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エンパワーメント、目標達成のカギは・・・
国際女性の日に記念フォーラム
 二〇〇〇年九月の国連ミレニアム・サミットは八つの開発目標を掲げているが、そのうち最大のものは“目標(3)”で謳っている「女性のエンパワーメントをはかり、男女間の平等を促進する」という視点こそ、生かさなければならない――三月六日、国際女性の日を記念して国連大学で開かれた〈女性のエンパワーメント〉の公開フォーラム(国連各団体)で、二百人の出席者は再確認した。
 冒頭、コフィン・アナン国連事務総長と川口外相のメッセージが代読され、元文部大臣の赤松良子氏が「過去十年間の最大の成果は、女子差別撤廃条約が採択されたこと。しかし、本当の問題解決はこれからです。だから、この日を“女性の日を単純に祝う日”としてではなく、“女性の闘争を祝う日”、そういう日にしましょう」と呼びかけた。続いて、ILO東京支局代表の堀内光子さんを総合司会者に、参議院議員の南野知惠子さん、2050理事長の北谷勝秀氏、ソマリア教育省のファティマ・シェリフさんらが意見を述べた。
 「家庭が基礎である。女性のエンパワーメントもこれがあってこそ、初めて実現する」(南野議員)、「男性に都合がよい問題が、地球規模の問題を起こしている」(北谷氏)、「開発にかかわっている参加者という意識がほしい」(ファティマさん)とそれぞれの立場からアピールがあった。この日、会場を埋めた女性から各パネリストに、エイズ問題も含め多くの質問が出された。
 ミレニアム開発目標達成のカギは、“目標(3)”を解決する以外にはありえないと実感した。
 
スティーブン・シンディングIPPF事務局長来日
福田官房長官表敬/国際人口問題議員懇談会合同部会
第九回リプロダクティブ・ヘルス/ライツを考える会を開催
 
 昨秋IPPF(国際家族計画連盟)の事務局長に就任したスティーブン・シンディング博士が二月十九日に来日、福田康夫内閣官房長官への表敬訪問、国会議員との二つの会議を開くなど精力的にスケジュールをこなした。二十一日午前八時からは参議院議員会館で「第九回リプロダクティブ・ヘルス/ライツを考える会」を開き関係議員に「家族計画に対する新たな戦略」を訴えた。これに続いて午後二時から開かれた「国際人口問題議員懇談会合同部会」では、今後とも日本の理解と協力がいかに必要であるかを訴えた。
 
首相官邸で福田官房長官と
 
◇「第九回リプロダクティブ・ヘルス/ライツを考える会」
 シンディング事務局長は、これまでの活動実施や現状、今後の展望を踏まえて新たな優先課題として次の五つの項目を挙げた。
 
(1)若者
 現在、世界人口六十億人のうち、十歳から二十四歳人口が十七億人を占め、人類史上最大の若者層が存在している。これらの若者が、無知から引き起こされる無防備な性行動によって、HIV/AIDSを含む性行為感染症への罹患、望まない妊娠、その結果生じる中絶への危険にさらされている。これらを予防するためにIPPFとしては、さまざまな手段を使って若者のリプロダクティブ・ヘルスヘの理解を深め、責任ある行動が取れるように支援している。
 
(2)HIV/AIDS
 二〇〇一年度までに約四千万人がHIVに感染していることが確認されており、二〇〇二年には一分間に十人の割合で新たな感染者が発生している。特にアフリカ、アジア諸国におけるHIV/AIDSの感染の猛威は甚だしく、IPPFは広いネットワークと強力な指導的立場でAIDSの予防に力をいれている。
 
(3)安全でない人工妊娠中絶
 家族計画やリプロダクティブ・ヘルスサービスの普及が十分ではない結果、不幸にして、安全でない人工妊娠中絶が毎年二千万件行われており、四人に一人は十五歳から十九歳の少女で、そのうち毎日二百人の女性が亡くなっている。もし中絶が合法と認められている国であれば、その妊娠中絶が安全に行われるよう働きかけるなど、各国の状況も考慮に入れ支援する。
 
リプロ・ヘルス・ライツを考える会で、女性議員と
 
(4)リプロダクティブ・ヘルスに関する情報とサービスの利用の拡大
 リプロダクティブ・ヘルスおよび家族計画に関する情報を、世界中の人々に広め、多くの人々がこのサービスを享受できるように、政府に対する啓発に努める。今後、さらに増大・多様化するリプロダクティブ・ヘルスの需要に応えるため、サービス提供、家族計画運動を推進する。
 
(5)啓発活動
 過去五十年間に達成した数々の成果を永続させ、今後も質の高い、効率的なリプロダクティブ・ヘルスの重要性とその実現可能な政策と資金の必要性を政府、国際機関等に広く呼びかける。
 
 これら五つを優先課題とし、実行していくためには、今後も日本とIPPFの協力関係が必須であると強く述べた。二〇〇〇年からは日本信託基金によりIPPFがHIV/AIDS予防のための活動を行っており、画期的な成果をあげている。今後さらにJOCV(海外青年協力隊)とIPPFのアフリカ各国事務所との現地における共同活動を進めていくと述べた。
 
会議に参加して:
 NGOの特質を生かし、これまで多くの信頼を得ているIPPFのような機関の活動は重要である。その活動が活性化されることを通じて、人々が偏った強い圧力を感じることなく受け入れられやすい形でリプロダクティブ・ヘルスの改善と普及が進み、社会の幸福と発展へ向けて前進していけるのではないだろうか。
 
◇「国際人口問題議員懇談会合同部会」
 シンディング事務局長は、現在、アメリカはIPPFが途上国の妊娠中絶を支援しているということを理由に、IPPFに対する資金拠出を停止している。日本の拠出はIPPFの活動を維持する生命線であり、極めて重要なものである。IPPFに対する日本国拠出金の同額維持が日本国の国会議員、特に国際人口問題議員懇談会会員の努力によるものであることを十分認識しており、その支援に対して深く感謝すると述べた。
 続いて同局長は「アメリカが資金拠出停止の理由としてあげている人工妊娠中絶に関するIPPFの立場を説明し、“IPPFは人工妊娠中絶を促進しているわけではなく、その逆である。IPPFは人工妊娠中絶を起こさないようにするために家族計画の普及に最大の努力を注いでいる。しかし、望まない妊娠をしてしまったとき、女性の選択権は確保されるべきである。
 望まない妊娠による不幸を避けるためにも、まず家族計画の普及が何より重要で、他に選択肢のない場合に、医師や十分な医学的訓練を受けた医療従事者による適切な処置が必要となる。そのためにはリプロダクティブ・ヘルスの普及、とくに必要なときに必要な家族計画の資材と方法が誰でも入手できることが重要である」とIPPFの立場を説明した。
 さらに、バチカンをはじめとする保守的なグループが一九九四年にカイロで採択された国際人口開発会議行動計画を無効にしようとする動きがあり、人口問題にかなりの逆風が吹いている。その例として、二〇〇〇年に開催された国連ミレニアム・サミットでは持続可能な開発について協議が行われ、ミレニアム開発目標(MDGs)が採択されたが、その中で人口問題は既に中心的な位置付けを失っている。しかし、これから世界の若者の人口は歴史上最大となり、その人口に対する対策が今後の人口問題の趨勢を決定する。これまでIPPFが実施してきたような既婚者に対する家族計画の指導と異なり、社会的にも倫理的にも難しい問題を孕んでいるが、IPPFが現場で培った経験が活用できると確信している。また、現在、人口問題を含む社会開発の分野で国際社会の合意の中心となっているミレニアム目標(MDGs)を達成するためにカイロの合意は不可欠であり、行動計画の実施がその基盤となる、と行動計画の重要性を改めて訴えた。
 
合同部会
 
質疑応答
 その後、広中和歌子JPFP副会長からのHIV/AIDSに関する質問に答えて、IPPFはHIV/AIDS対策を日本政府の信託基金を通じて実施しており、大変感謝している。ただ世界的にみて、現在のHIV/AIDS対策は治療に偏っている。もつと重要なのは予防である。治療の議論ばかりではHIV/AIDS対策を十分に行うことはできない。感染率でみればサハラ以南のアフリカ地域の感染率は非常に大きいが、新規感染者の増加という点から言えば南アジア、東南アジアが深刻な状態で、IPPFとしてもサハラ以南のアフリカ地域、南アジア、東南アジア地域を重点地域と考えている。HIV/AIDS対策をもっと効率的に行うためにも、日本をはじめとするドナー国がUNAIDSやエイズ基金などのHIV/AIDS対策を行っている国際機関に対し、予防をその活動の中心とするよう働きかけていくことが必要だろうと述べた。
 この意見に対して谷津義男JPFP幹事長が、HIV/AIDS治療薬を途上国の感染者のために安価に生産するという問題は知的所有権の問題もあり、WTO交渉の中でも非常に難しい問題となっている。とくにアメリカをはじめとする先進国が反対しており、HIV/AIDS治療薬普及の障害となっている。知的所有権の問題や、開発費用などの問題も理解できるが、HIV/AIDS治療薬の問題は人道上の問題でもあり、公的な開発費用の支援などの方法を考えることで、対応していく必要があると述べた。
 
  出席(本人) 出席(代理)
1 清水嘉与子 中川昭一
2 円より子 佐藤謙一郎
3 田嶋陽子 櫻田義孝
4 広中和歌子 大渕絹子
5 黒岩宇洋 熊谷市雄
6 南野知惠子 武山ゆり子
7 太田豊秋 椎名一保
8 谷津義男 関谷勝嗣
9 桜井新 中川義雄







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