2・7・3 非常電源用インバータ
直流から交流にエネルギーを変換する装置をインバータと称するが、船舶で一般に採用しているインバータは主として航海灯などの重要負荷に対し主電源停電時の緊急給電用のもので、蓄電池を電源とする静止形のものである。これ等の静止形インバータは一般に並列インバータという結線方式のもので、その基本動作は図2.102(a)に示すように変圧器の一次側の巻線を2分割し、その各々に交互のスイッチを切り替えて電流を流してやると、高圧側の二次巻線に交流電圧を誘起する原理に依っており、このスイッチに相当する部分をサイリスタによって置き替えたものである。単相並列インバータの回路では図2.102(b)に示すように2箇所のサイリスタが配置されサイリスタのゲートにはトリガ信号(点弧信号)が交互に与えられる。サイリスタS1が導通すると変圧器巻線an間に蓄電池電圧と同じEなる電圧がかかるので、巻線の両端には変圧器作用により2Eの電圧が発生し、これが転流コンデンサCに充電する。
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図2.102 単相並列インバータの結線図
次にサイリスタS2のゲートにトリガ信号が与えられ、S2をターンオンすると、一次巻線を流れる電流の向きが前と逆になるので、ab間に誘起する電圧の極性も逆になり、S1の陽極電圧が瞬間的に−2Eまで低下するのでS1はターンオフし、一方転流コンデンサCは前と逆の極性の2Eの電圧で充電される。このように交互にトリガ信号がサイリスタに与えられることによって、ON、OFF動作を繰り返し、交流電圧を発生する。この結線方式では電圧と位相を異にする誘導性の負荷電流が流れると、それに対応して変圧器次巻線に遅れ位相の電流が流れ、これを転流コンデンサCが吸収しなければならないことになるので、力率の低い誘導性負荷の場合は、このコンデンサの容量を増大しなければならず、また、これによって瞬間的に発生するピーク電圧の抑制処置も必要となる等不利な点が生じるので、リアクタンス負荷のように無効電流分を含む一般的な負荷に対しては次に示す改良形並列インバータ(改良マクマレーインバータとも呼ぶ。)が使用に適している。
改良形並列インバータの回路は図2.103に示すように、並列インバータの無効負荷電流に対する動作機能を改良するためにフィードバックダイオードと称しているD1、D2のダイオードを挿入した点が特徴的である。誘導性負荷電流は電圧が零となっても流れ続けようとするので、例えばサイリスタS1がターンオフしても負荷電流の遅れ無効電流分ILに対応して一次巻線にIL2が流れようとする。この電流に対しダイオードD2が導通してこの無効電力を電源に送り返すように働く。
また、この回路では遅れ力率の負荷のみでなく、進み力率の負荷もフィードバックによって補償することができるので、転流コンデンサCの容量を小さくすることができ、また、無負荷から全負荷に至るすべての負荷状態で方形波出力電圧を出すと共に、サイリスタに異常に高い電圧がかかることがないので、性能、安定性及び経済性の点で非常に優れた回路方式とみなされ、広範に使用されている。
図2.103 改良形並列インバータの結線図
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