ご挨拶
財団法人 アジア太平洋観光交流センター
理事長 柚木 治憲
当財団は、世界観光機関(WTO)アジア太平洋事務所の活動支援及び我が国とアジア太平洋地域の観光交流促進、観光振興に関わる各種の事業を展開してきております。
この「観光に関する学術研究論文」募集事業は、観光に関わる学術振興事業として、当財団事業の重要な柱のひとつに位置付けており、今回で8回目を迎えました。
今回から、テーマを「観光振興又は観光開発に対する提言」から「観光振興や観光交流に対する提言」に変更し、幅広い分野からの応募を期待しました。
応募論文は26点で、今年もレベルの高い力作が寄せられ、20歳から70歳まで、また大学生、大学院生から教育者、社会人まで、幅広い年代層・分野の方々からの応募を得ることができました。また、テーマも国内・海外の観光振興、観光交流の事例研究やエコツーリズム、カルチュラル・ツーリズムなど住民参加型ツーリズムの研究など幅広いものとなりました。
昨年の米国での同時多発テロによる観光産業への影響は、国際観光の分野のみならず、国内においても深刻な状況となりましたが、その後徐々に回復してきています。一方では、世界的観光地バリ島での爆弾テロ事件など、世界的にテロ事件が相次いでおりますが、それだけに国際間の相互理解の増進に果たす国際観光の役割への期待もますます大きくなっています。また、国内的にも自然や文化遺産保全と調和のとれた持続可能な観光開発の推進、住民参加型観光交流など、観光は経済活性化、地域振興の面からますます重要視されています。
観光学は学問としては未だ発展途上であり、その分野は多岐に亘っていますが、当財団の「観光に関する学術研究論文」募集事業が、観光学の構築と今後の発展の一助となり、また、平和産業である観光産業の振興に貢献できることを願い、今後もこの事業に取組んでいきたいと考えております。
今回入賞された方々には心からお祝いを申しあげます。また残念ながら入賞を逃された方々には、ご多忙の中、力作をお寄せいただきましたことに深く感謝申しあげますとともに、次の機会に再びご応募頂きますことを期待しております。
最後になりましたが、本事業をご支援頂いている日本財団及び当財団賛助会員の皆様方に対し、厚くお礼申しあげます。
審査委員長
白幡 洋三郎
今回の観光に関する学術研究論文募集には、26編の論文が寄せられた。昨年を一編上回るだけではあるが、応募数が延びていることは素直に喜びたい。また、いずれの論文も観光を真正面から真摯に取り上げた質の高い力作であり、審査委員一同は知的興味を満喫しながらすべての論文を読み進めることができた。観光を大きな人問の営みとして取り上げ、探究しようという気運の広がりが実感され、今後の観光学の発展が大いに期待できるとの思いを抱いた。
昨年と同じく群を抜く優秀な論文は見当たらなかったが、入賞作の水準は前回を上回ると思う。とくに二席以上と評価された論文の中から最終的に一席を一編選ぶ際の委員の評価が分かれ、最後は小差で一席が決まった。
一席に選ばれた中嶋論文は、観光による途上国の開発支援を論じたものである。エコツーリズムをベースにした観光、先進国による一方的な開発支援ではない「住民参加型」の「開発」を持続可能な観光開発として考察している。いずれの視点も驚くほどの斬新さがあるとはいえないが、タンザニアでの住民意識調査など現地でのデータ収集をもとにした着実な分析で説得力のある論文に仕上げた点が高く評価できる。住民の生活文化を生かしたカルチュラル・ツーリズムを提唱しながら、それを万能薬のごとくに過大評価しない冷静さを併せ持っている点も共感できた。
二席に選ばれた岩松論文は、茅葺き屋根の並ぶ山村への観光をとりあげ、観光客が求めているものとこれに応えて茅葺きを維持し守る住民の心情をも併せて浮き彫りにしようという意欲作である。地道なアンケート調査をもとに、ホスト−ゲストの両者によって「茅葺きの里」が作り上げられてゆく源を「観光文化の力」と結論づけたことなど、読ませる論文としても評価された。
同じく二席に選ばれた薹論文は、19世紀にすでに観光を国の主産業と位置付けた観光立国の先進地モナコを対象としている。モナコ公国の観光地形成史をたどり、これを6期に分けて分析する中で、一般にイメージされているカジノ依存ではない多角的な観光振興策を抽出し、とくにその中に一貫する中心戦略「美と健康」を今後の観光振興へのヒントとして見いだしたことなどが評価された。
奨励賞には、フィリピン・パラワン州での調査をもとに発展途上国におけるエコツーリズムとNGOとの不可分な連携活動を指摘した岡崎論文、現在はやや否定的に見られている団体旅行の意義を、職場の福利厚生施策として、また職員のコミュニケーション環境づくりとして再生させる可能性を論じた田代論文、タイの手工芸品を事例として調査し、観光における土産品の製造・販売のあり方を考察した前田論文、アメリカにおけるホームステイの誕生とその後の歴史的考察、ならびに日本でのホームステイ団体の活動調査をもとに、異文化交流の旅のあり方を論じた山口論文、以上四編が選ばれた。いずれも観光の意義を積極的に論じ、既存の観光学を乗り越える意欲を感じさせた。
残念ながら受賞には至らなかったが、持続可能な農村観光の将来像をドイツ農業政策に読みとろうとしたもの、インドネシアの舞踊調査から観光と芸能のあり方を考察しようとしたものなど、関心を強く引く論文があった。今後の成果をぜひ期待したい。
審査委員名簿
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氏名 |
役職 |
審査委員長 |
白幡 洋三郎 |
国際日本文化研究センター教授 |
審査委員 |
橋爪 紳也 |
大阪市立大学大学院助教授(文学研究科) |
同 |
橋本 俊哉 |
立教大学助教授(観光学部) |
同 |
新納 克廣 |
奈良県立大学助教授(地域創造学部) |
同 |
秋山 靖浩 |
早稲田大学専任講師(法学部) |
同 |
竹田 浩三 |
国土交通省総合政策局観光部企画課国際業務室長 |
同 |
新井 佼一 |
(特)国際観光振興会理事 |
同 |
柚木 治憲 |
(財)アジア太平洋観光交流センター理事長 |
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