1. はじめに
造船技術開発協議機構では、基盤的研究課題調査部会を設置し、我が国の造船研究開発についての分析やブレークスルーとなる技術課題等の発掘調査を行い、それに基づく研究課題の設定方法や研究開発の進め方等に関する検討を行っております。
調査は、時代の転換点ともいえる21世紀への通過時点におけるものであり、今後重要となるであろうテーマについて、欧州および米国の造船研究の現状調査を踏まえ、アンケートに寄せられた課題提案を元に調査検討を行いました。
平成14年度は、これまでアンケート等で提案のあったテーマ案の中から、将来の高速商船の造船技術および建造技術に関係する中から、4テーマを選定し調査検討を進め、その結果を調書としてとりまとめました。
造船・海運に携わる出来るだけ多くの方々をはじめ関連する分野の皆様に、検討いたしました基盤的研究課題を周知いただき、また課題に対する多様なご意見をいただいて、その成果を共有していきたいと思っています。また、この調査を元に次世代の研究開発に対する新たな調査課題についてもアンケート等を通じお寄せいただければと存じます。
平成15年2月
造船技術開発協議機構
造船技術開発協議機構 組織
2. 課題調査検討
2.1 調査調査候補テーマ
基盤的研究課題の調査対象は、平成9年度から13年度まで実施された課題調査アンケートの結果および近年活発に行われているEUにおける造船技術研究の動向調査を元に選定された。
調査アンケートを12の分類に分けて表−1にまとめた。表−1の分類1において、造船の新技術開発を必要とする規則、独創性のある研究開発、これらに関連して海外技術の動向およびEUプロジェクトの実態等が挙げられている。また日本周辺での環日本海構想と造船技術および海上物流のニーズ・課題等が挙げられている。
これらの課題とEUプロジェクトの造船研究課題との比較により、おおまかな技術検討課題として東アジアのハブ港への宅配ルートを可能とするハードである高速船舶の造船技術の開発課題を基盤的研究課題として取り上げる意義を検討した。
このような検討プロセスからは、上にのべた課題の外、さまざまな検討すべき課題が浮かび上がってくるが、将来の新規な造船技術に関する戦略的な研究計画に適するものの一つとして同課題を調査する価値があると判断した。
アンケート結果の各分類は夫々価値のある基盤的研究課題を提供するであろうが、近年あまり力点が置かれていないように思われる基礎的造船技術の研究課題を多く含むであろう基盤的研究課題を選定することとした。
高速船舶の造船技術の開発課題を基盤的研究課題とする時、アンケート結果の分類8(船体設計)、分類10(船体構造、材料)に幾つかの研究課題提案があることが判る。分類11にある「船舶性能に関する技術力評価に関する研究」は、基盤的研究課題調査のベースとなるものであると位置付けられよう。
造船技術研究は船舶と云うハードのみでは存在し得ず、地政学的、経済的状況の分析に基づく物流の現状、将来予測、ニーズの有無、創出に関連するソフトの研究の重要性は大きい。しかしながら、本調査ではこれらのソフトに関する部分を専門的に研究することはしない。しかしながらハードの必要性がでてきたときに、ハードの研究を開始するのでは戦略的な研究計画とは云い得ず、戦略的な一選択肢としてハードの研究課題を調査しておくことの意義を重くみたい。
本年度は4テーマを選定し、高速船舶の造船技術の開発課題を基盤的研究課題として調査した。
2.2 基盤的研究課題調査実施テーマ
(1)「21世紀における高速商船の技術課題調査」
(2)「高速高荷重推進システムの技術研究の調査」
(3)「高速船に働く波浪荷重の高度推定法の実現性に関する調査」
(4)「ノンラインズ造船システムの可能性に関する調査研究」
表−1 研究課題調査アンケート 課題まとめ(H9−H13)
分類1 |
一般 |
H14基盤調査課題 |
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1−a |
我が国における造船技術の研究機能の維持策 |
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1−a |
既存の研究開発に成果等の活用促進策 |
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1−a |
造船の新技術開発を必要とする国際規則 |
○ |
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1−a |
独創性のある研究開発の進め方 |
○ |
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1−a |
元気のでる技術開発は何か |
|
|
1−a |
海外技術の動向調査 |
○ |
|
1−a |
EUプロジェクトの実態とその成果に関する調査 |
○ |
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1−a |
船舶教育体制について |
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1−b |
海事産業における新市場の創造・形成 |
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1−b |
新規事業分野の創出について |
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1−b |
情報化時代と海事産業 |
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1−c |
造船界の再活性化の方策 |
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1−c |
日本に最低限必要な造船業の規模 |
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1−c |
将来における日本の修繕(設備、規模) |
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1−c |
造船業の近代化と統廃合 |
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1−c |
造船におけるマーケッティング |
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1−c |
造船の労働安全に関する研究 |
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1−d |
社会学的に見た日本の海運、造船 |
|
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1−d |
造船海運産業論 |
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1−d |
環日本海構想と造船技術 |
○ |
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1−d |
国際競争力(対韓国、中国) |
|
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1−d |
グローバルスタンダードについて |
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1−e |
モーダルシフトと次世代内航海運システム |
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1−e |
国際的コスト競争に打ち勝つ国内物流システムの構築 |
|
|
1−e |
海上物流におけるニーズ・課題 |
○ |
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1−e |
内航幹線輸送システムの開発 |
|
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1−f |
便宜置籍船(FOC)排除の方策/船略 |
|
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1−f |
200海里排他的経済水域(EEZ)の諸問題 |
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分類2 |
海洋環境 |
2−a |
ゼロエミッション船の開発 |
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2−a |
CO2を排出しないエンジン |
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2−a |
環境負荷低減型機関の開発 |
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2−b |
環境と技術開発 |
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|
2−b |
海域環境改善技術の産業化へのプロセス構築 |
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|
2−b |
廃棄物問題への船舶利用 |
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2−c |
環境問題の変化と船舶への影響 |
|
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2−c |
船舶の地球環境への影響度調査 |
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2−c |
環境・調査のための深海利用技術 |
|
|
2−c |
海洋環境調査技術 |
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分類3 |
情報高度利用 |
3−a |
IT活用 |
|
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3−a |
海運・造船におけるIT活用 |
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3−a |
IT活用のメインテナンスシステムについて |
|
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3−a |
航海計器、甲板補機、機関補機等の取扱説明書のIT化 |
|
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3−a |
IT後の技術革新(革命)を目指す |
|
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3−b |
バーチャル・ラボの機能と活用について |
|
|
3−b |
造船におけるバーチャルファクトリーの研究 |
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3−c |
高度情報化の総合化 |
|
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3−c |
船陸通信・船内LANの標準化 |
|
|
3−c |
多種海洋情報データベース活用の産業化 |
|
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分類4 |
エネルギー燃料 |
4−a |
船舶における自然エネルギーの活用について |
|
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4−a |
波浪推進船、海水熱エネルギ−利用船 |
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4−a |
船舶に利用可能なエネルギー |
|
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4−b |
海洋自然エネルギー利用技術の再評価 |
|
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4−b |
海洋エネルギーの再評価 |
|
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4−b |
海洋循環エネルギーの利用 |
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4−c |
燃料電池の応用 |
|
|
4−c |
燃料電池による電気推進 |
|
|
4−c |
燃料電池の舶用発電機への応用 |
|
|
4−d |
水素燃料船の開発 |
|
|
4−d |
化石燃料に替わる代替エネルギー船舶の研究 |
|
|
4−d |
エネルギー関連の運搬船について |
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4−e |
資源・エネルギー開発のための深海利用技術 |
|
|
4−e |
海の水資源の利用 |
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分類5 |
大型浮体、海洋空間利用 |
5−a |
大型浮体の利用 |
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5−a |
大型浮体利用技術の開発 |
|
|
5−a |
大型浮体の多用途への利用について |
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5−b |
メガフロートの将来検討 |
|
|
5−b |
メガフロートの新展開にむけて |
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5−c |
海洋空間利用 |
|
|
5−c |
海洋空間利用のための深海利用技術 |
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分類6 |
海洋開発関連 |
6−a |
海洋定点観測ステーションの開発 |
|
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6−a |
海中、海底のGIS |
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6−b |
新素材の海洋における利用について |
|
|
6−c |
FPSOシステム(NGH、メタノール、GTL、DME用) |
|
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6−d |
マクロエンジニアリングの特徴を生かした海洋開発 |
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6−e |
海洋機器(船舶を含む)におけるartとtechnologyの融合 |
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分類7 |
メインテナンス、ライフサイクル |
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7−a |
シップメインテナンスのあり方 |
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7−a |
新しい船舶メインテナンスのあり方 |
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|
7−b |
船舶のリサイクル設計と解撤技術の効率化について |
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7−b |
解撤を配慮した船の設計 |
|
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7−b |
船舶のライフ・サイクル・モデルとCISS |
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分類8 |
船体設計 |
8−a |
輸送システムのモーダルシフトを可能にする大型高速船の開発 |
○ |
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8−a |
次世代海上物流と高速船の設計・建造 |
○ |
|
8−a |
高速大荷重推進システムの開発 |
○ |
|
8−b |
CFDと船型開発 |
○ |
|
8−b |
マイクロバブルによる摩擦抵抗の低減 |
|
|
8−b |
船型及びプロペラの開発に関する研究 |
○ |
|
8−c |
ガスハイドレート船(NGH船)の開発設計 |
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8−c |
NGH船の評価研究 |
|
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8−c |
北極航行用耐氷コンテナ船の試設計 |
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8−d |
船舶のデザインと機能について |
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8−d |
客船ルネサンス |
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8−e |
実海域実験船 |
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分類9 |
高度システム、無人化技術 |
9−a |
無人商船(システム)の開発 |
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9−a |
無人商船とそのためのシステム等 |
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9−a |
人工衛星を用いた船舶の無人運転 |
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9−a |
超省力化船・無人化船 |
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9−b |
対潜索敵ソーナーの商船用前方障害物探索ソーナーへの開発 |
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9−b |
人工衛星を利用した衝突予防技術 |
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9−b |
自動的衝突・回避システムの開発 |
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9−c |
ディーゼルエンジンの全面的電子制御の開発 |
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9−c |
船のエンジンルーム全体の電子制御の推進 |
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9−d |
オホーツク海船舶航行システムについて |
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分類10 |
船体構造、材料 |
10−a |
新規材料の活用及び接合法 |
○ |
|
10−a |
船舶の溶接以外の接合技術の実績と将来動向 |
○ |
|
10−b |
特定海域での波浪外力 |
○ |
|
10−b |
高速における波浪中大振幅運動及び波浪荷重算定法の開発 |
○ |
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10−b |
接水構造の振動 |
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分類11 |
船舶評価 |
11−a |
造船ムーディーズ・船舶ムーディーズ |
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11−b |
船舶性能に関する技術力評価方法に関する研究 |
○ |
|
11−b |
内航船舶に関する多方面からの評価 |
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11−c |
エコシップ、エコ舶用品の認定 |
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分類12 |
その他 |
12−a |
Human Element対策 |
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12−b |
船舶用港湾施設の再開発 |
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12−c |
次世代港湾作業船の開発 |
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12−d |
建造の屋内作業化について |
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