はじめに
本報告書は、2カ年にわたる事業の「高齢者・障害者向け地域福祉交通サービスの整備方策に関する調査」の初年度(平成14年度)の中間的な取りまとめである。
高齢社会の進展と障害者の社会参加の要請が高まる中、交通バリアフリー法の施行により公共交通機関でのバリアフリー化が進められているところであるが、一方で地域の高齢者・障害者等の移動手段としての福祉交通にも注目が集まっている。同時に、高齢者・障害者等の通勤、通学、通院など日常的な活動の中で、バリアフリーの配慮を行った交通手段の充実が求められている。現状ではこうした地域福祉交通の整備は十分ではなく、日常生活を送る上でも困難をきたしている状況にある人も多い。
こうした状況から、近年盛んに導入されているコミュニティバス、従来からの施設送迎サービス、福祉タクシー、介護タクシー、ボランティア団体、NPO等による移送サービス、さらに従来のバス、鉄道などの公共交通機関の活用を含め、だれもが安心して外出できる社会を目指して、地域福祉交通のあり方を検討する必要性が高い。この中で特に、交通バリアフリー法の付帯決議となったスペシャル・トランスポート・サービス(STS)について、重度の障害のある人等にも対応したドア・ツー・ドアの移動手段であることから、交通システムとして今後どのように整備していくのか検討が必要である。
わが国における地域福祉交通は、概念やその実施方法についてはまだ発達途上にあり、その点ではこうした地域福祉交通についての調査研究は極めて重要なものである。この度は、2カ年の調査の中間取りまとめ的な位置づけであるが、次年度に向けての課題整理、調査研究での取り組みの視点を明確にするための基礎となる成果を取りまとめることができた。
最後に本調査の実施にあたって、この取りまとめの労をおとり頂いた秋山委員長をはじめ、終始熱心にご討議頂いた各委員の皆様、調査にご協力頂いた交通事業者、自治体、ボランティア団体等の方々、並びに事務局としてご協力いただいた株式会社企画開発に深く感謝する次第である。
平成15年3月
交通エコロジー・モビリティ財団
会長 大庭 浩
高齢者・障害者向け地域福祉交通サービスの整備方策に関する調査委員会
委員名簿 |
(敬省略、順不同) |
委員長 |
秋山 哲男 |
東京都立大学大学院都市科学研究科教授 |
委員 |
今橋 隆 |
法政大学経営学部教授 |
〃 |
鎌田 実 |
東京大学大学院工学系研究科教授 |
〃 |
北川 博巳 |
東京都老人総合研究所社会科学・社会医学人間科学系介護・生活基盤研究グループ研究員 |
〃 |
高橋万由美 |
宇都宮大学教育学部講師 |
〃 |
中村 文彦 |
横浜国立大学大学院環境情報研究院助教授 |
〃 |
新田 保次 |
大阪大学大学院工学研究科教授 |
〃 |
藤井 直人 |
神奈川県総合リハビリテーションセンター研究部リハビリテーション工学研究室室長 |
〃 |
山田 稔 |
茨城大学工学部都市システム工学科助教授 |
〃 |
和平 好弘 |
財団法人運輸政策研究機構調査役 |
〃 |
有住 淑子 |
薄金・有住法律事務所弁護士 |
〃 |
黒嵜 隆 |
フロンティア法律事務所弁護士 |
〃 |
阿部 司 |
東京ハンディキャブ連絡会代表 |
〃 |
市川 笑子 |
移動サービス市民活動全国ネットワーク代表 |
〃 |
川村 泰利 |
財団法人全国福祉輸送サービス協会東京支部副支部長 |
〃 |
竹田 謙 |
社団法人全国乗用自動車連合会常務理事 |
〃 |
船戸 裕司 |
社団法人日本バス協会業務部長 |
〃 |
川内 美彦 |
一級建築士事務所アクセスプロジェクト主宰アクセスコンサルタント |
〃 |
兒玉 明 |
社会福祉法人日本身体障害者団体連合会会長 |
〃 |
三澤 了 |
DPI日本会議事務局長 |
〃 |
山本 信孝 |
財団法人全国老人クラブ連合会参与 |
〃 |
井上 博士 |
総務省自治行政局地域振興課課長補佐 |
〃 |
櫛田 泰宏 |
国土交通省総合政策局交通消費者行政課課長補佐 |
〃 |
多門 勝良 |
国土交通省自動車交通局旅客課課長補佐 |
〃 |
松本 功 |
東京都福祉局生活福祉部地域福祉推進課福祉のまちづくり係主任 |
〃 |
安藤 雄太 |
社会福祉法人東京都社会福祉協議会東京ボランティア・市民活動センター副所長 |
事務局 |
高田 実 |
交通エコロジー・モビリティ財団理事 |
〃 |
岩佐徳太郎 |
交通エコロジー・モビリティ財団バリアフリー推進部部長 |
〃 |
沢田 大輔 |
交通エコロジー・モビリティ財団バリアフリー推進部 |
作業協力 |
早崎 詩生 |
株式会社企画開発取締役社会経済部部長 |
〃 |
益森 芳成 |
株式会社企画開発社会経済部交通調査課課長 |
1.1 調査の目的
わが国は急速な高齢化の進展、身体障害者の社会参加の機会増大等を背景に、高齢者・身体障害者の交通手段の確保およびそのための整備が社会的課題となっている。中でも地域住民の生活に密着したバス、タクシーは規制緩和政策による参入規制の撤廃、不採算路線からの撤退等、大きな課題を抱えている。地方自治体によるコミュニティバスの運営の増加、NPO及びボランティア団体などによる移送サービスの増加など、事業を取り巻く環境が大きく変化している。また、2000年5月に制定された「交通バリアフリー法」の付帯決議にも、「障害者・高齢者等の個別輸送としてのSTSの導入及びタクシーの活用」が盛り込まれ、地域の福祉交通としてのSTS(スペシャル・トランスポート・サービス)導入とタクシーの活用を含めた、バス、タクシー事業の地域交通における役割の再検討が迫られている。
本調査では、これまでの既往研究の成果を踏まえつつ、さらに地域社会の交通サービス全体として、福祉交通の必要性と役割、実施のための主体、役割分担、規模など、これまで十分に検討されていなかった点に着目し調査を進める。そのため、高齢者・障害者に向けた新たな地域福祉交通サービスに対する様々なニーズを全体的、個別的に調査し、さらにコミュニティバス、福祉タクシー、移送サービス、STS等の国内外の動向を把握する。また、その実施の仕組みを、運営主体、サービス内容、財源、法制度などの関係の調査から整理し、わが国が採用すべき地域福祉交通の方向性を提示するものである。
本調査で対象とする「地域福祉交通サービス」は、次の交通機関とする。過疎地域の路線バス、都市部のコミュニティバスも視野に入れる。
・高齢者・障害者専用のSTS(スペシャル・トランスポート・サービス)。施設巡回バス、通所型施設への送迎サービス、デイサービスの移送等も含む。
・福祉タクシー、介護タクシー
・路線バス(高齢者・障害者の需要に応じてフレキシブルな運行をしているバス、一部のコミュニティバス等)
(拡大画面:33KB) |
 |
図1-1 調査のフローチャート
1.4.1 平成14年度
平成14年度は、利用者ニーズ把握のための検討、高齢者・障害者の地域福祉交通サービスを検討するうえでの視点を整理し、コミュニティバス、STサービス等の実態を把握した。また、都市部や地方において、地域福祉交通の枠組みを検討する際の課題を整理した。
(1)地域福祉交通サービスの実態把握
我が国の地域福祉交通サービスの実態を、既存資料による実態把握、アンケート調査、ヒアリング調査等により把握した。
(1)コミュニティバス・移送サービス提供の実態(自治体アンケート調査)
地方自治体におけるコミュニティバス、移送サービス等地域福祉交通サービスの実態を把握するため、アンケート調査を実施した。
(2)サービスの提供事例(自治体等ヒアリング調査)
地域福祉交通サービスの提供を行っている自治体、移送サービス団体、タクシー事業者へのヒアリング調査を行った。
(2)地域福祉交通サービスを検討するうえでの視点整理
(1)地域福祉交通の枠組みの検討
発達している国と我が国の政策、既存調査の把握、地域福祉交通を検討するための新たな調査実施の必要性を整理し、次年度調査への足がかりとした。
(2)高齢者・障害者のモビリティ保障の現状
次の視点から整備方策の検討を行った。
・国、地方自治体の障害者・高齢者に対する移動支援の現状
・ボランティア組織、タクシー事業者のサービス提供の現状
(3)地域福祉交通サービスの内容の検討
地域福祉交通サービスのあり方を検討する際には、これまでの交通計画の領域の視点の必要性が高いと考えられる。そこで、現状の路線バスやタクシーのサービスの活用、移動制約者の特性に配慮した交通サービスについて検討した。
(3)地域福祉交通サービスの課題整理
地域福祉交通サービスを提供する際の課題を検討した。
(4)まとめと今後の課題(次年度への論点整理)
平成14年度調査の課題(問題の所在の論点整理)を整理した。
1.4.2 平成15年度
平成15年度は、前年度に抽出した課題を受け、交通事業者、車両メーカー、NPO、ボランティア団体、地方自治体等が直面する問題を技術的、経済的、政策的、理論的側面から明らかにし、地域福祉交通サービスの総合的な推進方策を提示する。
|