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4・4 電池
 電池には一次電池と二次電池とがある。
 電池とは電池内部に蓄えられた化学エネルギーを電気エネルギーに変換して、これを外部に取出すもので、一次電池は一度電気エネルギーを取出してしまう(これを放電という。)と、電池の役目を終るものをいい、例えば、乾電池、水銀電池等がある。
 二次電池とは放電をしつくしても、再び外部から電流を流し込んで(これを充電という。)電池内に再び化学作用によって、電気エネルギーを蓄え、また、これを使用することのできる電池をいっている。これを蓄電池ともいう。このようにして、放電−充電−放電−充電という具合に何回か繰返し使用に耐えるものである。これには鉛蓄電池、アルカリ蓄電池等がある。
 
4・4・1 乾電池
 1865年フランスのルクランシェが二酸化マンガンと黒鉛の混合物を陽極、亜鉛を陰極、塩化アンモニウムを電解液に用いたマンガン電池を発明した。それゆえにマンガン電池ともいう。
 
図4・5
 
 陽極合剤は電解液を含んだ二酸化マンガンと黒鉛、陰極は亜鉛管、陽極はカーボン棒からできていて、漏液がないよう最近のものはプラスチックを用い密閉構造になっている。(図4・5参照のこと。)1対の無負荷電圧は1.5Vで、放電終止電圧は0.85V位である。構造は円筒形と高電圧を得るために、偏平な電池を積重ね、各電池を接続してできた積層乾電池もある。用途としては、懐中電灯、携帯用ラジオ等用途が広い。
 以上のほか、乾電池の種類として、アルカリマンガン乾電池などがある。
 
4・4・2 二次電池(蓄電池)
(1)鉛蓄電池
(a)構造は陽極板群、陰極板群、隔離板、電解液及びこれらをおさめる電槽等からできている。陽極板にはいろいろ種類があるが、船用はぺースト式で、鉛合金製の格子に鉛粉(PbO2)を希硫酸で練ったペーストを充填し、乾燥した後化成を施してペーストを活物質化したものである。
 陰極板(Pb)は陽極板とほぼ同様で、鉛合金製の格子にペーストを充填し、乾燥化成してペーストを活物質化したものである。
 電解液は希硫酸(H2SO4)の水溶液で+イオンと−イオンに電離し(H2SO4←→2H+SO4−−)電気を伝導する役目をする。
 隔離板は陽極板と陰極板の間にそう入し、両方の接触の防止に使用し、かつ、ガラスマットを使用して活物質の脱落を防いでいる。
 電槽は耐酸性合成樹脂等で丈夫に製作され、電解液の漏れがなく、絶縁良好で、よく振動に耐えるようになっている。
 電解液は精製希硫酸で、その比重はその蓄電池が完全充電状態で20〔℃〕において1.240±0.010を基準にしている。その他詳細はJISF8101(船用鉛蓄電池)を参照のこと。
(b)起電力は、陽極板と陰極板を互いに隔離して電解液中に浸すと、両極に電圧が発生する無負荷の状態で約2〔V〕である。
(c)充放電時の電圧は、充電終期において約2.6〜2.7〔V〕 放電終期には1.80〔V〕が限度にしてある。したがって、通常(b)のとおり2〔V〕としている。
(d)容量の表わし方には、アンペア時容量(Ah)とワット時容量(Wh)があるが、一般にはアンペア時容量が使われる。
Ah=放電電流〔A〕×放電時間〔h〕
Wh=アンペア時容量〔Ah〕×平均放電電圧〔V〕
(e)放電率とは、蓄電池容量に対する放電電流の大きさを表すもので、蓄電池の容量や充放電中の端子電圧はこの放電率によって大きく左右される。
 鉛蓄電池の場合には、時間率(HR)電流で決められている。
(f)時間率電流とは、蓄電池を一定電流で所定の放電終止電圧(1.8V)まで放電したとき、一定時間放電を持続することのできる電流の大きさを表す。
 船用蓄電池の場合は10時間率電流で決めてある。
 例えば、船用蓄電池の規格表は次のとおりである。
 
形式 電圧〔V〕 10時間率容量〔Ah〕 備考
SS−400 2 400 40〔A〕×10〔h〕を意味する
SS−300 2 300 30〔A〕×10〔h〕を意味する
 
(g)寿命はいろいろの角度から決められる。普通定格容量の80(%)に容量が減退するまでの充放電回数又は耐用年数で表される。適正な条件で使用される場合には、5〜7年の寿命があるといわれている。
(h)充電中の発生ガスは陽極より酸素ガス、陰極より水素ガスであって、この混合ガスは火気によって爆発の可能性があるので、蓄電池室は十分換気に注意し火気を近づけないようにする。
(i)内部抵抗
 蓄電池の内部抵抗の値は極板の面積に反比例し、容量の小さいほど内部抵抗は大きくなる。見かけの内部抵抗の概算を次の表によって求められる。
 
蓄電池の形式 内部抵抗×定格容量〔Ω・Ah〕 備考
25℃ −5℃
船用蓄電池SS形 0.22 0.32 ペースト式陽極板
エンジンスタート用HSE形 0.17 0.19 同上
 
〔例題〕 (1)船用SS形鉛蓄電池200Ahの25℃における、単電池(1セル)の内部抵抗は何オーム〔Ω〕か。
〔解〕 上表により、見かけの内部抵抗×定格容量〔Ω・Ah〕は、0.22であるから
見かけの内部抵抗
 
 
〔例題〕 (2)上記の場合に、24〔V〕にした場合の蓄電池の正負両極間の抵抗は何オーム〔Ω〕か。ただし、接続線、接続かん、接触抵抗等の総抵抗は17.9×10−4〔Ω〕とする。
〔解〕 鉛蓄電池1セルの電圧を2〔V〕とすれば、24〔V〕ではセル12個を直列に接続する必要がある。
よって、内部抵抗=0.0011×12=0.0132〔Ω〕
総抵抗R1=0.0132+0.00179=0.01499〔Ω〕
〔例題〕 (3)上記(2)の24〔V〕、200〔Ah〕の鉛蓄電池を充電完了後0.015〔Ω〕の外部電線で、短絡した場合の短絡電流は何アンペア〔A〕となるか。
〔解〕 放電初期電圧を1セル当り2.09〔V〕とすれば、この蓄電池の放電初期
電圧=2.09〔V〕×12=25.08〔V〕
 また、諸抵抗の合計は上記(2)及び本題から
総抵抗=0.0132+0.00179+0.015=0.02998〔Ω〕
 
 
(2)アルカリ蓄電池
(a)アルカリ蓄電池は、正極に酸化ニッケル、負極にカドニウム又は鉄を用い、電解液には苛性カリ(KOH)の水溶液を用いた蓄電池である。そして、発明者の名をとって、負極にカドミウムを用いた電池をユングナー電池(メーカの名をとってニッフェー電池ともいう。)、鉄を用いた電池をエジソン電池と称している。
 船用にアルカリ蓄電池の規格はないが、一般にはニツケル・カドミウム式のアルカリ蓄電池が使用されているので、以下これについて述べる。
(b)構造は、内容は違っているが鉛蓄電池と大差ない。極板にはその構造によってポケット式と焼結式とあるがポケット式を例にとれば、陽極板は水酸化ニッケルに導電性をもたせるために黒鉛を混ぜたものを充てんし、化成を施して活物質化したものである。
 陰極板は酸化カドミウムの粉末を充てんし、化成を施して活物質化したもので、小量の鉄粉を加えて活物質の早期劣化を防止している。
 電解液は苛性カリ(KOH)の水溶液で電気電導の役割をするが、鉛蓄電池のように直接充放電反応には関与しない。比重は20〔℃〕において1.200〜1.230でポケット式の場合には少量の水酸化リチウムを添加する。
(c)起電力は電解液の比重や温度によって多少異なるが約1.3〔V〕である。放電中の平均電圧は1.2〔V〕であるから、公称1.2〔V〕としている。
(d)放電時の電圧は、充電終期において約1.7〜1.8〔V〕、放電終期には電圧が急降下する特長があり約1〔V〕ぐらいとなる。
(e)容量の表し方は鉛蓄電池の場合と同様アンペア時容量〔Ah〕が用いられる。
(f)放電率定格容量〔C〕との比率(×C)を用いて電流の大きさを表す。
注:放電電流Iと定格容量Cとの比(I/C)で放電電流を表す。
例えば、I/C=0.2であればI=0.2Cが放電電流である。
(放電持続時間を鉛電池ほど決めてないためである。)
例えば、定格容量500Ahのアルカリ蓄電池の場合
放電電流0.2C〔A〕 0.2×500=100〔A〕
放電電流0.5C〔A〕 0.5×500=250〔A〕
放電電流1C〔A〕 1×500=500〔A〕
(g)放電率と容量は放電率が高くなるほど容量は減少するが、その度合は鉛蓄電池ほど大きくはない。
(h)寿命はいろいろの角度から決められる。普通定格容量の80(%)以下に減退するまでの充放電回数又は耐用年数で表す。適正な保守で使用される場合には、10〜15年の寿命といわれている。
(i)充電中の発生ガスは鉛蓄電池の場合と全く同様である。
(j)内部抵抗の値は鉛蓄電池の場合とほぼ同様な考え方であるがやや少なめである。







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