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3. チリ(サンチァゴ)
チリ
EPS Ingenieria y Consultoria de
Proyetos Ltda.
Mr. Roberto Gerardo Sepulveda Villalobos
1. 当該都市部における都市交通の現状
 まずはじめに、大都市と小都市を区別しておきたい。チリの大都市は、サンチアゴ、バルパライソ、コンセプシオンであり、その人口規模(100万人以上)と地理的広がりを考えると、交通は大きな問題となっている。したがって、交通事情の改善する取り組みは、上記の都市を中心に行われてきた。チリでは、都市交通網の個々の特徴や交通機関別の利用者の行動に着目した数多くのソフトウェアが開発されており、戦略計画において非常の重要なツールとなっている。これらのソフトウェアは、サンチアゴ、バルパライソにおいて、複数の交通計画や方針の評価に利用されてきた。交通計画の中で、首都地下鉄の新線、バス専用道路プロジェクト、郊外鉄道プロジェクト、都市道路の開発権などを位置づけるのに便利である。
 
 集中交通管制の実施に関する取り組みも実施しており、サンチアゴとバルパライソでは完了し、他の都市でも実施の運びとなっている。
 
 したがって、チリの三大都市の交通事情は、多くの公共交通規則や上記のことから、相当に改善されてきている。諸資源の適切な配分とインフラの適正な管理の重要性を認識している証左である。
 
 最近は同じ手法が、人口10万人を超える都市の成長の指針(交通からの視点)としても使われている。そのような都市は、起点から終点までの平均所要時間は短い段階ではあるが、交通システムの運行を最適なものにするために、新しい様々なインフラを必要としている。
 
 チリでは、政府が伝統的に公的資金を使って道路網を整備してきたが、現在はコンセッションによる新しいインフラ事業民間資金を導入していることを指摘しておきたい。チリの都市道路網は総延長が2万kmあり、そのうちの4,000kmは首都サンチアゴをはじめとする大都市に位置している。大都市の道路のほとんどは幅7メートルであり、都市の中心部に集中しており、交差点には信号機が整備されている。近年は、チリ最大の都市圏であるサンチアゴ、ビニャ・デル・マル、コンセプシオンを結ぶ道路の渋滞を解決するために、主要幹線道路が建設されている。
 
 公共交通の中心となっているのが私営バスであるが、その運行は部分的に運輸省が規制している。地下鉄を運営している事業体は1つであり、サンチアゴの市中心部と周辺地域を3つの線で結んでいる。バルパライソには総延長40kmの鉄道があり、バルパライソとバルパライソ圏の各都市を結んでいる。また、同市では、トロリーバス(路面電車)や丘を登るエレベーターも公共交通機関として使われている。
 
 需要面を見ると、チリの自動車台数は増加している。自家用車、トラック、バスを含めた自動車台数は、1988年に100万台であったが、1994年には151万台になった。自家用車の所有率も急激に上昇し、1990年には11人につき1台であったのが、2000年には5人につき1台の割合になった。サンチアゴの自動車総数は2000年で約100万台となっている。
 
 1977年から1991年までの間に、一人一日当たりの平均移動回数は1.14回から2.12回に上昇し、移動総数に占める自家用車の割合も11%から23%に増加した。
 
 このように需要が増加する一方、都市の道路網はほとんど改善がなされなかったことから、バルパライソ、コンセプシオンだけでなく、最近はチリのあらゆる主要都市では、ラッシュアワー時の渋滞が深刻になっている。渋滞によりバスや乗用車による移動時間が増加し、サンチアゴでは公害問題も発生している。
 
 渋滞に対処するために政府が取っている交通政策には、公共交通の整備を中心とする公的投資、道路コンセッションによる民間投資、有料都市道路網、土地利用計画などがある。交通政策の基本的な考え方は公共交通の整備であり、その内容は、地下鉄の延伸、通勤列車、バス専用道路、バス運行の規制、自家用車の合理的な利用、使用料の導入などである。
 
1.1 都市交通調査の現状(交通量、観察調査、起終点調査、個人移動調査)
 チリの都市部における主な交通問題が集中しているのが、人口600万人の首都サンチアゴ市である。
 
 人口規模が大きく、自動車通行量が多く、日常の活動(通勤通学等)のための移動距離が長いことから、ピーク時を中心として大渋滞が発生している。
 
 現在、サンチアゴ内部における総移動回数は平日において900万回(810万回は車によるもの)であり、一日3回のピーク時に集中するが、その中でも最も集中するのが朝である。自動車による総移動回数のうち、公共交通(バス、公共タクシー、地下鉄)69%、私的交通が25%、その他が6%となっている。サンチアゴの住民が利用する交通機関は場所によって大きく異なる。市の高級地(高所得者が集中している場所)では自動車が中心であり、市の中心地ではバスが多い。
 
 平均移動時間は、公共交通の場合が66分、私的交通の場合は33分である。
 
 朝のピーク時における主な移動先は、勤務先、商業、サービスが集中している市の中心地である。ただし、近年は中心地以外の開発も進み、市内の交通量分布も変化している。1991年にサンチアゴ市で実施した最新の起終点調査(今年2002年にも実施予定)によれば、一日当たりの平均移動回数は一人につき2.12回、世帯当たりは7.98回であった。一方、一日当たりの移動回数である840万回のうち、36.4%は通勤、31.5%は通学であり、通学の割合は近年変化がない。
 
1.2 道路交通の現状と問題点(道路網、交通量等)
 サンチアゴにおける一人一日当たりの平均移動回数は、1977年の1.14回から1991年の2.12回に上昇した。バルパライソでも同様に上昇しており、1986年の1.69回から1995年には2.07回になっている。
 
 1994年におけるチリの総自動車数は150万台であり、そのうちの125万台が自家用車であった。サンチアゴに限ってみると自家用車・タクシー・トラックで55万台、公共交通車両が1万1,800台であった。
 
 交通システムについては、移動時間が増加し、移動速度が減少している。たとえば、サンチアゴにおいては、1991年から1997年までに、公共交通と私的共通の移動速度が35%減少した。バルパライソでは、10%の減少である。この間に渋滞は大幅に増加した。
 
 サンチアゴにおける平均移動時間は、1日の平均移動距離である10km当たり、公共交通で44分、私的交通で26分である。1991年から1997年までの同市の平均移動時間は、公共交通で20%、私的交通で33%増加した。バルパライソの増加率は10%程度となっている。
 
1.3 公共交通の現状と問題点(バス、鉄道等の運行、利用)
 チリの主要都市の現状は次の通りである。
 
ピーク時の渋滞が増加
平均移動時間が対前年比で増加
交通量の増加に伴う汚染レベルの上昇
ターミナルでの渋滞
市へのアクセスに高水準の道路が不足
通勤距離が極端に長い(空間分布の問題)
トラックの運行と循環
駐車施設の管理
障害者用の施設の不足
 
 公共交通の中心は私営バスと乗合タクシーである。料金、本数、路線などの運行に関することや台数、車両の大きさも所有者が決定する。運輸省は民間の事業者に認可を与えるとともに、運行できる路線を指示する。運輸省は近年、サンチアゴにおいて事業者の入札を行った。事業者(入札者)は、固定料金・本数・路線・台数を提示し、最も安い料金、特定路線の本数、台数が多い方を選定し、市の中心地のバスの数の減少を図っている。この入札方法は、同じようなことを目的として、バルパライソやコンセプシオンでも近いうちに実施されるかもしれない。
 
 いずれにせよ、上記のような運行に関する規制が完全ではないことから、サンチアゴを除くすべての都市において、バス・乗合タクシーが中心部に集中し、速度は遅くて料金は高いなど、公共交通は効率の悪いものになっている。また、規制の不完全さは、バスの小型化、老朽化が進行し、その競合交通機関である乗合タクシーが増加する要因ともなっている。
 
 その他の公共交通機関としては、サンチアゴの市街地と周辺地域を3路線で結ぶ地下鉄、バルパライソとバルパライソ圏の他の都市を40kmで結ぶ鉄道、バルパライソ中心地のトロリーバス(路面電車)、同市の丘を登るエレベータなどがある。サンチアゴの地下鉄の交通分担率は8%である。バルパライソの鉄道、トロリーバス、エレベータの交通分担率はこれよりも低い。
 
2. 都市部における都市交通の問題点
 サンチアゴ市における生活の質は、次のような交通機関に対する市民の評価とともに悪化している。
 
交通施設・交通機関ともに混雑度が増加
移送時間が一定して増加
環境を害する車両の運行
狭い道路施設
 
 上記の評価には根拠があり、現在および将来の問題点とその原因・解決法については、1980年より、世界中で質の高い技術研究が進められている。
 
 サンチアゴ首都圏の交通システム危機は、都市生活環境のすべてに起因している。単なる経済分析では直接の原因しかわからないが、経済・社会・政治・文化に関わる様々な要因が絡んでいる。
 
経済の急成長、人口増加の他、収入水準、一人当たりの平均移動数、自家用車の台数が増加し、社会的な見地からは最も効率のよい公共交通の需要の割合が低下していること。
 
 しかし、以上の要因だけでは、問題の本質や大きさを説明することはできない。この問題を捉えるためには、市の発展と密接に関係している都市内の移動の特質を把握する必要がある。
 
新築の住宅は市の周辺に集中しており、モノや勤務先が集中する都心とは、社会的経済的に大きな格差が見られる。
 
 一方、下の表からもわかるように、商業活動・保健・教育・工業・サービスなどは、自動車による輸送コストを最小化するため、思わしくない形でサンチアゴに集中している。
 
Communes with bigger surface dedicated to Trade
Commune Percentage of the total m2 dedicated to Trade
Santiago 36.9%
Las Condes 7.4%
Providencia 6.3%
Subtotal 50.5%
 
Communes with bigger surface dedicated to Health
Commune Percentage of the total m2 dedicated to health
Santiago 21.0%
Providencia 20.5%
Independencia 12.9%
Subtotal 54.3%
 
Communes with bigger surface dedicated to Education
Commune Percentage of the total m2 dedicated to education
Santiago 29.9%
Providencia 9.0%
Nuoa 6.9%
San Miguel 4.9%
Subtotal 50.7%
 
Communes with bigger surface dedicated to Industry
Commune Percentage of the total m2 dedicated to industry
Santiago 15.4%
Quilicura 8.4%
San Joaquin 7.1%
Macl 6.5%
Maip 6.1%
Quinta Normal 6.0%
Subtotal 50.7%
 
Communes with bigger surface dedicated to Services
Commune Percentage of the total m2 dedicated to services
Santiago 43.3%
Providencia 17.6%
Subtotal 60.9%
 
 上記の要因に加えて、交通市場の特質や、交通部門の法的、制度的、都市計画的な面に起因する要因もある。それは次の通りである。
 
特定の時間帯に移動が集中すること。新聞報道によれば、総移動回数の35.2%が、朝・昼・晩と一日に3度あるラッシュアワー時に集中している。
公共交通業界は、規模の経済を活用できず、運行する路線よりも自らの車両が生産単位と捉える規模の事業者が多い。
サンチアゴ首都圏の34のコミューンの交通システムを効率的に管理するための制度的な位置づけがないこと(この交通システムの範囲はコミューン単位でも州単位でもなく、省レベルの扱いも区や首都よりも弱い)。
交通問題を解決するための技術・財源が、政府のあらゆるレベルにおいて不足している。
土地利用や都市活動の分散化に対する国家の権限が弱い。







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