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第5 荷主が倒産したとき
1. 倒産の意義
(1)銀行取引停止処分等
 いわゆる倒産でも日本の場合は圧倒的に私的整理というか任意整理というか、裁判外のものが多いですね。私の所へ来る相談でも、相手の取引先が行ってみたらいなくなっていたというのが多いです。実際問題はそうなったらどうしようもないです。法律的にやろうと思えばありますが、やってみても時間と手間とお金の無駄遣いになるだけで、あきらめるしかないです。
 ただ、うまい具合に私的整理でも弁護士がついて、あるいは債権者委員会ができて、一定の手続きを踏むとか、最近では民事再生法、そういう手続きでやるという場合には、これも特効薬はないですが、債権の届出をする、これが原則です。
 ところが、特に倉庫事業の場合、トラックの場合でも、留置権が一般の場合と大きな違いになるわけですね。一般の場合であれば、そういう手続きが始まったら、債権の届出をして、僅かな配当をいただくというのが普通なんですが、もし倉庫会社で価値あるモノを保管して渡さず持っていたと、それからトラック会社で、たまたま運良く、価値ある貨物が自分の手元にあるというラッキーな場合は、先程申し上げた留置権、これは倒産の場合ですから、何が何でも留置権を死守するということです。たいがいその場合、相手に弁護士がついて交渉に来るはずですから、それが本当に価値あるものであれば、その中で事業者として、この位なら示談しようという点があれば、示談するということです。
 
2. 企業の法的整理手続
(1)再建型
ア 会社更生
 企業の法的整理手続きのうち、企業を何とか存続しようとする「再建型」の主力は、「会社更生」と「民事再生」です。
 会社更生は会社更生法によりますが、手続きが非常に厳格ですので、現実の対象は大企業を想定していると言えます。特色としては、手続き開始と同時に、従前の会社代表者が財産の管理処分権限を全て失い、新たに選任された「更生管財入」が管理処分権限を専有する点です。ですから、前述の相殺の通知などでも、従前の代表者宛に送付しても法的効力がなく、必ず更生管財人宛で出す必要があります。この点の誤りは意外に多く、結構名の通った会社や金融機関でもまま見受けられます。
 また、管財人は更生計画案を作成して裁判所に提出しますが、計画案は関係人集会の決議と裁判所の認可で成立しますので、会社更生は裁判所の監督の下に進められていく点も特徴と言えます。
 会社更生の、更生する側から言う意味は、担保権の取扱いです。担保権者も会社更生の手続内でしか権利を主張できない、これが大きな違いです。破産でも民事再生でも、担保権者はわれ関せずで、担保権を実行できるんです、原則として。ですから、どうしても担保権を実行されたら困るというような所で、ある程度大きな規模であれば、会社更生かなと思います。
 民事再生でも担保権を消す手続きはありますが、会社更生に比べれば、あまり実用的ではないように思っております。
 
イ 民事再生
 民事再生は、従来の経営者が続けて経営をやっていけるというのが原則的な形態です。それから、債務者の50%以上の賛成があれば、再生計画を立案して実行していけるということになっています。
 
(2)清算型
ア 破産
 清算型としては「破産」と「特別清算」があります。「破産」については破産法にその規定があり、対象は法人及び個人です。支払不能や債務超過という破産原因がある場合に、債務者自身または債権者が申し立てることができます。裁判所が破産原因ありと認めると破産宣告を行い、破産管財人を選任して、その破産管財人のもとで資産を処分し、債権者への配当が行われるのが通常のパターンです。ただ個人の場合は財産がないケースが非常に多く、管財人を選んでも換価すべき財産がありません。ですから、管財人を選出せずに「同時廃止」、つまり破産の開始宣告と同時に破産終了手続を行います。最近10年で、この様な個人破産が非常に増加しています。
 ただ、僅かに財産があるという場合には、同時廃止ができないので、最近、東京地裁などでは、「少額管財事件」という実務的なやり方を定型化させています。例えば、破産者に自宅の不動産があるといった場合は、同時廃止ができません。そういった場合に、少額管財という極めて簡便な方式をとり、半年以内に終了させるようにしています。
 個人が自己破産申し立てをする場合には、「免責の申し立て」が重要です。法的には破産の開始決定、終了決定をすれば破産手続は終わりですが、法律上は債務が残っています。通常は、相手が破産した場合、諦めて何の請求もしないのですが、金融業者等は請求してくる場合があります。一旦破産した人が他へ就職して給与を得ると、それに対して強制執行したりします。法律的にも債務をなくすためには、「免責の申し立て」を破産申し立てとは別に行って裁判所から免責の許可を得なければなりません。しかもその申し立て期間が破産終了から一ヶ月以内と限られているので、本人や代理人弁護士が忘れてしまって、後で問題になることが時々あります。
 企業の破産の場合は、通常ある程度の財産があれば、破産管財人を選任し、管財人が財産を換価処分して債権者へ配当します。従って、破産の場合にも破産管財人が選任されたら、通知は破産管財人宛にする必要があります。
 
イ 特別清算
 商法には、「通常清算」というものがあります。これは会社を解散してその後の清算手続をすることですが、法律上では、この通常清算をやっていく際に、清算の遂行の支障、またま債務超過の疑いがある場合に「特別清算手続」へ移行して裁判所の監督を受けながら清算手続を行います。これが「特別清算」です。ですから、対象は清算中の株式会社となります。
 ただ、実際には税金対策として行われることが多いようです。例えば、親会社が赤字の子会社を整理する場合、この子会社を特別清算で清算すれば税務上明確に損金で落とすことができます。このような税務対策用であれば、手続自体も機械的に行われ、東京地裁の例では費用もわずかで、通信費と官報掲載料程度で済んでいます。
 
(3)企業倒産の動向(申し立て件数等)
 ご参考までに、帝国データバンクによる「企業倒産の動向(申し立て件数等)」を掲載しました。破産は個人を除いているので約2000件ですが、もし個人を入れれば10万件台に上るのではないでしょうか。
 
  平成11年 平成12年 平成13年
上半期
会社更生 33件 24件 7件
会社整理 10件 3件 1件
和議 171件 45件
民事再生 550件 404件
破産 2,233件 2,990件 1,842件
特別清算 243件 255件 192件
任意整理 12,770件 15,204件 6,981件
合計 15,460件 19,071件 9,427件
(帝国データバンクによる)
 
3. 倒産の場合の債権回収
(1)相殺
○法的整理の場合でも原則として相殺は可能。但し一定の場合には制限される。
・破産の場合→破産法104条
・特別清算の場合→商法456条(破産法104条)
・会社更生の場合→会社更生法163条
・会社整理の場合→商法403条(破産法104条)
・民事再生の場合→民事再生法93条
 
 「債務者が倒産した場合の債権回収」をご説明します。
 まず「相殺」についてですが、法的な整理の場合でも原則として行うことが可能です。一定の場合、制限されるというのは、通常の商取引ではあり得ないことですが、相手が倒産した際にそこに対する債権を買い集めたり、そこから物を仕入れてその代金債務を負うような火事場泥棒的な行為を行った場合は相殺ができません。常識的ですが、「通常のそれまでの取引で債権債務を負った」という場合には相殺できると考えて頂いて結構です。ただ、前述の弁済期の問題があるので、それだけは注意して下さい。
 
○会社更生及び民事再生の場合、債権届出期間内に相殺の意思表示が必要
(会社更生法162条1項、民事再生法92条)
 今一つ注意すべきことは、民事再生と会社更生の場合で、「民事再生と会社更生の場合は相殺できる期間が制限されおり、債権の届出期間内にしなければいけない」という点です。会社更生は対象となる会社が少ないのですが、民事再生は先の表でも示したとおり、年間500件以上と発生件数が多いので、遭遇する確率も高く、特に注意が必要です。「債権の届出期間」については、民事再生手続きや会社更生手続きが開始決定になると、裁判所から通知がきます。
 破産の場合には、相殺の期間制限はありませんが、いたずらに届出を延ばす理由もないので、できるだけ早めに行う方が良策です。
 
○相殺の通知先への注意
 相殺の宛先には十分な注意が必要です。破産や会社更生で管財人が選任されている場合は、必ず管財人宛に出さなければ法的効力が生じません、元の代表者や会社宛の住所に郵送しても、全ての郵便物は管財人宛に自動的に回送されます。しかし管財人は差出人にわざわざ宛名の誤りを注意しなくても、また、無視をしても何ら法律には反しません。ですから、破産、会社更生で管財人が選任された場合、通知の宛先は必ず管財人(及び管財人の住所)にして下さい。裁判所からの通知には、管財人の住所氏名、債権届出の期間、第一回の債権者集会の期日等、重要事項について記載があるので、それらを間違いなく控えるようにします。
 
(2)留置権
 先程も申し上げましたけれど、倒産して法的な手続きを踏む民事再生とか破産になった場合に、じゃあ留置権はどうしたらいいんだという問題です。
 法律的には留置権というのは、担保権の一種ですから競売できます。しかし、留置権には優先弁済権がありませんから、それをやってみてもあまり意味はない。それよりは、担保権というのは、事実上弁済を受けなければ渡さないということを倒産しても言える、あるいは全額の支払いを受けなければ全部留置できるという権利ですから、それを武器に管財人なりと交渉をして、分割でもやむをえない、とにかく極力回収を図るということになろうかと思います。ただ、会社更生の場合、担保権者といえども勝手な動きはできないんです。だから、この場合には更生担保権という、一般の更生債権とは全然違って弁済率なんかも高くなる、こういうものになります。
 
 民事再生と破産の場合には、留置権というのは、とにかく何があろうと留置できるんだということをべースに、実務的には示談べースで解決を図るのがよろしかろうと思います。それで、全額あるいは満足すべき額まで回収できたら、それでお終いです。しかし運悪く、留置しているモノの数量が少なかったり、あまり価値がなかったりして、その留置権を行使してもまだ足りないという場合には、仕方がないから足りない分については、一般の債権者と同様に債権の届出をして、数%位の配当を受けるということになろうかと思います。
 私は時々、「取引先が危ない状態になってる。だから何とか今のうちに債権を回収したい。ついては、こういう方法で回収できるかだろうか、大丈夫でしょうか」と相談を受けることがあります。相手がそういう倒産の危機にある時に、抜け駆け的に債権の回収を図ると、法律的にはあとでひっくり返される可能性があります。破産になったら否認権ということですが、破産にならなくても詐害行為取消権ということで、法律上取り消されるということになります。だから、その場合単純にいいですよとはなかなか言えないんですね。
 
第6 おわりに〜コーポレイトガバナンスについて
 コーポレイトガバナンスは、日本語では、企業統治などと訳されています。冒頭にお話した会社法の改正も、何とかコーポレイトガバナンスを実現しようとしてなされてきたわけですが、企業の不祥事が相変わらず、あとを絶ちません。今年の春には、大手商社の三井物産の部長が逮捕されました。6月には、佐世保重工業の社長が国の助成金を不正に受給したということで、詐欺罪の容疑で逮捕されました。また、夏の暑い盛りに、日本ハムの狂牛病にからむ証拠隠しが話題になりました。
 そして、とうとう日本経済の中枢ともいうべき東京電力までが、検査記録の改ざんということでマスコミに登場しました。誠に残念なことです。
 8月上旬の読売新聞によると、今年6月に新しく取締役になった人たちへのアンケート調査の結果、不祥事が起きる原因の第1位は経営者の甘さ、第2位は企業風土という答えが出たとのことです。
 経営者の甘さとは、「そんなことは聞いていない」とマスコミの前で叫んだ雪印食品の社長の例があります。あるいは、実害は生じていないと、国会で説明したみずほ銀行の社長の例もあります。それをやったのは専務だ、牛肉は自分の担当ではなかったと説明した社長も届ました。
 企業の風土とは、会社の中で、正しくない行為を黙認する、あるいは良しとする風土でしょうか。とにかく、目先の会社の成績さえあがれば、何をやっても許されるという考えが社内にはびこっているということでしょう。
 
 しかし、不正行為は非常に高くつきます。
 雪印乳業や三菱自動車は何百億、何千億円もの損害を受けたといわれております。日本ハムは1ヵ月の売上が4割もダウンしたと報じられました。そして、雪印食品は解体されました。東京電力の損害も巨額に達すると思われます。
 会社に良かれと思ってしたことが会社に大損害を与えてしまうのです。
 何よりも、正しくないことは行っていて楽しくないことだと思います。そして世間に発覚すると会社に莫大な損害を与えることになるだけでなく、自分の首は飛ぶ、退職金も出ない、状況によっては刑事被告人から犯罪者にまでなってしまいます。
 それにもかかわらず、何故これだけ不祥事が続くのでしょうか。何故他人の不祥事をみて、わが身をかえりみないのでしょうか。自分だけはバレるはずがないと思うのでしょうか。
 天網恢々疎にして漏らさず、という老子の言葉があります。天網は目があらいようだが、悪人を漏らさず捕らえる。天道は厳正で悪事をはたらいた者には必ずその報いがある。と大辞林は説明しています。
 伊藤忠商事の社長は、海外現地法人の社員に対し、「自分のモットーは、「清く、正しく、美しく」である。法律に違反してまでも儲けてもらおうとは思わない。」と訓示したと聞きました。トップとしてこのように明確な考えを発信することは非常に大事なことだと思います。
 これからは特に、法律あるいはモラルに従って行動することが結局は自分のためのみならず会社にとっても良いことではないかと思います。
 今年の春頃の読売新聞の記事によると、この厳しい時代で、気をはいて伸びている企業のトップには何点かの共通点があるということです。その1つが、一時、日の当たらない場所で冷や飯を食べていたということです。ですから、会社の中で正論を通し、その結果、日の当たらない場所へ飛ばされたとしても、必ずしも悲観する必要はないかも知れません。将来の社長候補かも知れません。もしそのような状況におかれたら、むしろ、いろいろな勉強をするチャンスにめぐまれたと思って、勉強に励んだらどうでしょうか。







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