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電気・電子・電波・情報通信工学の基礎
第1章 電磁気学と電子工学の基礎
1・1 電気とはなにか
1・1・1 電気の歴史と電気力線(電気力のクーロンの法則)
 電気は目に見えない、重さも色もないのに誰もが電気が存在していることを認めて日常生活で使っている。あらためて電気とは何ですか?、と聞かれるとはっきり答えられる人は少くない。紀元前600年ころギリシャのターレスが琥珀を紙片や羽根で摩擦するとものを吸い付ける現象を発見した。ギリシャ語で琥珀をエレクトリカ、Elektrikaと呼ぶ。これが現在電気を英語でエレクトリックス、Electricsと呼ぶ語源となった。電気を電磁気学として理論研究をしたのが英国のギルバートで17世紀に「磁石について」という本を書いた。工学として電気が利用できるようになったのは更に200年後の19世紀になってからであり、電気が発見されてから利用できるまでには2500年もの長い年月が経過している。さらに、電波工学、電子工学から通信工学として広く社会に普及するようになったのは20世紀以後の近代になってからである。
電気の極性と電気力線;
 摩擦により電気を発生できることが発見されたが電気には2種類あることを見つけたのは1733年フランスのデュフェーで、ガラス棒を絹布で擦って起こる電気を「ガラス電気」、琥珀や樹脂を毛皮で擦って起こる電気を「樹脂電気」と名前を付けた。後になりフランクリンが前者を「陽電気」、後者を「陰電気」と名前を付けたことからプラスとマイナスの電気に分類されるようになった。図1・1に電気の極性と力の向きを示す。ものに電気が付き力が作用する状態を帯電と呼ぶ。
 
図1・1 電気の極性と電気力
 
図1・2 電気力線
 
 プラスとマイナスの帯電は引き合い、同じ極性のプラス間及びマイナス間では反発する(押し合う)向きに力が作用する。
 帯電したものの間は図1・2に示すような目に見えない線で結ばれていると考えてこの線を電気力線と呼ぶ。電気力線が縮むとものが引き合い、伸びるとものが押し合うと考えることから力線と呼ぶ名前が付けられた。現在は理論計算により電気力線の分布が正確に描けるようになった。
 帯電した電気の大きさを電気量と呼ぶ。クーロンは電気力の大きさについて研究して、この大きさは帯電した電気量に比例して、帯電したものの間の距離の自乗(距離×距離)に反比例することを発見した。これを電気力のクーロンの法則と呼ぶ。
図1・3 電気力、F
 
 図1・3においてプラスQ1とマイナスQ2、(クーロン)の電気量が距離r(m)に置かれた場合に互いに引力F(ニュートン、N)が作用する。Fの大きさはクーロンの法則から
(1・1)
となる。ここで、πは円周率、εは誘電率と呼ばれ電気量が置かれている媒体の電気的性質で、真空の誘電率ε0を1としたときのその場所の誘電率の大きさを比誘電率εrと呼ぶ。真空の誘電率ε0の値はε0=107/4πC2で、Cは光の速さ、3×108(m/s)である。クーロンの法則は力の大きさは電気量が置かれている媒体(場所)の誘電率εの影響を受けていることを示している。同じ極性の電気量間には互いに反発する力が作用する。
 
1・1・2 波形と電圧(直流、交流、パルス波、実効値、波高値、平均値)
 図1・4に直流電圧の発生回路と直流電圧波形を示す。電池は直流電圧を発生する。スイッチをオン(接続)すると一定の直流起電力Eが取り出せる。電池の起電力Eは負荷を接続して電力Iを流すと電池の内部抵抗Rにより(I×R)の電圧降下を生じて電池から取り出せる電圧Vは起電力Eより低くなり
V=E−(I×R)(ボルト、V) (1・2)
となる。直流はトランスやコンデンサーを通すと電流が流れなくなる。直流を通すには直接導線で接続する必要があることから直流をDirect Coupled Current、(直接結合する電流)と呼ぶ。DCはこの頭文字の略称である。単位はそれぞれ、電流(アンペア、A)、抵抗(オーム、Ω)、電圧(ボルト、V)となる。
 
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図1・4 直流(DC)電圧
 
 図1・5に交流(AC)電源と交流波形を示す。交流はプラスとマイナスの極性が時間に従って交互に変化する電圧又は電流であることから英語でAlternative Current(AC)と呼ばれる。電圧波形は正弦波状に変化する。交流から電力を取り出すとき、同じ電力を取り出せる直流電圧と等しい交流電圧で置き換えてこれを実効値eと呼ぶ。商用電源の電圧100vは実効値である。交流電圧の波高値は図1・5から
となる。
 同じ電圧となる間の時間間隔が周期Tである。周期の逆数1/T=fが周波数である。周波数は1秒間の電気振動の回数と同じになる。50(ヘルツHz)の交流は1秒間にプラスとマイナスの極性が交互に50回入れ替わる交流電圧又は交流電流である。
図1・5 交流(AC)電源と波形
 
 図1・6に正弦波の半周期分の波形を示す。半周期分の面積と等しい矩形をつくりその電圧eAVを平均値と呼ぶ。正弦波交流の平均値は
(1・3)
 πは円周率、約3.14、AC100V電源の平均値は(1・3)式から約90vである。
図1・6 正弦波の波高値、実効値、平均値
 
 周波数が高くなると高周波となる。高周波は電波となって伝ぱんする。表1・1に電波の分類を示す。
 
表1・1 電波の分類
周波数の範囲 略称 波長による区分 別の呼びかた
をこえ 以下
3[kHz]〜 30[kHz]
VLF ミリアメートル波 90[kHz]〜160[kHz]・・・長波帯(ちょうはたい)
535[kHz]〜1605[kHz]・・・中波帯(ちゅうはたい)
1605〔kHz]〜4000[kHz]・・・中短波帯(ちゅうたんぱたい)
4000[kHz]〜25110[kHz]・・・短波帯(たんぱたい)
30[kHz]〜 300[kHz]
LF キロメートル波
300[kHz]〜 3[MHz]
MF ヘクトメートル波
3[MHz]〜 3[MHz]
HF デカメートル波
30[MHz]〜 300[MHz]
VHF メートル波 超短波(ちょうたんぱ)
300[MHz]〜 3[GHz]
UHF デシメートル波 極超短波(ごくちょうたんぱ)又はマイクロ波
3[GHz]〜 30〔GHz]
SHF センチメートル波
30[GHz]〜 300[GHz]
EHF ミリメートル波 ミリ波
300[GHz]〜 3[THz]
  デシミリメートル波  
 
 正弦波でない波形に方形波、パルス波、のこぎり波、三角波等がある。デジタル信号にはパルス波が用いられる。
 図1・7にパルス波の例を示す。パルス波形はパルス幅W、振幅A、周期Tで表せられる。一般には波形の立ち上がりと立ち下がりが斜めとなり振動(リンギング)を発生する。
図1・7 パルス波形
パルスの立ち上がりと立ち下がり
 
1・1・3 周期と周波数
 繰り返しを持つ波形において繰り返す時間間隔を周期と呼ぶ。図1・5の交流波形において周期はT秒である。1秒間に繰り返す波形の数が周波数fである。すなわち、1を周期Tで割ると周波数fが得られるので
(1・4)
周波数の単位はヘルツ、Hz、である。ヘルツは桁数に応じて
103Hz=1kHz(キロヘルツ)、106Hz=1MHz(メガヘルツ)
109Hz=1GHz(ギガヘルツ)、1012Hz=1THz(テラヘルツ)
の単位が用いられる。
 
1・1・4 電気(直流)回路
オームの法則;
 図1・8に直流電源(電池)に抵抗を接続した回路を示す。抵抗値R(オーム、Ω)と電源電圧E(ボルト、V)、抵抗に流れる電流I(アンペア、A)との間はオームの法則により
 
と表される。
 
(拡大画面:25KB)
図1・8 電圧、電流、抵抗の接続図と等価回路
 
抵抗の直列接続とオームの法則;
 図1・9の直列接続抵抗のオームの法則は直列抵抗を1個の合成抵抗Rs
 
Rs=R1+R2+・・・+Rn (1・6)
 
とみなして計算できる。
 直列抵抗の合成は単純にそれぞれの抵抗値を加え合せることにより計算できる。
図1・9 直列抵抗回路
 
抵抗の並列接続とオームの法則;
 図1・10の並列接続抵抗のオームの法則は並列抵抗を1ケの合成抵抗RPとして
(1・7)
より
(1・8)
として求められる。
図1・10 並列抵抗回路
 
電力(ワット)計算法;
 抵抗Rに電圧を加えると電流が流れてP(ワット、W)の電力が消費される。電力Pはワットの計算方法から
P=E×I(W) (1・9)
で計算される。(1・9)式(1・5)式を代入すると
P=(I×R)×I=I2×R (W) (1・10)
または
(1・11)
 として表すこともできる。







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