5・5・2 周波数スペクトル
信号を周波数単位のエネルギー分布で表すと周波数スペクトルとなる。図5・17(a)にある信号の3次元表示を示す。基本波と2倍高調波の正弦波が合成されている。時間軸でこの波形をオシログラフで観測すると(b)の点線で示すそれぞれの正弦波が合成されて実線のような正弦波でない波形に観測される。
この信号をスペクトルアナライザにより周波数軸上で観測すると(c)に示すように2本のスペクトルとして分離して表示できる。
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図5・17 信号の3次元表示
(A)アナログスペクトルアナライザ
図5・18にスペクトルアナライザの原理図と外観図を示す。被測定信号にいくつかの周波数成分が含まれているとする。その内のfS成分を抜き出して表示するにはローカル発振器から信号f0を発生してその間の差周波数fiを周波数変換器とバンドパスフイルタを通してオシログラフの垂直軸(Y軸)に加える。
Y軸の振幅は差周波数fi
fi=fS−f0 (5・42)
のエネルギーを表示する。バンドパスフイルタは狭帯域で一定のfi成分のみを通過させる。ここでローカル発振器の周波数f0を直線的に変化するとf0よりfiだけ高い信号のfS成分のエネルギーのみがY軸に入力される。一方、ローカル発振器の周波数を直線的に変化させるためののこぎり波をオシログラフの水平軸(X軸)に加えるとローカル発振器の周波数に比例したX軸が掃引されるので周波数スペクトルが表示できる。
(a)原理図
(b)外観図
図5・18 アナログスペクトルアナライザ
(B)デジタルスペクトルアナライザ
時間波形から周波数スペクトルに変換するには数学的なフーリェ変換を計算することによる。図5・19のようにオシロスコープに表示されるのは信号の時間波形で、フーリェ変換することによりスペクトルに変換される。
図5・19 時間波形から周波数スペクトルへの変換
デジタルスペクトルアナライザはアナログ信号をデジタル信号に変換してから高速フーリェ変換(FFTと呼ぶ)演算をコンピュータで行いデジタル周波数スペクトルとしてオシログラフ上に表示する測定器である。図5・20に構成を示す。
図5・20 デジタルスペクトルアナライザの構成
FFT演算によるデジタルスペクトルCKは
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(k=0,1,2,・・・,N-1)
(5・43)
信号XjはデジタルスペクトルCKを逆FFT演算して
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(j=0,1,2,・・・,N-1)
(5・44)
から求められる。ここで、Nはデジタル標本化数、CKは標本化したk番目のスペクトル成分、Xjは波形を標本化したときのj番目の振幅成分を表す。
デジタルスペクトルアナライザは信号をデジタル化してXjを(5・43)式によりN回の計算を行うとk番目のスペクトルCKが求められるので、さらにkについて0〜N-1、のN回計算をして全スペクトルが求められるので、N×N=N2回の計算が必要となる。詳細なスペクトルを求めるため標本化数Nを大きくとると膨大な計算が必要となる。
CoolyとTukyは高速フーリェ変換(FFT)と呼ぶソフトウエアを発見して計算する回数を大幅に少なくすることに成功した。
FFTでは標本化数Nを二つの整数PとQの積に分解して
N=P・Q (5・45)
とおいて全計算回数N2を
N2→N(P+Q) (5・46)
に減少させた。例えばP=4、N=210=1024とすると計算回数は約50分の1に少なくできるので高速でスペクトル計算が可能となる。
デジタルスペクトルアナライザはFFT計算によりほぼリアルタイムでスペクトル表示ができるようになった。
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