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アフガン問題をめぐる合同部会開く ―国際人口問題議員懇談会
オベイドUNFPA事務局長、サラビ・アフガニスタン女性問題大臣を招いて
 
 国際人口問題議員懇談会は十月二日参議院議員会館第二会議室で、来日中のトラヤ・オベイド国連人口基金(UNFPA)事務局長、ハビバ・サラビアフガニスタン女性問題省大臣を招き勉強会を開いた。オベイドUNFPA事務局長は難民に対する家族計画・リプロダクティブ・ヘルス分野の活動とアフガニスタンでUNFPAが実施している緊急援助の活動及びUNFPAの財政状況について、サラビ大臣はアフガン女性問題省の活動状況と日本からの援助を視野に入れた同省の将来的展開についてそれぞれ説明し、参加議員と意見交換を行った。
 
トラヤ・オベイド UNFPA事務局長
 難民への家族計画、リプロダクティブ・ヘルスに関する援助はUNFPAの活動の中で比較的新しい分野である。UNFPAは国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国際家族計画連盟(IPPF)、WHO、国際赤十字などと連携し、同分野で緊急援助の活動を実施している。この緊急援助はオランダ、オーストラリア、ベルギー、カナダ、チェコ、ドイツ、イタリア、英国、米国、国連財団からの資金で賄っており、活動地域はアフガニスタン、パレスチナ、東チモール、コソボ、ボスニア、コンゴ、シエラ・レオネ、スーダンなどである。
 
 特にアフガニスタンでは、紛争後の復興を推進する多くの活動を保健省、女性省、中央統計局と連携し実施している。具体的には人道的支援をはじめ、家族計画の普及、HIV/AIDS予防などを中心とした保健衛生活動、及びリプロダクティブ・キットの配布を行っている。
 
 UNFPAは政治的・財政的困難に直面している。政治的には米国を拠点とした家族計画・リプロダクティブ・ヘルスに反対する保守派の国際NGOの活動が活発化し、現在ヨーロッパ諸国との連携を強めている。このNGOは中国、アフガニスタン、コソボ、ベトナム、タイなどにおけるUNFPAの活動を非難している。財政的には米国の三千二百万ドルの拠出金停止とドイツの二千万ドル減額、日本の千五百万ドル減額が重なり、前年度よりも六千七百万ドル減額となり非常に厳しい財政状態に直面している。UNFPAとしては人件費削減等によりできるだけプログラムに支障のないよう対応しているが、このままの財政状態が続くと来年度からのプログラム実施規模の縮小は必至である。現在UNFPAが実施している家族計画等のプログラムは一度実施が中断されると再開がとても難しい。従って、UNFPAとしては日本が保守派の波に対抗する政治的支援と財政難に対応する財政的支援を行うことを期待している。
 
ハビバ・サラビ アフガニスタン女性問題省大臣
 アフガニスタン女性問題省は(1)ジェンダー(2)教育(3)保健の三つの分野に焦点を当て活動している。一九九二年以降のタリバン政権下で禁止されていた女性の就学再開を支援し、女性の法的権利を推進し、家庭内暴力を廃絶するためにUNFPAをはじめとする国際機関と協力し、各地域に女性センターを設置している。現時点で三十二県中十一県に女性に対する識字教育などを行うセンターを開設した。
 また、アフガニスタンは妊産婦・乳幼児死亡率が非常に高い。国連の推計では一日に平均五十人の女性が妊娠・出産によって死亡している。出生千人に対し、百六十五人は一歳未満で死亡し、四人に一人は五歳を迎えることができない。このような状況の中、女性問題省は教育省、保健省などと協力し事態の改善に努めている。日本にはJICAなどを通じた支援をこれからも続けてほしい。
 
質疑応答
 
井上喜一・衆議院議員
 私がアフガニスタンを訪問した際、同国に多くの孤児がいると聞いたが、孤児の対策は女性省が実施しているのか?
 
サラビ大臣
 未亡人・孤児の問題は深刻であり、孤児院の設立は他の機関が担当している。女性省が取組むことができれば最良だが、資金的な限界もあり難しい。
 
ピーター・ハッフ=ラッセル 国連人口基金・アフガニスタン代表
 UNFPAは家族計画、リプロダクティブ・ヘルスの活動を実施しているが、それらの活動により妊産婦死亡率を低下させることは、子ども達が母親の死亡により孤児になるのを未然に防ぐことにほかならない。
 
井上議員
 アフガニスタンを訪れて、失業・治安の問題など緊急を要する問題が山積していると感じた。しかし、訪問先の小中学校の子ども達は学校に行けることをとても喜んでいた。また訪問先の病院では妊産婦・乳幼児死亡率の高さと紛争後の精神的後遺症に苦しむ子ども達の現状を学び、援助の必要性を痛感した。
 
サラビ大臣
 アフガニスタンには伝統的に孤児を親戚や隣人が養う慣習があるため、孤児の問題は表面化していない部分が多い。例えば、バーミャン村では三百人以上がタリバンによって虐殺されるなど非常に残虐な出来事が多々あった。本当に問題は山積みしており、二十三年間の紛争の傷跡は深い。
 
清水嘉与子・参議院議員
 保守派のNGOがアフガニスタンでのUNFPAの活動に反対していると述べられたが、なぜそのNGOはアフガニスタンでの活動に反対しているのか?
 
オベイド事務局長
 このNGOは米国を拠点としており、たとえば「コソボではUNFPA前事務局長がミロシェヴィッチ 前ユーゴスラビア大統領と結託し民族洗浄を行った。アフガニスタンでは中絶を推進することにより多くの母親の命を奪っている」など、事実無根のキャンペーンを展開しUNFPAの活動を阻害している。これらの団体は、国際機関の援助活動を非難することで米国内の政治的問題への発言を行っているだけであり、米国の政治運動の一部である。これらのNGOの批判に対し、我々はUNFPAが実際に行っている活動を見れば、その正当性が十分理解してもらえると訴えている。
 
清水議員
 サラビ大臣は女性の教育を重要視しているとのことだが、それには多くの教育者が必要となってくる。タリバン政権下では女性の就学が禁止されていたが、それ以前に女性に対する教育は十分に行われていたのだろうか。現在、女性の教員はいるのだろうか。
 
サラビ大臣
 一九九二年以前のロシア政権下では、カブールなどの都市部において教育が比較的進んでいた。現在アフガニスタン人で教員、医師などをしているのはこの時期に教育を受けた人々である。しかし、同政権下では農村や遠隔地までには教育が浸透しなかった。一九九二年から一九九六年の民族紛争時代には学校は紛争によりほとんど封鎖されていた。また一九九六年以降のタリバン政権下では女性の就学は禁止された。
 
小宮山洋子・参議院議員
 日本からの援助を期待しているとのことだが、資金的援助とJICA等を通じた技術支援など具体的にはどのような支援が必要か。また、日本の国会議員として政治的、財政的困難に直面しているUNFPAを支援するために、ODAの一律な削減ではなく援助の重要度を反映させた予算の編成により、UNPFAへの拠出金を昨年度と同額に維持できるように努力したい。
 
サラビ大臣
 女性センターは識字教育、保健活動、法的カウンセリングなど様々な活動を行っている。具体的には医師、ジェンダー・トレーナー、保健婦、教員などが必要。また日本における技術研修も続けて行きたい。
 
オベイド事務局長
 ジェンダー・トレーニングに関して、アフガニスタンの女性が日本で研修を受けるのも必要だが、他のイスラム圏の国で研修ができれば更に有効である。
 
福島豊・衆議院議員
 日本としてUNFPAの活動をできるだけ支援していきたい。







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