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第10章
21世紀の課題
今後の主要な行動
 1994年カイロで開催された国際人口開発会議(ICPD)では、今後の国連人口基金(UNFPA)の活動を指示する野心的な行動計画(Programme of Action)が採択された。その5年後の1999年、この行動計画の進行状況を世界規模で見直した結果、カイロで採択された目標に向かい、多くの国々が意義深い進展を遂げていることが確認された。
 進捗状況の評価を行う国連総会において、今後5年間の新基準が設定された。ここでは次の重要分野における活動の強化が求められている。すなわちリプロダクティブ・ヘルスと性行動に関する健康(セクシュアルヘルス)の促進、妊産婦死亡率の低下、思春期の若者にとってのリプロダクティブ・ヘルスの必要性、妊娠中絶の予防と安全な処置のとられない妊娠中絶が及ぼす健康への悪影響の伝達、HIV/AIDS予防、男女問題、教育問題等に関する取り組みの強化が求められている。
 カイロで設定された目標を達成するための新たな基準に適合すべく各国は、以下のような様々な活動を行っている。
 
●2005年までに、基本的な医療・保健施設及び家族計画サービスを提供する施設の60%で、できるだけ広い範囲で安全で効果的な家族計画法を伝え、基本的な産科ケアを提供し、性行為感染症(STD)を含む生殖器感染の予防と管理をし、そして感染防止のためのコンドームや女性用コンドームなどのバリア法を提供しなければならない。2010年までには80%の施設がこのようなサービスを提供し、2015年までには100%の施設でこういったサービスが提供できるようにしなければならない。
●出産に際し、2005年までには妊産婦死亡率の非常に高い地域で総出産数の少なくとも40%、世界全体では80%が産婦人科の専門技術者の介助を受けるべきである。これらの数値は、2010年までに妊産婦死亡率の非常に高いところで50%及び世界全体で85%、そして2015年までにそれぞれ60%及び90%としなければならない。
●出産の間隔を長くしたいと思っていたり、子供をこれ以上産みたくないと思っていながらも、避妊具の使用ができないでいる人々が存在している。この人口を2005年までに半減し、2010年までには75%、2015年までには100%減少させなければならない。しかし、この目標を達成するために、避妊具の新規利用者を募ったり、ノルマを課したりしてはいけない。
●HIV/AIDSに感染する危険性を減らすために、2005年までに15〜24歳までの若い男女の少なくとも90%がエイズ予防手段を利用できるようにしなければならない。エイズ予防手段としては男性用・女性用コンドームの使用、自発的なエイズ検査、カウンセリング、継続調査などが含まれる。さらに2010年までには少なくとも若い男女の95%がこういった予防法を利用できるようにしなければならない。15〜24歳までのHIV感染率を最も感染の深刻な国で2005年までに25%減少させ、世界全体では2010年までに25%減少させなければならない。
 
人口増加と避妊具需要の増加のため、
家族計画の必要性は高まる
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出所:
United Nations Population Division,World Population ProspectsThe 1998 Revision と国連人口基金(UNFPA)draft report
 
リプロダクティブ・ヘルス製品の安定供給
 HIV/AIDS感染防止のための避妊具や男性用・女性用コンドームなどのリプロダクティブ・ヘルス製品が不足すると、特に若い人々の間での望まない妊娠の増加・妊産婦死亡率の増大、安全な処置のとられない妊娠中絶、HIV/AIDS感染などの大きな影響を生みだしてしまう。避妊具のニーズが高まっており、そのニーズが十分に充足されていない状況にある。
 品質の確かなリプロダクティブ・ヘルス製品の安定的な供給は、2015年までにすべての人がリプロダクティブ・ヘルス・ケアを受けることができるようにするという、ICPD+5年の進捗評価で設定された目標を達成するための基本的な要件である。2000年9月、国連人口基金(UNFPA)はリプロダクティブ・ヘルス製品の安定供給のための世界戦略(A Global Strategy for Reproductive Health Commodity Security/RHCS)を提唱した。UNFPAはその協力者と共に、リプロダクティブ・ヘルス製品の安定供給に関する一般の促進、資金動員、各国の対応能力の構築を行うことで、これらプログラムの持続性を強化し、様々なプログラムの間の調整をより一層推進する。
 
●1990年における少女と女性の非識字率を2005年までに半減しなければならない。2010年までに男女児童の実質的な初等教育就学率を少なくとも90%にしなければならない。
 
ICPD行動計画
 ICPD行動計画は1994年に提出された目標の達成を最終目的としている。その目標とは、世界中のすべての人が教育を受けられるようになり、死亡率が低下し、家族計画やリプロダクティブ・ヘルスのサービスを受けることができるようになることである(第1章参照)。ICPDでは、人口問題と国の開発が相互に関係し合った一通りの目標が確認された。この目標には、持続可能な開発及び男女間の公正と平等を背景としての持続可能な経済開発が含まれる。各国には、すべての開発戦略に人口問題の要素を含むことや、男性から女性への暴力をなくし、女性器切除(FGM)などの有害な伝統的慣習を根絶することなどが要請された。
 また、この会議では持続可能性という概念が重視された。この概念の中には、経済の発展には環境と人口の要素が大変重要であるということが示されている。この会議では、単なる数値的な目標に重点を置くことを止め、数々のサービスの提供・教育の推進・質の高いケアの提供などが中心的な要素となる包括的で統合された取り組みに重点を置くことにした。重要なことは、この会議において人口管理という考え方は終わりを告げたということである。より小さな家族を持ち、入口増加のスピードを遅くしていくためには人口管理をするのではなく、幅広い家族計画に関する情報サービスを含むリプロダクティブ・ヘルス・ケアを人々が自由に選択するのが必要であることがわかったのである。おそらくこの会議の最も重要な成果は、女性がその生活を自ら管理するためには、女性のエンパワーメントが必要であると認識されたことである。
 
ICPD以降
 ほとんどの国において、未だに家族計画がリプロダクティブ・ヘルス・ケアの中心課題であるのが現状である。しかし、ICPDから5年を経て、すべての国で幅広い性行動に関する健康(セクシャルヘルス)とリプロダクティブ・ヘルスに関する情報とサービスを利用できるよう様々な試みが行われてきた。多くの国々はICPDのリプロダクティブ・ヘルスの定義を採用し、リプロダクティブ・ヘルスを利用する人のニーズに合わせる方向での活動を続けている。そのうち急速にその実施が行われている国が数カ国ある。
 多くの国で避妊法の種類を増やす努力が行われてきた。さらに避妊法が個人の性の認識やパートナーとの関係ならびに、男女問題に基づいて選択されるように、情報提供とカウンセリングサービスの質を向上させている。また、避妊法の副作用及び副作用への対処の仕方に関する、より正確で徹底的な情報とカウンセリングが提供されるよう努力が払われている。
 各国で、サービスの質の向上に向けての試みも様々に行われている。例えば、性の規範が家族計画を求める男女にとっていかに障害になっているかを避妊の力ウンセラーが考慮している。避妊法を使用している人々のネットワークは、女性が避妊具を内密に使用する傾向のある地域の新規利用者を援助したり、副作用により避妊法を継続することができないという問題を抱える人の助けとなっている。男性や影響力のある家族の一員も、女性の避妊法の利用を支援する方向に進んでいる。
 世界各地でサービス内容も豊富になり、家族計画サービスも多くの人が利用するようになってきている。何百万人ものカップルに対してソーシャルマーケティングが行われ、コンドーム販売数は劇的に増加した。1994年以降、月1度の注射による避妊法や女性用コンドームなど新たな避妊法が利用可能となった。緊急避妊法もより簡易に利用できるようになっている。
 
開発途上国における、ICPD資金目標の達成度の推移
 
財政支援の必要性
 カイロで設定された行動計画の実行面については顕著な進展を遂げているが、世界の援助国のリプロダクティブ・ヘルス計画への資金援助は需要を大きく下回っている。開発途上国では、現在でもICPD行動計画を完全に実施するための資金が不足している。
 1994年、各国政府は2000年までにリプロダクティブ・ヘルス・サービスのため年間170億ドルが必要であり、そのうち3分の2を開発途上国が自ら拠出し、残り3分の1を資金援助国が支出するとの合意に達した。今日、開発途上国はカイロで設定された目標値である3分の2の拠出をしているが、資金援助国は年間20億ドルの拠出にすぎず、これは必要とされる57億ドルの3分の1にすぎない。
 UNFPAの中心となる資金は約5%増加して2億6,000万ドルであり、資金援助国も102カ国に増大した。基軸となる安定的な資金に加え、補助的な資金が目標額4,000万ドルを6,300万ドルも上回った。この補助的な資金の大幅な伸びは主にオランダ政府がリプロダクティブ・ヘルス関連用品の安定供給に対する支援のために大幅な資金供与を行ったことによる。
 この資金水準をもってしても、ICPDへの各国の取り組みが最も盛んであった1995年に達成された資金水準よりかなり低いものである。中心となる資金は再度増加傾向にあるが、基金の多年度資金拠出フレームワーク(MYFF)で設定された3億1,000万ドルを大きく下回っている。これは、国連人口基金のサービスに対する需要が高まっていることを考慮に入れておらず、力イロでの財政的責任分担の取り決めに明らかに逆行している。
 また、資金援助が減少したらその後の数年間にわたってICPD行動計画を実施する勢いが削がれるという、数字では表すことのできないコストも考慮されていない。
 
資金援助の意味するもの
 資金不足により、引き続き望まない妊娠が高い割合で発生し、妊娠中絶を望む者は跡を絶たず、乳・幼児、妊婦の死亡率は増加し、世界中でさらに早い勢いでHIV/AIDSが蔓延し、利用する人が主体のリプロダクティブ・ヘルス・サービスヘの取り組みがさらに遅れるなどの影響が出る。また、民間部門への依存が大きくなることで、貧しい人々が健康サービスを利用できなくなることがあってはならない。最終的に、もし人口増加のスピードが遅くならなければ、学校教育、基本的医療・保健の提供、購入可能な住宅の供給、公共交通機関及び道路の整備、重要な天然資源の管理など極めて重要な分野ですでに達成されてきた成果がすべて壊れてしまうだろう。
 十分な資金及び人口増加の緩和は、今後の進展に欠くことのできないものである。厳しい財政状況にあり、他にも制約があるにもかかわらず進展が見られるということは、世界のあらゆる地域で、ICPDの目標が必要不可欠であり実用的であると見なされていることを示している。
 進展度は統計によって明らかである。開発途上国の女性の60%近くが家族計画を利用しており、1950年以来出生率は半減した。しかし、人口問題は単なる人の数の問題ではないと強調することが大切である。人口問題とは人間の問題なのだ。この考えは世界中の一致した意見の基盤となるものである。つまり、“人口問題は人間の問題だ”という考えは今まで成し遂げられてきた進展の基礎となるもので、そしてこの考えは今後の成功のカギとなるだろう。







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