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報告 V
ばら積み貨物船の安全対策に関する検討
 
V. ばら積み貨物船の安全対策に関する検討
 
日本海事協会 研究センター 海洋開発室 有馬 俊朗
 
1. はじめに
 ばら積み貨物船の安全対策(Bulk Carrier Safety、バルクキャリアの安全性)に関する検討は1997年のSOLAS XII章の採択により決着したかに思われたが、英国が提出したDerbyshire号事故報告を含む一連の提案により、議論が再燃した(表1参照)。この中で、FSAによる検討が必要との提案もなされ、英国提案に基づきIMOの枠組みの外で国際協力の下、バルクキャリアのFSA(Formal Safety Assessment)検討プロジェクトを立ち上げること、その結果をIMOに報告することが1998年(平成10年)12月に開催されたMSC70合意された。この際、日本は独自にFSA検討を行うことを表明し、1999年から第74基準研究部会「ばら積貨物船の安全対策に関する調査研究」(RR74バルクキャリアWG)がその作業を開始した。
 
 第74基準研究部会バルクキャリアWGでは、このばら積み貨物船の安全対策に関するバルクキャリアの安全に関するFSA Studyを平成11年度から開始し、
 
平成11年度は、
 
平成12年度は、
 
を行ない、典型的なばら積貨物船に傾注して研究を実施してきた。
 
 このFSAでは、特に重要な構造損傷に関連する事故シナリオに注目して行なわれ、これまでにIMOで取られてきた安全強化のためのSOLAS改正(Chapter XI/Special Measures to Enhance Maritime Safety, Chapter XII/Additional Safety Measures for Bulk Carriers)などの有効性の検証を含めて、1997年SOLAS条約締約国会議の決議8で取り上げられている長さ150m未満のバルクキャリアの安全性の再評価や船側の二重化の問題など、広範囲な問題について研究している。
 
 平成13年度の研究では、ステップ1からステップ5までの全ステップにわたって平成12年度までの研究内容をさらに詳細に見直し、その結果を意思決定の為の最終勧告の形に取り纏めてMSC75に提出した。
 日本としては独自にFSA Studyを実施することにより、IMOにおいて各国のFSAの研究結果に基づいて開始されているバルクキャリアの安全強化策についての議論に十分な基盤を持って望むべく、また日本のFSAの研究成果をもとに妥当性のある安全強化策を提案すべく、努めていこうとしているものである。
 
表3.3.1.l MSC71迄に議論されていた事項
1997年のSOLAS会議においてSOLAS XII章の適用外であることに対する疑問が出された事項 Safety of bulk carriers of less than 150 m in length
Safety of new bulk carriers of double side skin construction
Safety of single side skin bulk carriers carrying solid bulk cargoes having a density of less than 1,780kg/m2
Safety of bulk carriers with an insufficient number of holds/transverse watertight bulkheads to satisfy regulation XII/4.2
Derbyshireの事故調査方向に関連する事項 Fore deck and fore end space access
Life-saving appliances for bulk carriers
MSC70でSLF小委員会で検討することが合意された事項 Protection of the ship's fore end from green water
Fore deck and fore end space access
 
 
2. IMOの動向
2.1 各国、関連団体によるばら積み貨物船の安全対策に関するFSA検討
 IACSは先のDerbyshire号事故報告で提案された推奨事項を検討するために、バルクキャリアの船首部の水密性に関するHazard Identificationを実施し、MSC71/INF.7及びMSC72/INF.4として報告した。更に、IACSはバルクキャリアの船首部の水密性に関するFSA検討を継続しており、MSC74にはFSAの5Step全てをカバーした検討結果をMSC74に報告した(MSC74/5/4)。
 また、英国を中心とした国際共同プロジェクトとしてバルクキャリアのFSA検討が進行中であり、プロジェクトの進捗状況及び中間報告がMSCに報告されている(例えば、提出文書MSC75/5/1(英国)、MSC75/5/5&INF.22(仏国))。
 この他にも、Norway、ICFTUがバルクキャリアの救命装置に関してFSAを実施し、Hazard Identification of LSA(MSC73/INF.7)と最終報告書(MSC74/5/5)を提出した。
 日本のRR74BC−WGの成果及び進捗状況はMSC72/INF.7&INF.8、MSC73/INF.10として報告された。更に、典型的なバルクキャリアに限定し、最終勧告を含まない形ではあるが、FSAの5Step全てを実施した一連のレポート(MSC74/5/3, INF9, 10, 11, 12)を報告した。2002年5月には意思決定のための勧告を取り纏め最終報告書(MSC75/5/2)及び関連文書(MSC75/INF.6)を提出した。
 これらの検討結果が全て出揃った時点(英国の最終レポートは2002年末のMSC76に提出される予定)でIMOで重なる条約改正が必要かどうか議論される予定になっている。ただし、後述するように2001年暮れに起きたChristopherの事故ほかを契機として、各国、関連団体が実施したばら積み貨物船の安全対策に関するFSA検討から得られた最終勧告のReview及びIMO MSCにおける意思決定作業は、従来想定されていたスケジュールよりも、かなり前倒しされる見込みである。
 
2.2 ばら積み貨物船の安全対策に関するMSC75での議論
 MSC75のばら積み貨物船の安全対策(議題5)で議論された重要な項目としては、(1)浸水監視装置(水位監視)及びポンプ装置の強制化(SOLAS条約第XII章第12及び13規則)、(2)ハッチカバー関連、(3)FSAによる検討が挙げられる。その他、INTERCARGOは、1992年〜2001年のバルクキャリアの事故統計をMSC75/INF9として報告した。この中で、IMOやIACSのこれまでの努力と成果を認めつつ、本件は完了しておらず、バルクキャリアの事故と船員の死傷を防止するため更に努力すべきことを主張した。
 水位監視及びポンプ装置の強制化については、WGでの検討結果を受けてのプレナリーでの審議において、二重船側については適用除外とすべきかどうか更に検討が必要であるとのWGからの報告(MSC75/WP.19)があったが、英国が適用除外とすべきでないと主張し、大多数もこれを支持したことから、例外なく適用されることになった。また適用日についても、英国の主張が通り、2004年7月1日以降の最初の検査(年次検査、中間検査、更新検査の何れか早い検査)とすることが合意された。尚、この際に日本は浸水警報装置他の強制化については、その緊急性に鑑み、暫定的に同意するものの、引き続きその技術的な信頼性については検討を進めるに必要な提案を行う旨を通知している。
 ハッチカバーに作用する荷重については、WGの報告を受けてMSC75/5/3をSLF45で検討するように指示することになった。尚、IACSも協力し英国が実施した実験結果に関しては、両者で結果の解釈に齟齬が生じていることから、実際のハッチカバーの設計にどのように影響してくるのか予断を許さない状況にある。また、MSC75/5/3に記述されているハッチカバーの損傷統計については日本の検討結果と食い違いがあり、両者のデータを比較検討する必要があることが関係者の間で合意されており、現在、日本において相違点について比較検討を行っている。
 FSA関連については、MSC75の時点で取り纏めることの困難さと次回MSC76で更なる議論が必要であることが強調された。
 
3. バルクキャリアの構造安全性に関するFSA
 日本が実施したバルクキャリアのFSA研究では、ビルジホッパータンクとトップサイドタンクを持つ典型的なバルクキャリアの貨物倉への浸水及び構造損傷に重点をおいている。
 ハザードの同定とリスク評価はブレーンストーミングのような創造的な手法も併用しながら、主に過去の事故統計・事故事例分析に基づいて実施した。その結果、同定されたハザードのスクリーニングとLMIS(Lloyd's Maritime Information Service、現在のLloyd's Marine Intelligence Unit(略称LMIU))の海難データベースの調査によって図1に示した重要な事故シナリオが特定された。現在のバルクキャリアのリスクの大きさはSOLAS XII章の効果の予測シミュレーション等により、ALARP領域にあると判断された(図2参照)。
 
 
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図1 Illustrative risk model under consideration
 
 
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図2 SOLAS 導入後20年間のF−N Curve
 
 
費用対効果解析を実施する対象となったリスク制御オプション(Risk Control Options、RCOs)は以下のものである。
RCO11: Extended application of SOLAS Chapter XII to new bulk carriers (<150m in length) .
RCO15: Double side skin (all C/Hs)
RCO16: Corrosion control of hold frames (Increase of corrosion margin)
RC051: Corrosion control of hold frames (Severely control of paint condition)
RC052: Corrosion control of hold frames (Application of enhanced corrosion allowance)
RC021: Extended application of SOLAS Chapter XII to existing bulk carriers (< 150m in length) .
RC023: Application of UR S21 to existing ships
RC025A: Application of double side skin construction for existing ships (all C/Hs)
RC025B: Application of double side skin construction for existing ships (Nos. 1&2 C/Hs)
 
GCAF或いはNCAFという指標を用いた費用対効果解析の結果によれば、以下の事項がIMOが審議しているバルクキャリアの安全に関する議題の中で、更に検討すべきことが推奨された。
 
バルクキャリア全体のリスクレベルはSOLAS XII章適用後も他船種と比べてALARP領域の比較的高い位置にあると予測され、費用対効果の観点で現実的な範囲で出来るだけリスクが小さくなるように安全性向上対策を検討するべきである。サイズ毎に見ると、150m未満のバルクキャリアのリスクレベルが高く、対策検討の優先度が高いと言える。
単船側BCのSOLAS XII章の適用後のCEの事後評価から、二重船側の強制化とCEと比較するとSOLAS XII章の方が費用対効果が高く、結果とし前者が強制化されたことは正当化される。二重船側の強制化はこれと比べるCEが低く、SOLAS XII章に変えて、二重船側を強制化することは正当化されない。但し、船主がオプションとして採用した場合は、ダブルサイドスキンとSOLAS XII章適用後のシングルサイドスキンのリスクレベルは同程度であると考えられることから、追加的なRCOが強制化されなかったことも正当化される。
150m未満の単船側バルクキャリアは、現在SOLAS XII章の適用外であるが、バルクキャリアの中では相対的にRiskが高く、対策の必要性が大きい。しかし、150m未満のBCに対しては単一貨物倉の浸水が致命傷となる可能性が高いと考えられ、貨物倉の数を増やす等の抜本的な対策を採らないのであれば、SOLAS XII章で要求されている浸水後の事故拡大防止策は有効と判断されないため、浸水防止を目的とした対策が必要である。従って、以下のRCOの導入の検討が推奨される。
 ●新造時:船側構造の腐食予備厚の増加
 ●就航後:船側構造の腐食制御
150m以上の単船側バルクキャリアについては、二次防壁として浸水後の対策がとられているが、 更なる安全性対策としては浸水防止対策が有効である。費用対効果の検討結果によれば、単船側のまま腐食予備厚を増加させる等の方法が推奨され、二重船側の強制化はこれと比べて費用対効果が悪いので推奨されない。従って、以下のRCOの導入の検討が推奨される。
 ●新造時:船側構造の腐食予備厚の増加
 ●就航後:船側構造の腐食制御
 







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