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8. 防食工事
 
8.1 防食工事の目的
 船舶に使用されている金属は、最も過酷な環境におかれている。大気中にある金属には海塩粒子が付着し、酸化物となって腐食が進行する。また、海水中のものは伝導性の良い電解液に接しているので、電気化学反応により、金属の陽極部は電子を失って海中に溶け出す。
 また、鋼と銅合金あるいはアルミニウムなどの異なった金属が2種類以上接触して海水中に共存すると、異種金属間に電位差が生じ、局部電池が形成されてイオン化傾向の大きい方の金属が腐食する。
 FRP船については、FRPが合成樹脂であるため、船体は防食対象とはならないが、プロペラやプロペラ軸などには腐食が生じる。
 これらの腐食を防止するために防食対策を講ずる必要がある。
 
8.2 工事用材料部品の防食
(1)耐食性金属以外の金属材料や部品は、防食めっきが施されたものを使用するか、あるいは塗装を施す。
(2)軽合金に接する箇所に使用する鋼製のボルト及びナット類は、亜鉛めっきが施されたものであること。
 
8.3 接触部の防食
 暴露部又は湿気の多い場所に取付けられる電気機器で、取付部分が異種金属と接触する場合(例えば、アルミと鉄、アルミと銅又は黄銅)は、接触部での電食を防止するために、めっき又は塗装により防食性を与えるか、適当な絶縁物を介して取付ける。
 
8.4 防食塗装
(1)ケーブル布設後あるいは機器取付け後に防食塗装が困難な部分は、布設又は取付けに先立って塗装する。
(2)塗装した部分や亜鉛などでめっきを施した部分が溶接や切断などによってはく離した箇所は、完全に補修塗装をする。
 
8.5 没水部の防食
 船体の没水部の防食は、塗装とともに流電陽極法あるいは外部電源法などの電気防食法を併用する。電気防食については、特に船尾周辺はプロペラの裸銅合金と接しているので、異種金属接触による腐食を防ぐために特に留意して行う。
 
8.5.1 鋼船の電気防食
(1)流電陽極法
 流電陽極法は、船体の鋼よりもイオン化傾向の大きいアルミニウム、亜鉛などの金属(卑な金属という)を用いて、異種金属接触による電池作用を利用して防食する方法である。
 流電陽極材料は、高純度亜鉛あるいは高純度アルミニウムに特殊金属を添加したもので、常に安定した電位と電流が得られるような製品である。現在、最も多く船体外板の防食に使用されているものは、亜鉛合金陽極、次いでアルミニウム合金陽極である。
 流電陽極は、電流の発生に伴って溶解消耗するので、犠牲陽極とも呼ばれ、一定期間毎に取替える必要がある。
(a)陽極配置
(i)1万トンの貨物船の場合(例1)
 陽極の配置は、陽極個数算出式より求められた数量の40〜50%を船尾周囲に取付け、残りの60〜50%を船体部に分散して取付ける。船体部の船首及び船尾に陽極を取付ける場合は、流水方向と同一の角度になるように図8.1のように配置することが望ましい。
 またスタンフレームの周囲は、陽極の出っ張りにより乱流を生じ、プロペラ先端の腐食を促進させるおそれがあるため、図8.2に示すようにNO ANODE ZONE(British Standard "Cathodic Protection CP1021" Aug.1973参照)を設けている。
(ii)120トンの漁船の場合(例2)
 漁船の場合の陽極配置を図8.3に示す。
 
(1万トンの貨物船の場合)
注:陽極数量の60〜50%を船体に配置
図8.1 大型船の陽極配置
 
注:陽極数量の40〜50%を船尾に配置
図8.2 大型船の船尾部の陽極配置
 
(120トンの漁船の場合)
図8.3 漁船(鋼船)の陽極配置
 
(b)陽極の取付方法
(i)ボルト式
 船体外板にボルトを溶接し、図8.4のようにボルトに陽極をセットして平座金、ばね座金、ナットを用いて確実に締付けて、電気的接触を良くする。
 さび付いたボルト、座金、ナットなどを使用したり、締付面に異物を挟み込んだりしない。
 
図8.4 ボルト式の取付方法
 
(ii)溶接式
 陽極から出ている心金脚を図8.5のように、直接船体外板に溶接して取付けるので、電気的接触は確実である。
 
図8.5 溶接式の取付方法
 
 船体塗装作業の際に陽極表面に塗装が付かないように注意する。もし塗料が付いた場合にはシンナーで完全に落とす。







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