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2・7・4 蓄電池充電用整流装置
 船内の常用電源が交流である場合、蓄電池の充電は通常半導体整流器により行われるが、充放電の性能や、取扱い上の便宜さに対する要望の程度に応じて各種各様の充電装置が用いられている。充電用整流器は使用される半導体の種類によって大別するとダイオード式とサイリスタ式に分けられるが、浮動充電に使用されながら高調波ノイズを嫌う負荷(電話、拡声装置等)が接続される場合には、リッブル電圧(直流電圧中に含まれる高調波電圧)を低減するために、直流出力側に適当な平滑回路から波回路を設けることが望ましい。
(1)ダイオードによる方式
 本方式に於て出力電圧を調節するには整流器への入力となる交流電圧を変化させることを要し、そのために色々な調整法が実用されているが、最も簡単な全手動調整によるものから、電圧電流共自動制御によるものまで、必要に応じ選択して使用されている。これらの中、代表的な調整法とその結線を下記に示す。
(a)手動電圧調整
 図2.104は三相交流を電源とし三相全波ブリッジ整流回路による概略結線を示しているが、容量が小さい場合には単相整流回路が用いられることが多い。結線及び部品構成は最も簡単であるが、調整は電圧計、電流計を見ながら手動でトランスのタップ切り替えにより行われる。
 本結線方式は充放電交互切替式の蓄電池の充電用に採用されることが多い。
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図2.104 電圧タップ手動切替式による充電装置の結線図
 
(b)シリコンドロッパによる電圧調整
 本方式は前(a)項の手動電圧調整の回路にシリコンドロッパと電圧リレーを付加して、浮動充電(負荷と蓄電池に接続したまま充電する方法)が行えるようにしたもので、陽極と陰極間に約2ボルトの一定電圧降下を生じるシリコンドロッパ(特殊性能のシリコンダイオードの一種)を数個必要に応じ組み込み、充電の経過と共に蓄電池の端子電圧が上昇すると電圧リレーが動作し、シリコンドロッパを順次挿入して負荷側の電圧を定範囲内に保つことができる。蓄電池が放電の場合は、シリコンドロッパは全部短絡されて蓄電池電圧そのままが負荷に加えられる。この方式は充電は手動調整、負荷電圧は自動調整による、いわゆる半自動の方式で、負荷電圧の調整が段階的であるほかに、負荷電流が大きい場合はシリコンドロッパによる電力損失も大きくなるので、比較的小容量で、限られた用途の蓄電池用に向いており、例えば、火災探知器、火災警報等の専用蓄電池に使用されることがある。
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図2.105 シリコンドロッパ自動電圧調整付き浮動充電装置の結線図
 
(c)可飽和リアクトルによる自動調整
 本方式の概略結線は図2.106に示す通りである。本方式では可飽和リアクトルを整流器の前段に接続しておき、入力電圧の変動、蓄電池自体の電圧変化又は負荷の変動等によって引き起こされる出力端電圧の変動に応じて、可飽和リアクトルのインピーダンスを変化させ、直流出力電圧を一定の範囲に保つように動作すると共に、出力電流を検出し過電流が起ると出力電圧を垂下させ、自動的に過電流を防止するように働く。
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図2.106 可飽和リアクトル自動調整式浮動充電装置の結線図
 
 ついでながら可飽和リアクトルの動作原理を次に説明する。
 図2.106中の一相分の巻線の部分を取り出して図示すると図2.107の通りで、鉄心の中央部に直流の制御巻線があり、鉄心の両端部に夫々の交流巻線がある構造となっている。この制御巻線に外部から直流励磁を加えると、鉄心の磁気飽和を起し易くなるので交流巻線のインピーダンスは直流励磁の増加にしたがって急速に低下する傾向を示す。処で、制御巻線の鉄心部に別のバイアス巻線による適当な励磁を与えると、図2.108に示すような特性が得られる。したがって、図2.106中の増幅部の特性を、直流出力電圧が設定値より上昇すると、増幅部出力電流が低下するようなものにすれば、変圧器巻線への挿入インピーダンスを自動調整して整流器出力電圧を一定に保つことができる。
 以上のように本方式は自動電圧調整と過電流抑制機能をもっているので、自動式浮動充電用として適している。
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図2.107 可飽和リアクトルの基本構造
 
図2.108 可飽和リアクトルの制御特性
 
(2)サイリスタによる方式
 概略結線は図2.109に示すように、整流部には混合ブリッジ結線が用いられる。本方式ではサイリスタのゲートを位相制御することによって任意の設定電圧が得られると共に、負荷電流を検出して過電流に対し電圧垂下特性をも与え、2・7・4(c)項の可飽和リアクトル方式と全く同様な電圧、電流の制御を行うことができる。船内通信電源用蓄電池の浮動充電に使用するには、リップル電圧をかなりな程度に含有しているので、これを充分に除去できるよう、リアクトルやコンデンサ等から成る平滑フイルタを整流器出力側に設ける必要があるが、可飽和リアクトル式に比べ全体として小形、軽量で、かつ、原価的にも有利であるので、一般的に広く採用されている。
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図2.109 サイリスタ自動調整式浮動充電装置の結線図







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