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1・5 電子から見た磁性体、導体、不導体、半導体
1・5・1 磁性体
 磁石の近くにおかれた物体は磁化される。これを説明するのに1852年ドイツのウェーバは磁気分子説を発表した。これによれば磁性体(磁石を帯びうる物体)の内部には極く小なる磁石が内蔵され、それが勝手な方向に向いていて、互いに作用が打消しあっているから外部には作用が現われない。しかし、磁石のそばにこれをおけば、これらの極小磁石が正しく整列され、それが次第に拡張され全体が磁化されるという考え方である。
 この論だけでは磁性体の本質を説明していないので、現在では電子論的に説明されている。
 電子は図1・5でみるように原子核の回りを回転運動しているとともに電子自体も自転運動(これをスピンという。)をしている。そのため電子自体は磁気モーメント(微小磁石と同じ性質)をもち、かつ、軌道運動によってこのモーメントをもっている。また、原子核自体も磁気モーメントをもっているが、これは極く微小であるから無視できる。今原子に磁界が加わると電子スピンは磁界の方に向きをかえ、常磁性をもつことになる(これを磁気的分極正という。)。また、一方では電子が原子核の回りを軌道運動しているため、これはちょうど磁界中の導線の輪に電流が流れているようなものに相当しているから、これによって生ずる磁気モーメントは、前記の電子スピンと逆向きとなる。(これを磁気的分極負という。)。一般に物質はこの両者の作用の重ね合わせたものと考えればよい。全体として前者の作用が強い物質を常磁性体といい、反対に後者の作用が強ければ逆磁性体といっている。
1・5・2 導体
 図1・6において、電池の(+)端子から豆電球をとおって(−)端子に銅線を接続すれば電流が矢の方向に流れる。これは正電気と負電気を有する電池を銅線で接続したためであるから、自由電子((−)e)が正電気に吸引され図1・6に示すように、(−)端子から(+)端子に移動したことによる。電流はその逆に(+)端子から(−)端子に流れる。
 このように銅やその他の金属のように自由電子を多くもった物体を導体という。
 この場合自由電子は導体表面が陽イオンの正電荷のため、一歩も銅線外部に飛び出すことはできない。これを強いて導体外へ飛び出させるためには、これに相当する強いエネルギーを外部から与えればよい。この現象を電子放出という。
 
図1・6
 
 また、金属は熱して自由電子が熱エネルギーをうけて、金属表面から飛び出す現象を熱電子放出といい、この電子を熱電子という。次に導体表面に光をあてて、電子放出を起さす現象を光電子放出といい、このように表面から放出する電子を光電子といい光電管はこれを利用したものである。
 以上述べたように、電子の移動によって電気伝導が行われるが、その速度は、通常考えられるように電子というまりが投げられたとき、目的地に達するまである時間が経過して、それにつれて電流が流れるということではない。
 図1・7で示すように1位置の電子が1'位置に移動するとき、同時に2位置の電子が2'位置に移動するのであって、1位置から2位置へ移動するのではない。すなわち1位置の移動は極めて速かに他位置の移動に波及することである。その速度は導体が大気中であれば、光速C=3×108〔m〕に等しい。このように導体の自由電子は移動しやすい。
 
図1・7
 
1・5・3 不導体
 不導体は絶縁物ともいい、殆んど電流が流れないものである。これは完全なる真空の場合のように、電子及びイオンが全く存在しないか、又は電子及びイオンが存在しても本来の位置に閉じこめられて、その運動が制限されているためといわれている。しかし、強い電界が作用すれば、この位置はくずれ、変位を起こす電気現象が行われて1・3で述べたようなクーロンの法則が絶縁物の間で成り立つ、絶縁物をこのようにみる場合、これを誘電体と名づける。
 絶縁物には電圧を加えても殆んど前に述べたように電流は流れないが、電圧上昇がある度を越すと、絶縁物を貫通して火花放電が起こる。そして電流が流れ絶縁物としての機能がなくなる。このような現象を絶縁破壊といい、その破壊にまでいたらない、耐えうる最大電圧を耐電圧という。
1・5・4 半導体
 半導体は通常の状態では、導体と不導体との中間的の電気抵抗をもっている。いろいろの物質について電気抵抗率を示せば図1・8のとおりである。
 
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図1・8 いろいろな物質の抵抗率〔Ωm〕
 
 シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、セレン(Se)、テルル(Te)などの元素は半導体である。
 不純物をまったく含まない半導体を真性半導体といい、例えば、不純物を含まないけい素やゲルマニウムはこれに属する。これと違って不純物を加えた半導体を不純物半導体といい、不純物の種類によっては電気伝導が主として電子によって行われる場合をN形半導体、また、正のあな(正孔)による場合をP形半導体という。前記のけい素やゲルマニウムは不純物を加えで用いられる。
 真性半導体の電気伝導がなぜ行われるか簡単に説明する。
 真性半導体のゲルマニウムの結晶では隣りあったいくつかの原子が、それぞれの外側の軌道上の電子を図1・9に示すように共有して結合した結晶をつくっている。
 
図1・9 真性半導体ゲルマニウムの結晶
 
 この結晶力はやや弱く、常温でもこの電子は結晶を離れ、伝導電子として働く性質がある。(1・9図に於いて電子の抜けた孔は正孔となり電子と同様結晶内を動きまわる。また、熱エネルギーが与えられると電子が抜けでる。抜け出た電子は自由電子となり結晶の中を動きまわる。)
 それゆえに、結合にたずさわっている電子は熱や光などのエネルギーを受ければ、容易に結晶原子の束縛を振り切って飛び出して伝導電子となり、また、電子が飛び出したあとに正孔ができる。これらの両者は結晶内を自由に動くことが可能であるから、電界を加えれば結晶内で電気伝導に役立つことになる、これが絶縁物と違った点である。そして伝導電子と正孔とは電気伝導の役目をするので、電荷の運び屋という意味でキャリアという。この状態を図示すれば図1・10のようになる。
 半導体に外部電源を加えれば正孔は電界の方向即ち外部電源の(−)に、電子は電界と逆方向即ち外部電源の(+)に向って移動して電気伝導が行われる。
 
図1・10







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