米国は冷戦後の世界で一極支配の構図を次第に強め、軍事、政治、経済、文化の各分野で圧倒的なアメリカン・パワーを誇っている。今日の米国は、もはや従来の「超大国」という概念ではとらえきれず、歴史に大きな足跡を残すローマ帝国や大英帝国も及ばない存在感を示している。
「新たな帝国」の特徴は軍事的な征服で版図を拡大した過去の帝国とは異なり史上類例のない「領土的征服を伴わない世界支配」を実現しつつあることだ。国務省のリチャード・ハース政策企画局長は「米国文化の魅力、経済力、民主主義などの原則を外交に反映させ、19世紀の英国のように全世界に影響を及ぼすべきだ」と述べ、自ら「帝国外交」という概念を提起している。
ブッシュ大統領も今年6月、「自由を世界に拡大するため、人類の敵である独裁者らを打ち負かすのが米国の責任だ」と演説。イラク攻撃の準備が進む中、ブッシュ政権は中東全体の「民主化」推進を視野に入れ、国際秩序は今、大きく変わろうとしている。
「民主」と「帝国」という二つの概念は「水と油」のごとく背反するが、比類なきパワーを持って「自由と民主主義による世界の再編」を実現しようとする米国には「民主帝国」という表現がふさわしい。だが、国際社会には、「自国の価値観の押しつけ」などとする米国批判や反発があるのも事実だ。取材班は、米国の姿をさまざまな観点から浮き彫りにし、21世紀の世界の方向性を探る。
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