はじめに
石原義剛
海の博物館では、漁業用無動力漁船の実物収集を30年以上つづけている。近年、木造船を造船できる船大工がどんどん少なくなり、後継者もなく、技術継承の可能性も真っ暗闇の状態にあることが懸念される。だから、残された木造船を一隻でも早く収蔵しておきたいが、収蔵庫が満杯でどうしようもなくなりつつある。 2000年度には、木造船が新造される少ないケースとして、祭りやイベントにおける「船競漕」に焦点を絞って、全国調査を行った。その後、引き続き、船大工の実態を把握するため全国的な存在調査を検討した。
2002年初めに日本財団は全国漁業協同組合連合会(JF)の協力を得て、全国の漁業協同組合へアンケートを出すことにより、『木造船に関する基礎調査』を実施し、5月に報告書を出した。アンケートは2820漁協に発送され、1122漁協(39.8%)という高い回答を得たものである。
その調査項目に、船大工の残存数に関するものがある。1122漁協地区で479人が、この時点で残存していることを示していた。
海の博物館では、2002年度に日本財団の補助金を受けて、さらに突っ込んで、木造船をまだ造船できる船大工が、現実にどのくらいいるかを調査することとした。それには、FRP船は造船できても木造船は造れるか。高齢化している船大工がいつまで造船できるのか。後継者はいるのか。などなどの船大工技術継承の可能性を探ることを目的とした。
そして調査の結果、現状で300人くらいの木造船造船可能な船大工がいると推定した。しかし、現実にその内どれだけが造船をすることが出来るかは未知数である上、一年一年と高齢化が進むため、年々目に見えて造船できない船大工が増えて行くのも明白であった。
一年という限られた期限内で、しかも面接聞き取り法による全国調査を試みたため、各地で調査協力者はあったものの、多くの未調査県を作ってしまい、特に、岩手、兵庫、高知、福井など漁業県を残したのは遺憾であった。今後、なんとか追加調査をしたいと考えている。
■調査目的
現時点において、全国に木造船を実際に建造することのできる船大工が、どのくらいいるかを知るための基礎資料を得ることを主目的とする。さらに、船大工が今後、継承されるために、どのような事項が重要になるかを知りたいと考えて調査にあたった。
■調査方法
直接に船大工と面接する「聞き取り」による調査方法を原則とした。そのため各地で木造船に関心をもって研究する博物館学芸員や大学・民具学会などの研究者に可能な範囲で地域の調査を依頼することとした。結果16人の協力を得て実施できた。(協力者名簿☆(1))
調査における基本的な項目の理解のため、初期に、調査基礎カードを作定し、これを持参して各協力者を訪問し(調査カード☆(2)(3))、協力をおねがいした。協力者のない地域に関しては可能な限り石原と安冨が調査に当った。
■調査対象の選択
調査対象とする船大工の選択は、日本財団調査「木造船に関する基礎調査」(2002年)のデータから個人名を借り、また、市町村の教育委員会文化財担当者や水産課などに船大工の所在を尋ね、博物館等ですでに把握しているもの、その他、などによった。
また、本調査では、今後の造船実施をしていきたい意向を考慮して、各調査員に造船可能な人をできるだけ意識して選んでくれるよう依頼した。
■調査期間
平成14年4月より、平成14年12月を実質的な調査期間とし、その後も一部追加調査を行った。
☆(1)
本調査の協力者名簿
(順序不同) |
◆調査者 |
山田 佑平 |
元船大工。「船大工考」著者 |
昆 政明 |
青森県立青森郷土館学芸員 |
赤羽 正春 |
日本民具学会・和船研究会会員 |
高田 博 |
千葉県立安房博物館学芸課長 |
松田 睦彦 |
成城大学 |
藤塚 悦司 |
大田区立博物館学芸員 |
出口 晶子 |
甲南大学文学部 |
出口 正登 |
写真家 |
荒熊 元茂 |
舞阪町立郷土資料館学芸員 |
久保 禎子 |
一宮市博物館学芸員 |
平賀 大蔵 |
海の博物館学芸員 |
織野 英史 |
香川県立瀬戸内海歴史民俗資料館学芸員 |
安冨 俊雄 |
梅光女学院大学 |
野田 佳吾 |
すさみ町立周参見公民館 |
大畑 和代 |
鹿児島県笠沙町・笠沙恵比寿学芸員 |
ジェイムズ・ハフマン |
日本財団広報課 |
石原 義剛 |
海の博物館 |
◆情報提供者 |
西村 美香 |
みちのく北方漁船博物館学芸員 |
成田 暢 |
宮城県石巻文化センター |
佐々木長生 |
福島県立博物館学芸員 |
吉田 哲朗 |
日本財団海洋船舶部 |
小堀 信幸 |
船の科学館学芸員 |
尾上 一明 |
浦安市立郷土博物館学芸員 |
森 拓也 |
南紀海洋生物研究所 |
村上 律子 |
愛媛県弓削町 |
山崎 和文 |
佐賀県立博物館美術館学芸員 |
崎山 孝也 |
和歌山県日高町 |
☆多くの県市町村教育委員会文化財担当者および博物館・資料館学芸員の方々に情報のご提供をいただきました。厚く御礼申し上げます。
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