蔵王いこいの里を実習して
星野佳美
10月6日から9日まで、山形県上山市蔵王山にある蔵王いこいの里にて3泊4日の実習をさせてもらった。いこいの里は、かみのやま温泉駅からグリーンエコー号という循環観光バスに乗って約30分ほど山奥に入っていった、大自然の中にある。東京に比べかなり寒く、いこいの里自体はかなりただっ広く、この時世の不況のため観光客やスキーヤーもかなり減ったということで、はじめはなんだか寂しい感じがした。そのうえ子供は7人で、グループの相互作用があまり成り立たないのではという懸念があった。しかしここのスタッフの人たちは、「その時々によって違い、いろいろあるんですよ。こどもたちも多くちゃ多くてたいへんですよ、目が行き届かなくて。」と、どっしりとかまえていて個性的な人達だった。スタッフのメンバーは7人で、その内ボランティアが2人、山荘と食堂を経営しているため、主にその業務をしている人が3人と、両方を兼務しているのが支配人の岩川さんと、肝っ玉母さん風の女性である。(7人中、軽度の知的障害の女性と、里子のOBを2人含む)とにかく少ないスタッフで、広い山荘や食堂、高原野菜の栽培、土地の開拓と大変である。
いこいの里の1日のスケジュールと、今回の参加内容と感想を以下に述べる。
6:15 起床・洗面
6:30 ラジオ体操・ジョギング−大自然の中でのジョギングは気持ちよく確実に目が醒めた。
当番(動植物の世話−犬3匹の散歩、鶏、うさぎに餌やり−7人の子供たちにそれぞれ役割り分担があり、わりと新しい子供は鶏とうさぎの世話で、1年以上里にいて、むらなく散歩できる子は犬の世話である)
掃除・食事準備は現在子供が少ないためスタッフが行う
7:30 朝食
片付け・食器洗い・自室清掃・休憩(通学者は登校するが現在はなし、1名の高校通信制度利用のみ)
9:00 作業、学習(ビバリーヒルズという農園と開拓地での作業−土運び、草取り、ススキ刈り・運搬などを経験−ここでは電動カッターでススキを刈る男子が2名、ススキはバラバラにならないように紐で結ぶ練習を兼ね一輸車で運搬。
2日目は霧でひき返したが、ロープウエイで標高1000メートルまで登り山頂林でのこけ桃とり、ひき帰した後は自習勉強で、危険物取り扱い資格取得の勉強をはじめた子供が3人いた。
3日目はいこいの里ができてからの付き合いというチェリー農園で、ラ・フランスもぎの手伝い、ボランティアであるが地域の人と触れ合えるという点では社会性を身につけるということや地域に根を下ろし、理解につながるという点ですばらしいと思った。また、少々キズのあるラ・フランスをたくさんもらってこれるという利点もある。季節によっては、さくらんぼやりんごのお手伝いもするという。今後岩川さんは、子供の1人を住みこみで雇ってもらえないかなあと考えている。
作業に要する時間が多く、鍛えられているからだと思うが、ここの子供たちは実によく働く。また岩川さんは、ああしろこうしろなど指図はしないが、適格なときに怒ったり、注意をしていた。
過去の作業で、農園のビニールハウス作りと、いこい山荘の大広間のフローリングと壁を直したことあり。
12:00 昼食・片付け・食器洗い・休憩
1:00 作業・学習(日による)
3:30 おやつ・体憩
4:00 当番(動植物の世話)・自由時間
6:00 夕食・片付け・食器洗い・自由時問・入浴(温泉)
9:00〜10:00 就寝
タ食片付け後は、男子は放れの部屋に戻ってしまい、2人の女子もそれぞれの部屋に戻ってしまうため、あまり触れ合う機会がなかったが、スタッフの人といろいろ話せてよかった。2日目の夜、里の過去の写真を見ていたら、2人の男子が寄ってきて、いろいろ説明をしてくれたのには嬉しかった。
そのた:冬はスキー三昧の生活になるそうである。
月に2回ほどは町に用事や買い物に出たり、医者に行く。
月に1回はレクリェーションで釣りに行ったりする。
以下、7人の里の子供たちのことを記しておく。
T:5年以上里に暮らす、自閉症の男子、21歳。こだわりが強く、いつもぶつぶつと独語を言っていて、アニメやTV番組など同じことを繰り返し言っている。ひどいときはその独語が大声になり、自分がいじめられた時の人の名前や会話が出てくる。頑固で一度言ったことは曲げない。作業はまじめで一生懸命する。算数の引き算はできる時とできない時のむらがある。来た当初はウルトラマンに固執していて、うるさく、座っては話すこともできなかったが、現在では落ち着いて自分の意見をしっかりと言えるようになってきた。
Y:はぐれ雲脱走者、里に来て1年と少し。17才。中学から不良、高枝は中退。人がいいので、人に合わせやすく、流されやすい。現在では作業の戦力者で、食堂の手伝いもできる。来年高校受験?バイクが好きなので、工学関係に進みたいと思っている。うざってーよおー、やる気ねーよおーが口癖。
T:はぐれ雲脱走者、不良少年14歳。里に来て4ヶ月。来た当初は目がつり上がっていたというが、だいぶ穏やかな顔になりつつある。Yと2人でつるんでいる。アトピーと食生活が問題。はぐれ雲での生活をいろいろ話してくれた。
*上記の2人のはぐれ雲脱走者には、町が遠い山奥のいこいの里が合っている。
Y:18才男子。里に来て1年と少し。おとなしいが、いろんな大人に依って態度が変わる。脱走常習犯。何度も警察のお世話になる。自分より弱いと思う者をいじめ、上と思う人の前では猫かぶり。
S:私の研修2日目に広島からやってきた。勉強ができ優等生タイプ?小声で何を言っているのかよくわからない。岩川さんいわく、人が話している最中にも全然関係ないことを言ってくるので、人との距離、相手のことが見えていないと。食べ物に嫌いな物が多く、茶碗蒸は食べるまで、3度の食事に出されていた。いこいの里は食べることと寝ることには厳しい。岩川さんは、それが人間の最も基本なことだからという。
M:里に来てまだ1ヶ月の19歳の女子。無気力で、朝は起きてこず、作業もめったに行かない。行ってもほとんど動かず。「やろうよ」、と声かけをしても、「やってるよ」、と。マイペースで人に合わせることができない。来た当初は返事もしなかったが、最近は返事が返ってくる。
M:放れに暮らす23歳女子。自称、対人恐怖症。ほとんどを部屋で過ごし、皆との行動を共にせず。食事も部屋でとる。高校の通信制を取っている。
岩川さんいわく、前は1年ぐらい居たらよくなる子が多かったが、最近の子は違い、よくなるのに時間がかかるそうだ。また、「Yはもう少しだな。Tは今帰ってもまた元に戻っちまうよ。」などの話からは、子供たちの見極めがわかっているので、すごいなあと思った。
最後に、山奥の里の生活は、厳しく、寂しさも感じたが、大自然の中でしっかり自分と向かい合い、又省みる作業をするにはたっぷり時間のあるところだと思った。あるスタッフの言った、「子供自身がしっかりと自分を見つめて、自分自身で代わっていかなければ、そして自分の夢を見つけていかなければだめなんですよ。いくらスタッフが思っていてもね。」と言う言葉が印象的だった。
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