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(c)負荷の種類による位相制御角と出力電圧との関係
(i)抵抗負荷の場合
 図2.96は三相半波整流回路の場合を示している。制御位相角αでゲートに点弧パルス電圧を加えると、各相のサイリスタ素子は順次点弧されるが、交流電源側の相電圧が零に至る時点で電流は流れなくなる。放電用のバイパスダイオードを並列につないだ誘導負荷の場合は、サイリスタ出力電圧零の状態では蓄積していた負荷中のエネルギーをダイオードを経て放電するので、負荷電流は連続して流れるが、出力電圧の波形は抵抗のみの負荷の場合と同じである。
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図2.96 抵抗負荷時の三相半波サイリスタ整流器の直流出力波形
 
(ii)誘導負荷の場合
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図2.97 誘導負荷時の三相半波サイリスタ整流器の直流出力波形
 
 図2.97に示すように、回路の抵抗の他にインダクタンスLをもった誘導負荷回路を整流出力端に接続する場合、位相制御角αと出力電圧及び負荷電流との関係は抵抗負荷の場合と大いに異なっている。
 インダクタンスLをもつ回路では、その回路中の電流が減少するように変化すると、インダクタンスLの保持していたエネルギーを放出して電流を流れ続かせるように働く。これはちょうどインダクタンスLに図中の矢印のELのような逆起電力が発生するとみなされ、したがって、整流器出力の電圧が負になっても、電流が流れ続けようとする。インダクタンス成分が余り大きくない場合には、電流が断続する現象を生じるが、インダクタンス成分が大きくなると電流は連続するようになる。位相制御角αが90°になると、脈動電圧の正成分の大きさと負成分の大きさとが同じとなり、そのため出力平均電圧は零となる。
(iii)直流電動機負荷の場合
 直流電動機の電源として制御用整流器を使用し、制御整流器の出力電圧を変化させて直流電動機の回転数の制御を行う場合の注意すべき動作特性について、代表的な三相全波純ブリッジの結線方式を例にとり説明する。
 この負荷回路は電動機電機子回路の抵抗の他に大きなインダクタンス成分を含んでいるので、回路の分類としては誘導負荷であるが、直流逆起電力が発生する点が(ii)項の誘導負荷の場合と異なる。
 電動機が整流器から電力を取って運転を行っている場合は、整流器の位相制御角と出力電圧の関係は(ii)項の誘導負荷の場合と同じであるが、図2.98に示すように電動機が負荷側から回されて発電機として動作し、電動機からサイリスタを通じて電源に電力を送り返す作用をする場合、即ち逆変換運転(インバータ運転)時のサイリスタの位相制御と電圧、電流の様相は非常に特徴的で、重要な機能を発揮する点であるので注意しなければならない。
 サイリスタ整流器のインバータ運転が行われるには、サイリスタの整流電流の方向は変り得ないので、整流器出力電圧の極性を(+)(−)逆とし、この負極性電圧に打ち勝つような逆起電力が負荷側回路中に発生しなければならない。直流電動機によるインバータ運転では、この逆起電力は回路のインダクタンスのほかに、電動機によって有効に発生される。負荷回路中に十分な大きさのインダクタンスがある場合は図2.92にて示すように、位相制御角αが60°より大きくなると電圧波形の点から見て、周期的にインバータ動作が起り、αが90°に至ると直流平均電圧は零となる。したがって、α=0〜90°の領域で順変換運転(整流器運転)が行える。
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図2.98 三相全波形純ブリッジによるサイリスタ整流器の逆変換運転時における電圧波形
 
 更に電動機の逆極性起電力が回路中に存在する場合はαを90°より大きくすることにより、サイリスタ整流器の平均出力電圧を負極性とすることができるので、電圧負方向で電流正方向の状態となり、電源に電力を送り返す作用、即ちインバータ運転を行い得ることになる。
 念のため、α=130°の場合につき、図2.98によりサイリスタの動作を説明する。w相のサイリスタSwとv相のサイリスタSyが導通していた処にα=130°でサイリスタSuとSyにゲートパルスが送られると、電動機回路の起電力に対し、これまで導通していた整流素子SwとSyの背後の変圧器巻線内部に発生している負方向電圧(図B、図D中のabに相当)よりも整流素子SuとSyの背後の負方向電圧(図中のacに相当)の方が小さいので、Swには電流が流れなくなり、代りにSuに電流が移ることになる。即ちSwはターンオフし、Suはターンオンして転流が行われる。なお、この際の回路中を流れる電流は「誘導負荷の場合」に示したと同様の現象を生じ、変圧器内部に生じる交流の負方向電圧が高まって電流が減少しようとすると、負荷回路中のインダクタンスによる起電圧が図中のELで示すように電動機の起電圧Eを加勢する方向に発生するので、インダクタンスを十分大きくすると電流の断続を防ぐことができる。
 転流失敗防止のための位相制御角
 図2.98、図Bの右端の垂直線a’b’c’で示すように万一パルス位相制御角が180°以上になって、図D中のサイリスタSuとSyにゲートパルスが与えられる時はa’b’よりa’c’の値の方が大きく、即ちSySu間の変圧器内部電圧の方がSySw間のそれよりも大きいのでSwはターンオフできないでSuへの転流が行われ得ない。
 其処でサイリスタは一旦通電電流が無くなっても、ターンオフ時間と呼ぶ或る決まった大きさの時間を経過しないで、再び順方向に電圧を加えると電流を阻止することができない特性を有するので位相制御角を180°以下で、ターンオフ時間相当の余裕時間をとるようにしないと転流失敗を起す恐れがある。例えば、Swが転流失敗を起すと、次の瞬間に直列にあるもう一つのサイリスタSzが点弧する場合は電動機側に対し短絡と同様の現象を引き起こすことになる。したがって転流失敗を起さないで安定なインバータ運転を行うために、位相制御角を180°以下のある安全な値に制限する必要がある。多くの場合、この制限値はα=150°程度に設定される。
 以上に説明したように、サイリスタ整流器を電源として直流電動機を運転する場合にはパルス位相制御角の変化により電動機として動作する順変換運転(整流器運転)から、発電機として動作する逆変換運転(インバータ運転)まで広い範囲でサイリスタを動作させることができる。この動作特性を図示すると図2.99のように直流電圧はα=90°付近で位相制御角αにほぼ比例して変化することを示している。
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図2.99 三相全波純ブリッジのサイリスタ整流器における位相制御角と直流出力電圧







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