2・7 整流器と直流交流変換器装置
船内で交流から直流へ、また、直流から交流への電力変換用に使用される装置は、ほとんどが次に示すような半導体素子を使用している。これらの半導体素子の主なるものについて概説する。
(1)セレン整流素子
セレン整流素子は多結晶(単結晶の集まったもの。)半導体のダイオードの一種で、図2.68のようにニツケルめっきを施した鉄又はアルミニウムの基板の上にセレンを蒸着により皮膜状とし、これを活性化した後、その上に特殊合金を固着して、電極としたものである。普通のものは放熱板を付けて、自然冷却によって使用される。自然冷却時、電流密度は50〜100mA/cm2であり、1枚当りの逆耐電圧が低い(20〜30V)ので、必要に応じて積重ねて使用する。
図2.68 セレン 整流素子の断面
(2)シリコンダイオード
整流用の単結晶(単一のかたまりで、その原子が規則正しく配列したもの。)の半導体にはゲルマニウムダイオードとシリコンダイオードがあるが、前者は許容温度と逆耐電圧の両特性が劣るために、現状では殆ど使用されなくなり、一般には後者のシリコンダイオードが広く使用されている。
シリコンダイオードはシリコンの単結晶に添加する不純物の種類と量を調節してP形半導体(正孔と称する電子の抜けた穴をもっている。)とN形半導体(過剰電子をもっている。)の両方の部分を作り、PN接合部を形成したものをケースに密封し、電極を設けて作られる。P側の電極に正電圧を、N側の電極に負電圧をかけた時、電流は流れるが、これと逆の電圧をかけると、電流は流れなくなる特性をもつ。シリコンダイオードは逆方向電流が少く、高温(150〜200℃)に耐え、また、逆電圧の高いものが得られるので、理想的な整流子として認められている。
(3)ツェナダイオード(定電圧ダイオード)
半導体ダイオードのPN接合に逆電圧を加え、その電圧を増加させていくと、ある一定の電圧から図2.69に示すように急に逆電流が増加しはじめ、いわゆる降伏現象を呈する。このPN接合部の作り方によって降伏現象の起こった処で電流の広い範囲にわたって電圧はほぼ一定の値に保たれる。このような特性のダイオードをツェナダイオードと称し、一般にシリコンを材料としたものが用いられている。降伏電圧はシリコン中のPN接合付近の不純物の分布によって決り、5〜40Vの範囲のものがよく作られている。ツェナダイオードは降伏電圧現象を利用して、供給電圧の安定化や基準電圧を作るのに用いることができる。
図2.69 ツェナダイオードの電圧、電流特性
(4)トランジスタ
トランジスタは図2.70に示すように、PN接合のダイオードに、もう一つの半導体を追加して、三つの電極を付けた原理構造のもので、P形、N形半導体の接合配列の仕方によって、PNP形とNPN形の2種類がある。トランジスタはダイオードと同じく、ゲルマニウム又はシリコンを素材として作られるが、シリコントランジスタの方が耐熱特性が格段にすぐれているので、現在実用されているのは殆んどがシリコントランジスタである。トランジスタの3極はPNP形及びNPN形の夫々につき図2.71のように示される。即ちPNP形接合の場合は、一方のP形をエミッタE、他のP形をコレクタC、中央のN形をベースBと呼ぶ。回路図記号で表示する場合は一般に図2.71に示す表示法による。
図2.70 PNP形模型図
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図2.71 トランジスタの表示記号
トランジスタの動作を最も多く採用されているエミッタ接地の接続の場合について次に説明する。
図2.72に示すように、コレクタCに負の電圧を、エミッタEに正の電圧を加えると、BとCとの間にPN接合部に電流阻止方向の逆電圧がかかったことになるので、BとCの間には殆んど電流は流れない。次でエミッタEに正、ベースBに負となるような電圧(バイアス電圧)を加えると、EB間のPN接合に対し、順方向電圧がかかったことになるのでエミッタEの正孔((+)電荷に相当)はベースに向って流れ込む。ところがベース層は極めて薄いので、大部分の正孔はベース層を通り抜けてコレクタCとの境界面に達する。
図2.72 PNP形エミッタ接地
ここまで来ると正孔はコレクタCに加えられている負の電圧により引張られてコレクタ側に急に吸い込まれる。しかしべース層を通過する際、正孔の一部はベース領域内で電子((−)電荷)と結合して中和するのでべースから不足分の電子の補給を受けるために直流IBが流れる。エミッタに流れ込んだ正孔即ちエミッタ電流の大部分はコレクタ直流電流ICとなる。電流IE、IB及びICの間にはIE=IB+ICなる関係がある。
エミッタ接地の場合のトランジスタの出力静特性の一例を図2.73に示す。この図はベース電流を幾通りかに選び、それぞれの値を一定としてコレクタ電圧対コレクタ電流の関係を示したものであるが、コレクタ電圧10Vにおいて、べース電流を100μA変化させると、コレクタ電流が約9.5mA(100μAの95倍)変化することを示している。
トランジスタでは通常、入力電流をベースとエミッタ間に加えると、コレクタから増幅される出力として電流を取り出すことができる。エミッタ接地のトランジスタ回路でエミッタとべース間に微少交流入力信号電圧を加えて、コレクタ側に交流出力電流icが2.74図に示すように電流が増幅されて取り出される。
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図2.73 エミッタ接地における接合トランジスタの静特性
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図2.74 エミッタ接地のトランジスタ増幅回路
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