3・2 クライストロン
クライストロンは、航海用レーダーの受信機の局部発振器に使用されているが、最近はマイクロ波用半導体のガンダイオードに置き換えられ、さらに局部発振器、周波数変換器が一体となったマイクロ波集積回路に置き換えられている。現在クライストロン陸上用に使用されているが、一般商船レーダーには使用されていない。クライストロンは速度変調管とも呼ばれ、船舶用レーダーの局部発振管に使用されていたものは反射形である。
図3・5 反射形クライストロンの構造
反射形クライストロンの構造を図3・5に示す。
反射形では空胴共振器は一つで、直進してきた電子を追い返すための、リペラと呼ばれる負の電圧の掛かった反射電極が用意されている。図3・6に反射形のクライストロンの電子が集まる状況が示してあり、その構造と反射電極などに加えられた電圧によって、G1とG2のグリッドで加減速された電子が戻されて、G2とG1を通り抜けるときにちょうど一群となり、かつ、G1とG2に加わっているマイクロ波の電界が増幅されるようなタイミングになっている。
したがって、G1とG2にある信号が発生すると、電子の流れがそこを往復の二度通ることによって、信号は次第に拡大をしていき、発振器としての動作をすることになる。
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図3・6 反射形クライストロン内の電子の動き
航海用レーダーに使用される反射形クライストロンの代表例として2K25があるが、共振空胴内蔵型で、その特性は次のとおりである。
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・陰極 |
傍熱形 |
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ヒーター電圧 |
6.3V |
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ヒーター電流 |
0.44A |
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・周波数 |
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8,500〜9,660MHz |
マイクロ波で使用される半導体発振器や増幅器には幾つかのものがあるが、ここでは、反射形クライストロンに代わって、受信機の局部発振器に使用されるガンダイオードについてのみ述べる。
図3・7 ガンダイオードの構造
ガンダイオードは1963年にアメリカのガン博士によって発見されたガン(Gunn)効果を利用したマイクロ波の発振器である。この効果は、ガリウム砒素(GaAs)のN型の結晶の両端に直流の電圧(厚さ1cm当たり数千V)を掛けたとき、その結晶中を流れる電流が、結晶の厚さで決まる周波数で振動をするというものである。ガンダイオードの構造は図3・7に示すとおりで、GaAsの細片の両面に電極を取り付けたものである。この両電極に直流の電圧を加え、電圧を次第に高くしていくと、電圧が低い間は一定の抵抗を示して、流れる電流は電圧に比例しているが、この電圧が厚さ1cm当たり3,000Vを超えると電流は飽和して、逆に減少をするという負性の抵抗を示すようになる。これは、この半導体の中を流れる電子の移動速度が遅くなるためであって、こうなると陰極の付近に電子が固まって、陽極付近には電子が少なくなる。この電子の固まりはそのまま陽極の方に移動をして、陽極に達して大きな電流となるが、そうするとまた陰極近くに電子の固まりができる。こうして、ダイオードには振動電流が流れるが、電子の集団の移動速度はほぼ105m/sなので、GaAsの動作領域を10μmとすると、それを通る時間は0.0001μsとなり、10GHz周波数が発振されることになる。この発振周波数は、加えられる電圧や接続される空胴共振器の共振周波数によって、かなりの範囲を変化させることできる。
図3・8 ガンダイオード初振器の空胴共振への取付け
レーダー受信機の局部発振器に使用するときには図3・8に示すように、ガンダイオードを空胴共振器の一部に接続しておくと、発振周波数は共振器によってほぼ決定されるので、空胴共振器の調整によって、発振周波数を微調整することができる。代表的なガンダイオードにSGX−12B(SGX−12)があり、その動作特性は次のとおりである。
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・周波数 |
9.3GHz〜9.5GHz |
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・出力 |
約20mW以上 |
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・動作電圧 |
8〜11VDC |
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・動作電流 |
0.4〜0.6ADC |
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