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(2)誘導電動機の始動方法
(a)かご形誘導電動機
 かご形誘導電動機では巻線形のように外部抵抗器を二次側に接続して始動電流を制限することができないので始動電流は一般に大きく、電動機定格電流の5〜7倍程度の値となる。
 かご形誘導電動機の始動方法は次のように分類される。
 
 
(i)全電圧始動
 直入始動であって、広く使用されるが、始動電流が大きい反面、大きな加速トルクが得られ、始動時間は短い。
(ii)スターデルタ始動
 始動電流、始動トルクがいずれも全電圧始動の1/3になる。
 始動回路は図2.16に示されたとおりであり最初コンタクターAを接にすると次いでコンタクターBが接になり電動機はスター結線で始動し電動機がスター結線における全速度に達するとコンタクターBが断となり次いでコンタクターCが接となって電動機はデルタ結線となり始動を完了する。
 なお、以下に説明するリアクター始動方式及びコンドルファー始動方式の場合も同じであるが最初のコンタクターの投入が手動で電磁投入される外は総てのコンタクターはタイマーを使用することによって自動で接、断の動作を行うようにするのが一般的である。
 
図2.16 スターデルタ始動回路モデル図
 
 スターデルタ始動は、スターからデルタに切替える時に電動機の電源電圧が途切れるので、突入電流が発生する。
 この突入電流が最大となるのはスターからデルタに切替えた際、電動機の固定子巻線に残存している電圧と電源電圧の位相差が180となり固定子巻線の残存電圧と電源電圧が重畳されて電動機に加わった場合である。
 従って、スターデルタ始動の場合はスターからデルタに切替える際タイマーにより固定子巻線の残存電圧が消滅するのを待って全電圧に切替え突入電流が過大となることを避ける方法が一般的にとられている。
 スターで始動した場合の始動電流及び始動トルクがデルタで始動した場合の1/3となる理由は次のとおりである。
 図2.17はスター結線の電動機を示し図2.18はデルタ結線の電動機を示す。
 
図2.17 スター結線
 
図2.18 デルタ結線図
 
 スター結線の場合線電流は図2.18から明らかなように相電流と等しくその値は次の様になる。
 
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 デルタ結線の場合の線電流Iはキルヒホッフの第1法則からIAとICのペクトル差となる。
 従って、これをペクトル図で表すと図2.19のようになる。
 このペクトル図からも明らかな様に線電流Iは次の式で表される。
 
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図2.19 デルタ結線の線電流
 
 これによりスター結線における始動電流は、デルタ結線における始動電流の1/3となることが解った。
 またトルクは巻線電流の2乗に比例するので(式20)と(式22)からスター結線の場合とデルタ結線の場合のトルクの比を求めると次のようになる。
 
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 これによりスター結線における始動トルクもデルタ結線における始動トルクの1/3となることが解った。
(ii)リアクトル始動
 この始動方式は図2.20に示されているように、始動時に電動機回路へ直列にリアクトルを挿入し電動機にかかる電圧を減ずることにより始動電流を抑えるものである。
 始動順序としては最初にコンタクターBが断の状態でコンタクターAを接すると電動機には電源電圧からリアクトルでの電圧降下分を差し引いた電圧がかかり始動を始める。
 電動機が全速度に達するとコンタクターBを接にして全電圧をかけると始動を完了する。このリアクトル始動の場合は電動機が加速し線電流が小さくなるにつれてリアクトルでの電圧降下分が小さくなるため電動機にかかる電圧が高くなり、定格の70〜80%速度において速度が急激に増大する特徴がある。
 リアクトル始動の場合は挿入されるリアクトルと電動機のリアクタンス(厳密には抵抗分もあるが値が小さいので無視して考える。)が直列に接続されるので電動機にかかる電圧は挿入されるリアクトルの大きさによって変わって来る。
 今、仮に、電動機にかかる電圧が全電圧のχ〔%〕になるようにリアクトルの大きさを選んだとすると電動機の始動電流も当然のことながら全電圧時の値のχ〔%〕となる。
 即ち電動機電圧に比例して始動電流も下る訳である。一方トルクは電動機の巻線電流の2乗に比例するから始動トルクは全電圧時のχ2[%]の値となる。
 
図2.20 リアクトル始動回路モデル図
 
 挿入するリアクトルの大きさは抑えたい始動電流の値と、必要な始動トルクの値を考慮して決定しなければならないが、リアクトル始動の場合、電動機電圧を全電圧の50〔%〕となるようにリアクトルの大きさを決め、実際に負荷が要求するトルクに応じて電動機電圧を調整出来るように65〔%〕及び80〔%〕のタップを設けておくのが一般的に行われている。
 またリアクトルの代りに抵抗を挿入して始動する方法もあり、この方法はリアクトル始動と同じ加速性を持っているが抵抗器の発熱の問題があるため一般には使用されない。
(iv)始動補償器始動(コンドルファ始動)
 この方法は図2.21に示すように単巻変圧器に中間タップ(一般には全電圧の50〔%〕、65〔%〕、80〔%〕の3点を設けて電動機電圧を下げることにより始動電流を抑えて始動する方法である。
 始動の順序はコンタクターB及びCが断の状態でコンタクターAを接すると次いでコンタクターBが接となり電動機には全電圧の中間タップ値に等しい電圧がかかり始動を始める。電動機が全速度に達するとコンタクターBが断となり電動機はリアクトル始動の場合同様に電動機回路へ直列にリアクトルが挿入された状態となり、その後コンタクターCが接となり電動機は全電圧運転となり始動は完了する。
 コンドルファ始動方式の場合は始動電流及び始動トルクとも全電圧始動の場合の値にタップ値の2乗を乗じた値となる。従って例えばタップ値を65〔%〕とした場合には始動電流、始動トルクとも全電圧始動時の約42〔%〕となる。
 従って、リアクトルの始動方式に比較して同じトルクの低下における始動電流の抑制特性は良好であると言うことが出来る。
 コンドルファ始動の場合始動電流始動トルクとも全電圧始動の場合の値にタップ値の2乗を乗じた値となる理由は次のとおりである。
 コンドルファ始動は前述の通り単巻線変圧器の中間タップを通して電動機にかかる電圧を抑えて始動する方式であるから簡単のために始動時の等価回路を単相で表すと図2.22のようになる。(ただしχはタップ値〔%〕を示す。)
 
図2.21 コンドルファ始動回路モデル図
 
 図2.22において単巻変圧器の1次側と2次側の電圧及び電流の関係は変圧器の原理から次のようになる。
 
 
 一方全電圧の場合の始動電流をI0とすると単巻変圧器の2次側の電圧は全電圧のχ〔%〕となっているのであるからI2もI0のχ〔%〕とならなければならない。
 従って、
 
 
 従って、始動電流は全電圧の場合のχ2〔%〕を乗じた値となることが解った。
 
図2.22 コンドルファ始動時の単相等価回路
 
 また(式28)で示される様に電動機の巻線電流は全電圧の場合のχ〔%〕となり、電動機のトルクは巻線電流の2乗に比例することから始動トルクも全電圧の場合の値にχ2〔%〕を乗じた値となることが解る。
 スターデルタ始動と異り、コンドルファ始動はリアクトル始動と同じく減電圧から全電圧に切替える時にも電動機の電源電圧が途切れることがないのでスターデルタ始動のようにスターからデルタに切替える際発生する突入電流が生じないと言う利点がある。
 以上のようにコンドルファ始動方式は始動電流の抑制特性が良好なこと及び全電圧切替時に突入電流が生じないという長所を持っている。
(b)巻線形誘導電動機
 巻線形誘導電動機の始動には、二次側に抵抗器を接続し、タイマーあるいは電流リレーを使って順次抵抗を短絡する方法をとるが、この方法は始動トルクを大きくするとともに始動電流を制限したい場合に効果がある。







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