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2・8 持運び式双方向無線電話装置と固定式双方向無線電話装置
 一般に、双方向無線電話装置は、遭難現場において主として生存艇(救命艇、救命いかだなど)と本船や救助船との間、生存艇相互間などの連絡通信に使用される小型の無線電話の送受信機である。常時は操舵室等に格納されていて、非常の際に持ち出して使用する持運び式双方向無線電話装置と常時から救命艇に装備されている固定式双方向無線電話装置の二つの種類がある(電波法ではともに双方向無線電話と呼ばれている)。これらの装置の使用電波は無線通信規則の付録18号に規定されているVHFの船舶相互間の通信用の周波数で、同じ周波数を送信と受信に使用し、送信ボタンを押したときだけ送信をする、いわゆるプレストーク方式が使用されている。使用周波数は16チャンネルの遭難、安全、呼出し用の周波数(156.8MHz)を含む2波以上を備えることになっているが、普通は16チャンネルの他に15チャンネル(156.75MHz)と17チャンネル(156.85MHz)を備える例が多い。この無線装置は平時に使用されることもあるので、電源の電池には普通は充電式のニッケル・カドミウム電池が使用されている。
 これらの双方向無線電話装置の構成と性能にはIMO総会の決議A.762(18)(旧A.605(15)を改正)がある。その内容は次のとおり。
 
2・8・1 持運び式双方向無線電話装置
(a)生存艇用の持運び式双方向VHF無線電話装置は、無線通信規則、関連のITU−Rの勧告と一般要件の決議に適合する他、次の性能標準に適合すること。
(b)装置は持運び式で、生存艇間、生存艇と船舶間及び生存艇と救助ユニットの間の現場通信に使用できること。装置は適当な周波数で運用できるときは船内での通信用にも使用される。
(c)装置は少なくとも次で構成されること。
(1)空中線と電池を含めて、総合された送信機と受信機。
(2)押すと送信するスイッチを含めて、総合された制御装置。
(3)内蔵のマイクロホンとスピーカー。
(d)装置は次によること。
(1)未熟練者でも操作できること。
(2)手袋を着用した人でも操作できること。
(3)チャンネルの選択以外は片手で操作できること。
(4)1mの高さから堅い面への落下に耐えること。
(5)少なくとも5分間1mの水深の水圧に耐えること。
(6)水没状態で、45℃の熱衝撃があっても水密を保つこと。
(7)海水と油に過度の影響を受けないこと。
(8)生存艇を傷つける恐れのある尖った部分がないこと。
(9)小型で軽量のこと。
(10)船上又は生存艇上で出会うような周囲の雑音中でも動作できること。
(11)利用者の着衣に取り付けられるようになっていること。
(12)太陽光への長時間の暴露による劣化に耐えること。
(13)良く見える黄色/オレンジ色とするか、目立つような黄色/オレンジ色の縞を付けること。(新規定)
(e)送信の種類、周波数帯とチャンネル
(1)双方向無線電話は周波数156.800MHz(VHFチャンネル16)と少なくとももう一つのチャンネルで動作できること。
(2)装備したすべてのチャンネルは1周波数の音声通信のみとすること。
(3)送信の種類は無線通信規則の付録19号に適合すること。(注:付録19号VHF帯で海上移動業務に使用する送受信機の技術特性(抄);毎オクターブ6dBのプリエンファシスによる周波数変調(位相変調);周波数偏移(100%変調はできるだけ±5kHzに近づけ、±5kHzは超えない;垂直偏波;可聴周波数帯の限度3000Hz)
(f)制御器と表示器
(1)電源スイッチは無線電話装置の電源が入ったことのはっきりとした目視の表示を与えること。
(2)受信機は音響出力が変化できる手動のボリューム制御器を備えること。
(3)スケルチ(ミュート)の制御とチャンネル選択のスイッチを備えること。
(4)チャンネルの選択は容易に行え、そのチャンネルははっきりと識別できること。
(5)チャンネルの表示は無線通信規則の付録18号によること。
(6)すべての周囲の明るさの条件下でチャンネル16を選んだことの決定ができること。
(g)許容暖機時間
 装置はスイッチを入れてから5秒以内に動作すること。
(h)安全上の注意事項
 装置は空中線の回路が開放したり短絡しても破損しないこと。
(i)送信電力
 実効放射電力は最小0.25Wとすること。実効放射電力が1Wを超えるところでは、電力を1W以下に減少できる電力減少スイッチが必要である。チャンネル15及び17は実効輻射電力が1Wを越えないこと。
(j)受信機のパラメータ
(1)受信機の感度は、出力で12dBのSINAD比に対して2μVのe.m.f.に等しいかそれ以上とすること。
(2)受信機の干渉への対抗力は所要の信号が、不要の信号により厳しく影響されないようなものであること。
(k)空中線
 空中線は垂直偏波とし水平面にはできるだけ全方向性とする。空中線はその運用周波数で効率的な送信と受信をするのに適するものとする。
(l)受信機の出力
(1)オーディオ出力は船上又は生存艇上で出会うであろう周囲の雑音のレベル中で聞くのに十分のこと。
(2)送信の状態では、受信機の出力はミュートのこと。
(m)環境条件
 装置は−20℃〜+55℃の温度範囲で動作するように設計されていること。それは、−30℃〜70℃の温度範囲を通して保管しても損傷しないこと。
(n)電源
(1)電源は装置に組み込まれていること。更に、外部電源を使用して装置を動作させてもよい。
(2)電源は送受の比率が1:9という最高の率の電力で8時間動作できる十分な容量を持つこと。この送受の比率は、6秒の送信、上述のスケルチを開いたレベルの上での受信と48秒のスケルチを開いたレベルの下での受信と定義されている。
(3)持運び式双方向無線電話装置は1次又は2次電池を備える。1次電池は少なくとも2年の保管寿命があること。
(4)2次電池を備えるときは、遭難の状態が生じたときに完全な充電での利用ができるような適当な装備がなされていること。
(o)表示
 一般要件の決議に規定されている項目に加えて、装置の外面に次の事項をはっきりと表示すること。
(1)簡単な使用方法
(2)1次電池の場合はその寿命期限
 
2・8・2 固定式双方向無線電話装置
 固定式双方向無線電話装置の場合も同じIMO総会決議にその性能標準が規定されているが、かなりの部分が持運び式と共通であるので主要な相違点のみを掲げる。
(a)固定式は船内での通信用には使用されない。
(b)装置の構成は一体型でなくてもよく、送信機、受信機、空中線、プレストークつきのマイクロホンとスピーカーで構成されていればよい。
(c)(l)(d)項の(3)(4)(9)(11)(12)(13)の要件がなく、別に生存艇でおきる衝撃と振動に耐えること、生存艇に容易に取り付けができるよう設計されていること、という規定があり、角部での損傷が人体に対してのみになっている。
(d)制御器と表示器の項では次の規定がある。ハンドセットが備えられる場合には、スピーカー用の手動のボリューム制御器はハンドセットのオーディオ出力に影響をしないこと。
 この双方向無線電話装置は、GMDSSに先だって、SOLAS条約の2次改正、すなわち、救命設備関係の改正の際に導入され、船舶安全法の船舶救命設備規則では、持運び式や固定式の付かない単に双方向無線電話装置(電波法では現在と同じ双方向無線電話)と呼ばれている。現在の装置の主たる相違はその使用周波数で、チャンネル16を中心とするVHFの他に、船内通信に使用される460MHz帯からも選べるようになっているほか、VHFの装置の規格も相互通信は可能ではあるが、他のVHFの装置からは一部緩和されていた。
 GMDSSが実施されるに当たり、この旧型の装置は、条約によれば「1992年2月1日前に船舶に備えたVHF無線電話装置であって、IMOが採択した性能基準に完全に適合しないものについては1999年2月1日までは主管庁はその使用を認めることができる。この場合、その設備は承認された双方向VHF無線電話装置と両立性があると主管庁が認めたものでなければならない」となっている。これを受けて、船舶安全法の船舶救命設備規則の附則では「(前略)救命規則第79条の2に規定する船舶に現に備え付けられている双方向無線電話装置(略)であって旧救命規則の規定に適合するものは、管海官庁が差支えなしと認める場合には、これを引き続き当該船舶に備え付ける場合に限り、平成11年1月31日までの間は新救命規則の持運び式双方向無線電話装置に係わる規定に適合しているものとみなす」と規定され、また、電波法の経過規定では「平成4年1月31日までに無線局に備え付けられた双方向無線電話(450MHzを超え467.58MHz以下の周波数を使用する双方向無線電話を除く)の条件は、新規則の第45条の3の4の規定にかかわらず、平成11年1月31日までは、なお従前の例によることができる」とこれを認めている。







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