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最近の交通サービス改善の影響
 Tamaraw FXをはじめとする新しい交通サービスが出現し、バス・タクシーのサービスが改善されたのは、乗客の種類や階層がさらに多様化したことだけでなく、交通サービスにおいて利便性やコストパフォーマンスへの要求が増大していることの反映でもある。冷房車両が走るバス路線の数は、1983年には28であったのが、1996年には84に増加した。その上、ラジオ・テレビ・ビデオ等の設備が乗客の便宜のために、あるいは長距離バスを運行する会社等の競争力強化のために設置されるようになった。タクシーについても、新モデルやエアコンなどにより改善が図られている。
 
 ジープニーについては、質的な改善はそれほど行われていない。1997年時点において、マニラ首都圏におけるエアコン付きのジープニーは20台程度(そのほとんどがマカティに集中)であったが、それ以降あまり増加していない。
 
 公共交通全般の改善で忘れてはならないのが、鉄道輸送サービスの整備である。いずれにせよ、マニラ首都圏の通勤者に評価されている改善点は次の通りである。
 
a) 鉄道は、マニラのタフト通りとリサール通りを結ぶルート上を運行する路線中長距離のジープニーの乗客を奪ったが、エドサ通り沿いでこれよりも大きな影響を受けたのはバスである。
 
b) FXタクシーは、エアコン付きで座席も確保されており、ルートの自由も利くことから、ジープニーの乗客を奪った。また、バスとも競合している。
 
c) 通常のタクシーもその需要とともに増加し、その市場シェアを維持しているようである。
 
運行面の特徴
 運輸通信省の推定値と1996年のMMUTIS調査によれば、マニラ首都圏における公共道路交通の運行面の特徴は次の通りである。
 
a) 平均走行速度はバスが12.2km/h、ジープニーが9.4km/hである。
 
b) 平均乗車率はジープニーが64.6%、バスが62.7%である。
 
c) 一日当たりの推定乗客数はバスが448万5,000人、ジープニーが13,000,000人である。
 
d) 運行台数はバスが約1万4,000台であり、ジープニーは約6万台と推定される。
 
e) 起点から終点までの平均所要時間はバスが79分、ジープニーが43分である。
 
f) 平均走行距離はバスが10km、ジープニーが3kmである。
 
g) 鉄道路線の営業運転速度は約30km/hである。
 
 公共交通の運行に大きな影響を与えるのが渋滞である。渋滞が理由でいくつかのバス路線が廃止され、大型車両が生産性の低い第I種交通のままである。一方、ジープニーは、道路状況を逆手にとって乗車率を高めており、これはFXタクシーについても当てはまる。
 
 公共交通の運行に影響を与えるその他の要因としては、運転手と事業者の運行協定、運転手が単独または車掌と共同で車両を借りる「レンタル」制度(停留所やコーナーで「数珠つなぎ」を誘発する)、できるだけ多くの乗客を乗せようとして一般的に行われている違反行為などがある。また、公共道路交通はマニラ首都圏における環境汚染を大きな要因であることはいうまでもない。
 
公共交通の排出基準遵守状況
 マニラ首都圏開発庁(MMDA)の排気ガス局では、同庁の排気ガス抑制キャンペーンの一環として、定期的に公共交通車両の排ガス検査を実施している。検査を受けた公共交通車両で合格したのはわずか3%という結果は驚くべきものであったが、それは予想の範囲内でもあった。排出基準違反の疑いで呼び止められた車両が検査を受けたからである。また、検査を実施するのも一部の大通りだけなので、検査を受けたジープニーはごく一部であることにも注意したい。環境天然資源省(DENR)の大気環境監視局によれば、実際の検査では、多少の整備を行なえば基準をクリアできる車両が約60%であったという。表1-5は、今年の4月から10月までの検査結果をまとめたものである。
 
Table 1-5
MMDA Smoke Belching Campaign Results (April-October)
Type of Vehicle Passed Failed % Passed
Bus 185 3,232 6
Jeepney 12 876 1
Taxi 3 349 1
UV 150 6,424 2
Truck 27 705 4
Commulative Total 377 11,586 3
Total 11,963
Source: Metropolitan Manila Development Authority (MMDA)
 
バス部門
 マニラ首都圏におけるバスの運行は、幅員が広い主要ルートのみに限定されている。他のルートは、認可の交通サービスがある場合があるが、バスは運転されていない。バス事業者の大半は中小企業であるが、ジープニー部門とは異なり、総運行台数に占める割合が大きいのは大企業の方である。
 
バス保有台数
 マニラ首都圏では、約1万3,000台のバスが運行されていると思われる。そのうちの64%が大企業が占め、残りの36%が中小企業となっている。California Bus Linesが認可台数が490台で最大手であり、430台のDelta Transport、380台のDM Consortiumがこれに続いている。
 
 バスの保有台数は規模別にみると次の通りである。
 
小規模事業者とは、保有台数が20台以下の事業者をいう。小規模事業者の平均保有台数は8台である。
中規模事業者とは、保有台数が21〜50台の事業者をいう。中規模事業者の平均保有台数は34台である。
大規模事業者とは、保有台数が51台以上の事業者をいう。大規模事業者の平均保有台数は121台である。
 
Figure 2-1
 
 
 事業体の形態別にみると、マニラ首都圏におけるバス全体の70%を保有しているのが企業体であり、その次は28%を保有する個人事業主で、協同組合が保有するのは2%弱である。
 
バス事業者
 バス事業は、第一義的には民間事業である。マニラ首都圏においてLTFRBが認可しているバス事業者の数は580であり、そのバスの合計台数は約1万3,000台である。事業者の74%は、バスの保有台数が20台未満である。これらの事業者の多くは、現行の排出規制を現段階ですでに遵守できていないので、大気浄化法の新排出基準の導入で最も影響を受ける層である。
 
 バス事業者は次のように分類することができる。
 
a. 事業体の形態別  
  企業体 40.35%
  個人事業主 57.93%
  協同組合 1.21%
  パートナーシップ 0.52%
 
b. 保有台数規模別  
  小規模(1〜20台) 74.00%
  中規模(21〜50台) 12.00%
  大規模(51台以上) 14.00%
 
 LTFRBのデータベースによれば、マニラ首都圏の全バス事業者の56%である324バス事業者はバスの保有台数が10台以下である。1台しかない事業者の数は60である。
 
バス路線
 LTFRBの公式記録によれば、マニラ首都圏で認可されているバス路線は現在、186路線ある。1996年のMMUTISでは、89路線(実際に運行されている路線)とされていた。1996年から2000年の間に路線が増大したことになるが、これは路線の延長区間が新路線と記録されているので、見かけ上の増加ともいえる。実際、延長区間も元の路線と一体と捉え、事実上あるいは全く運行されていない路線を除外すれば、1996年の路線数よりも少なくなる可能性が高い。DOTCの道路交通計画課では、現在進行中の路線合理化プログラムにより、認可されているバス路線の約5割は、事実上あるいは全く運行されていないので、来年の早い段階で廃止されると考えている。したがって、運行される路線は約45路線のみとなる。
 
バスの運行面の特徴
 バスの平均運転速度は12.2km/hと極端に遅いので、一日に13時間の営業で往復できる回数は平均で6回である。マニラ首都圏におけるバスの起点から終点までの平均所要時間は79分である。バス会社が営業するのは、週に5日ないし6日である。総合車両通行量抑制プロジェクト(UVVRP、別名「カラーコーディング」事業)により、週に1日は営業車両が道路を通行することを禁止されているためである。
 
 平均速度が遅く、起点から終点までの所要時間が長いのは、マニラ首都圏の渋滞事情の悪化を反映している。以前は、一部の路線では渋滞が原因で、ジープニーがバスを駆逐することもあった。現在、大規模のバス会社の主な競合相手は他のバス会社であり、乗客を確保するために、エアコンなどの基本設備にテレビ、ビデオなどの設備を加えるようになっている。
 
 バスの運行面の特徴は次のようにまとめることができる。
 
一日当たりの平均乗客数(推定) 448万5,000人
1台当たりの平均定員数 15人
平均乗車率 62.7%
平均速度 12.2 km/h
起点から終点までの平均所要時間 79分
平均走行距離 10km
平均往復数 5〜6回
稼働時間 13.2時間
稼働日数/週 4.7日
運転手の数 1.5人
営業日数 5〜6日
 
分析・解釈・結論
 以上を踏まえると、バス事業者は保有台数の規模により、運行および整備の状況が異なることがわかる。運行および整備の全体像については類似点も認められるが、個別に検討してみると相違点が浮かび上がってくる。しかし、その相違点の一部、特に整備に関する相違点は、保有台数の規模を問わず、バス事業者が運営を持続していく上で決定的に重要とされる側面に関わっている、ということの方が重要である。
 
 その決定的に重要な側面が、保有台数の規模を問わず、バス事業者の事業の持続性に重大な影響を与えるかもしれないことを考慮すると、そのような側面については事業者の間で相違点があってはならないと考えるのが自然である。しかし、そのような相違点が存在することを踏まえて分析すると、その相違の理由と意味について、次のようなことが考えられる。
 
 これまでの議論からもわかるように、保有台数規模の異なる事業者の間における運行・整備上の相違点の中でも、特に顕著な相違点は次のようにまとめることができる。
 
バス一台当たりの運転手および車掌の人数の割合は、保有台数規模の小さな事業者の方が高い。
運転手および車掌の給付金制度は、保有台数規模の大きな事業者の方が充実している。
バス台数に対する一日当たりの割当収益は、保有台数規模の小さな事業者の方が高い。
保有台数規模の小さな事業者は、整備・修理を計画的に実施しておらず、保有台数の大きな事業者は、整備・修理を定期的に実施している傾向が見られる。
保有台数規模の小さな事業者は、保有台数規模の大きな事業者と比較して、整備・修理の設備を所有していない。
 
 上記の相違点を分析してみると、相違の理由は突き詰めるところ、利益の問題と関係しているであろうことはすぐにわかる。その相違が事業の持続性に与える影響を分析すると、保有台数規模別の事業者の特徴・性格が見えてくる。
 
 上に列挙した運行・整備の現状の相違点を見ると、規模の小さい事業者は、運転手や車掌を犠牲にし、車両が完全に故障する危険を冒してまでも利益を追求する傾向があることがわかる。規模の小さい事業者の運行・整備システムの性格を検討してみると、そのシステムがもたらしかねない結果に全く注意を払わず、コスト低減と収益増大のみを目的としているようである。
 
 以上を踏まえると、規模の小さい事業者については、次のことがいえるかもしれない。
(a) 目先の利益を得ることを目的として短期的にバス業界に参入している。
(b) 長期的にバス業界に関わる意図や姿勢がない。
 (b)については、規模の小さい事業者には、保有車両を定期的に整備するプログラムやそのために必要な設備を導入する計画がないか、あっても不十分であることにも現れているといえる。
 
 一方、保有台数規模が大きい事業者の状況を見ると、運行・整備に必要なコストと予想される収益とのバランスを取る、合理的な利益設定を行っているようである。したがって、規模の小さい事業者と比較すると、規模の大きな事業者は長期的にバス業界に関わっていこうとする姿勢があると、結論づけられそうである。







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