3.4 地域福祉交通サービスの内容の検討
3.4.1 バス、タクシーのSTサービスへの活用
(1)路線バスの現状
路線バスの利用者は年々減少し、特に地方部はマイカー利用に押されての減少が著しい。近年、車両のノンステップ化、100円循環バス等、バスを利用しやすくする事例は見られる。しかしながら、STサービスとしての活用は難しい。
(2)コミュニティバスの出現
1995年以降急増した。ノンステップの小型車両の導入、停留所間隔を短くする、ドライバーの接客訓練を行う、細街路も運行する、その他地域事情に根ざした工夫がある事例も見られ、STサービスの一部を担える可能性もあるが、(2)の課題のような部分がある。
(1)効果:運行計画と交通財源の支出を開始する自治体が増えた。
(2)課題:バス全体の運行計画の見直し、高齢者・障害者のモビリティ全体の考慮が必要である。
金沢市のふらっとバス
大阪市の赤バス
(3)タクシーの現状
1)一般タクシー(主にセダン)の現状
ビジネスとしてかなり厳しい環境に置かれている。ボランティアの移送サービスに比べて、運賃が高い傾向にある。
2)一般タクシーのSTサービスへの活用
(1)欧米:STサービスに活用されている。欧米の事例をみると、ロンドンでは全ての車両が車いすごと乗車可能であることが義務づけられている。サンフランシスコのランプタクシーは、車いす使用者等の呼出がない時は流しの運行も行っている。
サンフランシスコのランプタクシーは、健常者の利用もある。
(2)日本:欧米の一般タクシーのSTSへの応用に近い形態としては、介護タクシー(ケア付タクシー)が考えられる。
(4)交通システムとしてのタクシー・バスの活用案
(1)行政の借り上げたタクシーの運行
行政の契約により高齢者を低料金で送迎可能。昼間の駅待ちタクシーの活用等により、タクシーの稼働率向上を図ることができる。
(2)バス型タクシー・タクシー型バスの普及
地域のニーズに合わせてバスとタクシー両者の隙間を埋める必要がある。例えば、バス型タクシーとは、ワンボックスタイプ車での乗合タクシー等、タクシー型バスとは、必ずしも定時定路線の運行をしないバスを指し、車両の乗車定員も地域の需要に応じて検討する。
3.4.2 制度、財源の検討
次の視点で検討する。
(1)高齢者・障害者の移動を保障する制度が確立されていない。
(2)高齢者・障害者のモビリティを確保するための財源の検討が必要である。
(3)モビリティを確保するために、地域福祉交通サービス検討の場に交通事業者の参加を促す。
(4)STサービス実施の観点から既存の法制度について検討する。(例えば、NPO、ボランティアが、安全な有償運送を行うための方策等)
(5)車いすを使用したままで乗車できる等のバリアフリー化されたタクシーや移送サービス車両等の導入促進。
3.4.3 交通領域の改善
コミュニティバスは、高齢者・障害者の外出の一部を担うに留まる。また、介護タクシーは要介護認定を受けた高齢者には便利だが、それを受けていない高齢者・障害者にはサービスがない。コミュニティバスについては、どこにどの程度のサービス水準で運行するかは計画上配慮されてきているが、単に市民の足というだけでなく、より重度の障害者や高齢者の足をいかに確保するかも含めて、バス交通全体からのアプローチをより一層重視する必要がある。
次頁の図は高齢者・障害者のモビリティについてバス未満の交通システムの領域を概念図で示したものである。縦軸は利用者便益、横軸は運行コスト、点線枠内がSTサービスの対象領域である。これは、バスとタクシー及び移送サービスの中間の交通が極めて薄いこと、利用者便益が大きく運行コストが低廉にできる交通システムの開発が必要であることを意味する。
リアルタイムの予約で利用でき、ドア・ツー・ドアサービスに近いフレキシブルな運行をしているバス(スウェーデン、英国、アイルランド、フィンランドで運行中)や高齢者・障害者専用のSTSをどのように計画していくかは、関係者が十分な協議をする場が必要である。
図3-1 バス未満の交通
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注:便益:利用者にとっての利便性(ドア・ツー・ドア性等)。
運行予定表の有無と運行形態などの指標により、路線バス未満の交通機関の分類を行うと、下表のようにまとめることができる。この分類に基づけば、フレキシブルな運行を行っているバスは(3)、(4)といえ、(5)の中村まちバスは、狭義にはSTSの受け皿としては特に意識されていないため、デマンドバスとも分類できる。
表3−3 路線バス以下の交通機関の比較
記号 |
サービス名称 |
運行形態
(ルート) |
乗降
場所 |
乗車地点までの
アクセス距離 |
運行予定表
の有無 |
方向性 |
(1) |
路線バス |
固定ルート |
バス停 |
約250m以内 |
あり |
あり |
(2) |
Route Deviation |
固定+迂回注1 |
バス停 |
約250m以内 |
あり |
あり |
(3) |
Flex Route 注2 |
ほぼ自由ルート 注3 |
MP(バス停) |
約150m以内 |
目安の時刻あり |
あり |
(4) |
鷹巣フレックスバス注2 |
完全に自由 |
MP(戸口) |
約10m以内 |
目安の時刻あり |
あり |
(5) |
中村まちバス |
ほぼ自由ルート |
バス停 |
約100m以内 |
なし(リアルタイム) |
なし |
(6) |
STS、タクシー |
完全に自由 |
戸口 |
約2m以内 |
なし(リアルタイム) |
なし |
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注1: |
需要に応じて路線やルート、停留所を柔軟に変更する「デマンドバス」を指す。日本では主に迂回型の路線バスを指している。日本では東急コーチが先例としてあった。現在は東急トランセ(東京)で行われている。 |
注2: |
フレックスバス(Flex Bus)とは、フレキシブルな運行をするバス。経済的な負担の多い高齢者・障害者専用のSTサービスの需要を下げることと一般のバスに乗れない人の利用を目的として、1990年代後半のスウェーデンで開発されたタクシーとバスの中間的な交通(Flex
Route)。フィンランド、アイルランドなど、EUの共同研究が進められている。一種のデマンドバスだが、システムは予約方式(2時間前から15分前まで)で、150m以内の歩行ができる高齢者などを対象とし、ミーティングポイント方式(一種のバス停留所)で乗降する。車両にはノンステップの完全にアクセシブルなミニバス(12〜14人乗り)を用い、郊外住宅地からショッピングセンターと大病院間を4台のバスで結び、出発時刻を決めて30分あるいは60分おきに出発する。日本では、2002年10月に秋田県鷹巣町が初めて実験に取り組んだ。 |
参考: |
DRT(Demand-Responsive Transport):需要に応じて相乗りによる個別化された交通を供給するサービスで、比較的小型の車両(定員4〜20名)を用いた柔軟な経路作成、時刻表作成により特徴付けられる。 |
注3: |
「ほぼ自由ルート」とは、固定ルートと完全に自由の中間的な交通。バス停への呼出で利用する。 |
出典: |
「高齢者に配慮したフレックス型バスの適用可能性とその評価に関する研究」金載  |
東京都立大学、修士論文 |
参考文献:イミダス2003年版 |
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