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b. 底質分析
【方法】
 底質調査は、舞根湾(St.1のみ)と女川湾竹ノ浦で実験用の筏の直下とその筏周辺の海底で行った。両水域の水深は約10mである。実験用の筏とは、舞根湾では当研究所所有の筏であり、女川湾竹ノ浦では東北大学大学院農学研究科水圏動物生理学分野で所有している筏である。どちらも試験研究用の二枚貝類をおもに篭に収容して垂下している。調査は、舞根湾では9月と11月、女川湾竹ノ浦では8月と10月に行った。
 底泥は、直径5cm、長さ50cmのポリカーボネイト製の円筒で作製した採泥器で採取した。採取した泥の一部は、現場で直ちに海底表層から深さ5cmの層で酸化還元電位と泥温を測定した。分析用の底泥は、泥の層を保持したまま保冷して持ち帰り、表面から0cm、5cm、10cm、15cm、20cmの層を採取して凍結保存し、CNS分析用の試料とした。その後、酸処理した泥を元素分析装置(CEINSTRU-MENTS・NA2500)で分析し、底泥中の有機炭素量・全窒素量・硫黄量を求めた。また、各層の泥色も観察し、標準土色帖によって色を分類した。
 
【結果】
 本調査で採取した泥の性状を表1から表4に示した。表1、表2は舞根湾で採取した泥の泥温、酸化還元電位、泥色を示している。筏直下と筏周辺海底の泥色の傾向は似ておりオリーブ黒と黒色の層が見られた。表3、表4は女川湾竹ノ浦で採取した泥について示している。竹ノ浦では筏直下の泥は黒色で硫黄臭が強かった。筏周辺の泥は明るめのオリーブ黒色であり、無臭であった。図33は舞根湾の海底の酸化還元電位を示したグラフであり、図34は竹ノ浦の海底の酸化還元電位を示したものである。舞根でも竹ノ浦でも、筏直下の酸化還元電位は筏周辺よりも常に低かった。
 図35から図40は、元素分析結果を示したグラフである。これらの図はy軸に海底の表層からの深さ(cm)を示し、有機炭素量、全窒素量などの鉛直方向の変化を表したものである。それぞれ筏直下と筏周辺で採取した泥について層別に比較し、上段に舞根湾、下段に女川湾竹ノ浦で採取した泥の分析結果を示した。
 図35、図36は、底質中の有機炭素量を示したグラフである。図35は舞根湾の結果であり、9月と11月に採取した泥について示している。9月でも11月でも、採取した泥中の有機炭素量は表層で最高値を示し、筏直下では9月に55.2mg−C/g乾泥、11月に52.3mg−C/g乾泥とほとんど変わらなかった。筏周辺では9月に36.9mg−C/g乾泥で、11月に97.4mg−C/g乾泥と11月に非常に高くなった。筏直下でも筏周辺でも表層以外の層では約15〜40mg−C/g乾泥であった。
 図36は女川湾竹ノ浦の結果であり、8月と10月に採取した泥について示している。8月、10月に採取した泥中の有機炭素量は、筏周辺海底でどの層でも約5mg−C/g乾泥以下と少なく、筏直下では多かった。筏直下で最高値を示したのは表層であり、その有機炭素量は8月に36.2mg−C/g乾泥、10月に56.7mg−C/g乾泥であった。しかし、表層から5cmの層では減少して17mg−C/g乾泥となり、深くなるほど減少する傾向があった。
 図37、図38は底質中の全窒素量を示したグラフである。図37は舞根湾の結果であり、9月と11月に採取した泥について示している。9月でも11月でも泥中の全窒素量の鉛直的な傾向は筏直下と筏周辺ではほとんど同様であり、表層で最高値を示した。表層の全窒素量は、筏直下で9月に3.6mg−N/g乾泥、11月に3.9mg−N/g乾泥とほとんど変わらなかった。筏周辺では、9月に2.7mg−N/g乾泥であったが、11月には4.4mg−N/g乾泥と多くなった。
 図38は女川湾竹ノ浦の結果であり、8月と10月について示したものである。8月、10月に採取した筏周辺海底の泥は、全ての層で0.4mg・N/g乾泥以下で非常に少なかった。筏直下で最高値を示したのは表層であり、その全窒素量は8月に5.1mg−N/g乾泥、10月に6.4mg−N/g乾泥と高い値であった。しかし、表層から5cmの層では約2mg−N/g乾泥と減少し、深くなるほど減少する傾向があった。
 図39、図40は底質中の硫黄量を示したグラフである。図39は舞根湾の結果であり、9月と11月に採取した泥について示している。9月でも11月でも底質中の硫黄量が筏直下と周辺ともに非常に多く、筏直下では表層から10cmの層で最高値を示し、その値は9月で9.4mg−S/g乾泥、11月で11.0mg−S/g乾泥であった。硫黄量は、2.8〜11.0mg−S/g乾泥であった。
 図40は女川湾竹ノ浦の結果であり、8月と10月に採取した泥について示している。8月、10月ともに筏周辺海底の泥は硫黄量が非常に少なく、全ての層で1.0mg−S/g乾泥以下であった。一方筏直下では多く、最高値を示したのは表層であった。その硫黄量は、8月で7.9mg−S/g乾泥、10月で6.7mg−S/g乾泥であった。しかし、表層から離れるほど硫黄量は減少する傾向があった。
 
採泥場所 泥温 酸化還元電位 泥色
筏直下 19.7℃ 116mV 深さ 表層
5cm
10cm
15cm オリーブ黒
20cm オリーブ黒
筏周辺 19.6℃ 174mV 深さ 表層 オリーブ黒
5cm オリーブ黒
10cm
15cm
20cm オリーブ黒
表1. 舞根湾で9月27日に採取した泥の性状
 
採泥場所 泥温 酸化還元電位 泥色
筏直下 19.7℃ 116mV 深さ 表層 オリーブ黒
5cm オリーブ黒
10cm
15cm オリーブ黒
20cm オリーブ黒
筏周辺 12.7℃ 131mV 深さ 表層 暗オリーブ
5cm オリーブ黒
10cm オリーブ黒
15cm オリーブ黒
20cm オリーブ黒
表2. 舞根湾で11月21日に採取した泥の性状
 
採泥場所 泥温 酸化還元電位 泥色
筏直下 19.7℃ 116mV 深さ 表層
5cm
10cm
15cm
20cm 緑黒
筏周辺 21.2℃ 229mV 深さ 表層 灰オリーブ
5cm オリーブ黒
10cm オリーブ黒
15cm オリーブ黒
20cm オリーブ黒
表3. 女川湾竹ノ浦で8月26日に採取した泥の性状
 
採泥場所 泥温 酸化還元電位 泥色
筏直下 19.7℃ 116mV 深さ 表層
5cm
10cm
15cm 暗オリーブ灰
20cm オリーブ黒
筏周辺 16.9℃ 199mV 深さ 表層 オリーブ黒
5cm オリーブ黒
10cm オリーブ黒
15cm オリーブ黒
20cm 灰オリーブ
表4. 女川湾竹ノ浦で10月29日に採取した泥の性状







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