかけられたり、学校の帰りにお菓子をもらったり、自然体験をさせてもらったりして、地域の人たちに温かく見守られています。私は当初「豊かな自然が最大の教師だ」と思って鮫川に来たのですが、ここで生活してみてつくづく温かい地元の人々によってここの子供たちは育てられているんだと感じています。
このように豊かな自然とそこに暮らす温かい人々との交流も明日飛学園になくてはならないものとなっています。
富山県にある北陸青少年自立援助センター( 「はぐれ雲」P174参照)の代表をしている川又直さんとはよく連絡を取り合っているんですが、私も青少年の自立ということを意識して今年の8月に「NPO法人 明日飛子ども自立の里」を設立しました。来年度はボランティアスタッフも4名増やす予定です。新しいスタッフと共に、また鮫川村の人々と力を合わせて青少年の自立を目指し、地域性を生かした取り組みをしていきたいと考えています。
●卒設の基準
基本的には本人が「出たい」と言ったときが卒園です。ただし、本人の事情からみて、明らかに適当でないときには引き止めることもあります。
●年代別目標
[10代]「社会の中で自由に生きていく」ことが基本的な目標です。学校へ行きたいと思っている子には、なるべく学校へ戻してあげたいと思いますが、個々によく考える必要があるのではないでしょうか。学校に通っていない子には、自分探しというか、良い自分に出会えるようになり、自己否定から解放させてあげたいと思っています。その他にも、ここにはコンビニエンスストアもありませんし、大家族の中の不便さを体験してもらいたいと思っています。[20代]同上。[30代]同上。
●施設における自立の定義
自己の束縛から解放され、自分の可能性を信じて自由を取り違うことなく、自由に生きていけることです。人に迷惑をかけてしまう場面があるのは仕方がないことではありますが、それを取り返すことができるというのが自由な生き方ではないでしょうか。
●在籍生の就職状況とその支援体制
この近辺でできるのは林業、建設・建築業などがあります。都会や地元での就職先は自分で見つけてもらうしかありません。工藤さん(NPO法人青少年自立援助センター理事長)の言うように、ホップ、ステップ、ジャンプの三段階で育て上げるルートを創っていきたいと思っています。来年から来ることになっているボランティアの一人には、養鶏でそのようなことをしてもらいたいです。卒園生の就職先は非常に様々です。
●在籍生のアルバイトの可否・その状況と支援体制
アルバイトをすることには賛成です。子供が思っているより、働いてお金をもらうのは大変なことです。ここには都会のようにコンビニエンスストアのような定番アルバイトはありません。村内の土木業や農業などならば、アルバイトは可能です。
●作業(有償/無償)の有無・その内容と状況
養鶏の仕事はありますが、家族としての役割を担うことに主眼をおいていますので、すべて無償というより、それをやって当たり前と考えています。
●教科学習の必要性とサポート体制
男子3人は現地の学校に通っています。この地域の学校には陰湿ないじめなどはなく、明るくて、とても良い環境にあります。不登校の子が勉強したくなると、たいていはこの地域の学校へ通うことになります。
●在籍生の心理的サポート体制
家族の中で親代わりが二人います。お姉さんもいます。非常に家族的な関わりがここにはあります。また、必要に応じて、心理カウンセラーが子供たちと関わりに来てくれます。
●外部医療機関との連携
学園のホームドクターが近くにいます。緊急時にも対応をしていただいています。その他にも、保健所長にもいろいろ相談できる関係にあります。
●在籍生の保護者へのサポート体制
保護者には、「親戚」をあずかるつもりでいるので保護者とも親戚付き合いをしたい、と言っていて、言いたいことはしっかりと言える関係を作っています。また、年二回の泊りがけの親子行事をやっていますし、特別な日以外はいつ来てもらってもいいことになっています。
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