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8・3 インマルサット海事衛星通信システムの概要
 海事衛星通信システムは、3つの大きな構成部分からなっている。それらはインマルサットによって供給される衛星部分、海岸地球局及び船舶地球局である。このシステムの中枢センターはインマルサットのロンドン本部に置かれている運用制御センター(the operation control centre:OCC)であり、24時間体制で常時システムの管理、通信活動の調整を行っている。
 インマルサット衛星は、前述のように大西洋、インド洋と太平洋上空の赤道上で地表から約36000kmの高さの静止衛星軌道上にあり、ほぼ全世界的な有効通信範囲をもっている。
 図8・1に示すように船舶(船舶地球局)から発信された1.6GHz帯の電波は衛星で受信され、4GHzの電波に変換して、これを海岸地球局に送信される。陸上からの信号は逆の経路をたどって海岸地球局から6GHz帯の電波として衛星に向けて送信され、衛星はこれを1.5GHz帯の電波に変換して船舶地球局に送信する。
 衛星はこれら通信の中枢機能の役割を果たしている。現在のこれらの運用をしている衛星は、図7・15表8・2に示す位置にあり、従来の衛星より3〜4倍のチャンネル容量を持つ第2世代の衛星であるが、予備衛星としてまだ従来の第1世代の衛星が残っている。これらの衛星及び第3世代の衛星を含めて、それらの諸元を表8・3に示す。第3世代の衛星は(1)スポットビームの空中線をもつので、一部の海域で小さい利用者の空中線が使用できる(2)大型で中継容量が大きくなる(3)航法用の中継器をもっていて、GPSの業務の補充ができる(4)衛星の故障の自己診断をして、それを利用者に警報できるものである。
 
図8・1 海事衛星通信システム
 
 インマルサットの主要業務としては、その開設以来続いている電話、テレックス、ファクシミリ(FAX)を中心とし、移動局には80〜100cm径のパラボラ空中線を使用するA型が使用されてきたが、GMDSSの導入を契機に、無指向性空中線を主体とし、テレックスによるメッセージ通信のみを行うC型が導入され、遭難・安全通信ではむしろこのほうが主体になってきている。
 
表8・2 インマルサットシステムの衛星配置
(1992年6月現在)
海域 現用衛星(軌道位置) 予備衛星
太平洋 インマルサット−2(F3) (178°E) MCS−D マリサット(F1、F3)
インド洋 インマルサット−2(F1) (64.5°E) MCS−A マリサット(F2)
大西洋東 インマルサット−2(F2) (15.5°W) マレックスB2
大西洋西 インマルサット−2(F4) (54.0°W) MCS−B
 
表8・3 インマルサット衛星の主要諸元
(拡大画面:49KB)
 
 さらに、A型をデジタル通信化し、9600b/sの高速データ通信も可能となるB型、より小型の簡易な空中線で音声通信の可能なM型、そして、インマルサット条約の改正によって可能となった航空機との間の公衆通信と管制・業務、通信のための衛星通信であるAero型とがある。これらの各通信機能の諸特性は表8・4に示す。インマルサットの業務はまた、陸上移動体との間にも拡張されつつある。
 
表8・4 インマルサットの各型のシステム
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(注)
HSD:High Speed Data(高速データ通信)
EGC:Enhanced Group Call(高機能グループ呼出し)







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