日本財団 図書館


南京大学における「教育・研究図書有効活用プロジェクト」の評価について
南京大学図書館
副館長 馬金川
 南京大学は、日本財団の助成により日本科学協会が実施している「教育・研究図書有効活用プロジェクト」の対象13大学の一校である。ここ数年来、日本科学協会からご寄贈いただいた図書は大学図書館の蔵書を豊富なものにし、灌漑水のように学生の成長を助け、教員の講義の参考図書として役立ち、学内の科学研究活動を大いに促進するものとなった。これらの図書から南京大学が得られた受益が大きいことは無論であるが、この事業の波及効果が中日両国の文化と学術交流の発展、さらに中日両国の世々代々の友好往来に与える潜在的な影響は現在の評価では計り知れないものがあると考える。
 
1.図書館が豊饒なものに
 南京大学は延べ約3万冊の図書寄贈を受けている。その中には語学、文化、歴史、哲学、宗教、政治、経済、法律等文科系の日本語版の図書及び数学、物理学、化学、地学、医学等自然科学分野の日本語版の図書が含まれる。これらの図書は、南京大学図書館の蔵書を豊富にし、図書館の蔵書をより体系的なものにして、所蔵する文献の関わる分野をより広範なものにした。
 正に「読む時にただ本が少なすぎずと思うばかり」といわれるように、図書館とは蔵書が豊富であって初めて多くの読者を惹き付け、読者は知識という海原で自由自在に泳ぐことができる。蔵書が豊富な図書館こそ優れた大学を築き上げる必須条件である。百川が流れ込む海洋のように、日本財団の助成により日本科学協会が実施している「教育・研究図書有効活用プロジェクト」により贈られた図書は正に渓流のように日本の各界から集められ、南京大学の図書館に絶えず流れ込み、我が大学図書館を次第に豊饒なものにしております。そうした状況にから、南京大学は江蘇省各大学の日本図書蔵書利用の中核的存在になりつつある。これらのことを考慮すれば、判断を急ぎ、目先の効果に捕われるような短期的な効果評価法でこの図書寄贈事業の長期的な効果を評価してはならないと考える。
 
2.学生を潤す灌漑水
 南京大学には日本語学部があり、新入生は春に入学し卒業は秋である。毎年、入れ替わる学生達は日本からの蔵書で潤っている。日本から寄贈された図書は語学、文学、風俗・文化等の関係のものであるが、それらは「原汁原味」であり、日本語を専攻する学生の言語と文化の乖離を解消し彼らを日本語の世界に溶け込ませるものである。そのため、日本語学部の学生が日本語を駆使する能力は著しく向上した。南京大学日本語学部の卒業生は、就職先でも非常に評価が高い。卒業生の就職先は超過需要の売り手市場であり、就職先に困ることはまず無い。その結果、南京大学の国際交流課と図書館に残る日本語学部の卒業生が殆どいないという状態となっている。
 
3.教員の補助教材
 日本語蔵書に含まれている日本語版の教科書、講義参考書は関わる分野が広く、良質なものが多い。中には日本語教育だけではなく、日本の大学で講義に使用される文科系、理科系の各種の教材も含まれている。南京大学には、日本への留学経験のある教員や大学院生も多く在籍している。これらの教員、大学院生は日本語版の図書をよく利用している。教員達は日本の大学の教材から良いところを汲み上げ、自分の講義用教材をリメイクする際に参考としている。従って、これらの図書は南京大学の教育水準の向上に重要な補助的役割を果たしていると言える。
 
4.研究開発の促進
 日本から寄贈された図書の最大の受益者は、近年設立した中日文化研究センターである。このセンターは中日両国文化交流の結晶である。歴史的に見ても江蘇省は中日文化交流の関係は深くその影響も大きい。唐の時代に揚州の鑑真和尚は幾度の挫折を経て6度に亘る日本渡航を果たした。和尚は中国の宗教、建築、彫刻、医学を日本に伝え、終には奈良に永住するまで、中日間の文化交流に卓越した貢献をなされた。しかし、とても残念なことに、「一衣帯水」の中日両国の歴史にも悲しい曇りの時代があった。特に南京市には、日本という国を骨身に刻まれるような悲しい記憶が残っている。中日両国の有識者が南京大学に中日文化研究センターを設立することは、深遠な意義を持つことである。わずか1年の間に2万冊近くの蔵書を有する「日本文化図書館」を中日文化研究センターの中に立ち上げたが、その蔵書の中で日本科学協会から寄贈された図書が占める割合は大きい。図書の関わる分野は、文学、歴史、哲学、政治、経済、法律、宗教等、文科系の主要な専門領域をカバーし、その中には非常に貴重な典籍や研究用図書も含まれている。これらの蔵書は、「日本文化図書館」の蔵書を豊富なものにし、研究者達に深遠で水準の高い知識という養分を吸収させてくれるものであり、優れた研究成果と著作を生出すきっかけとなるものであろう。中日文化研究センターには57名が在籍しているが、そのうち日本で博士号を取得した帰国学者が11名、教員が16名、大学院生が30名である。彼らの研究には主に「日本文化図書館」が利用されており、彼らはそこで日本の図書と文献を大量に閲覧している。今年に入ってわずか5ヶ月の間に図書の貸出数は延べ342冊に達しており、一人当りに換算すると平均6冊ということになる。
 南京大学中日文化研究センターの研究者彭曦、汪麗影、汪平の三名の共著となる「冷戦後の日本政治―保守化の歴史」が、2003年4月に初版本として中国北京にある中国社会出版社から出版された。かれらは同書の執筆に際して、日本文化図書館に所蔵されている日本科学協会からの寄贈文献を数多く参考にした。具体的な参考文献としては、「日本の政治家:父と子の肖像」、「日本政治の構造」、「日本政治思想史研究」、「日本外交史4:サンフランシスコ条約」、「社会科学の理論とモデル1.選挙、投票行動」などを挙げることができ、このことは共著本の引用文献として明確に記載されている。
 また、中日文化研究センターは日本文化研究の書籍を翻訳しシリーズで出版することも計画している。
 特筆すべきは、創文社刊の良質な文科系の研究書が学者達の注目を集めているということである。また、講談社刊の約700冊の学術文庫本についても、中日文化研究センターは永久保存の対象としている。従って、南京大学図書館は、上記のような図書が今後も継続的に寄贈されることを切に願っている。
 日本科学協会の図書寄贈事業の担当者達が、寄贈事業のために大変な努力をなされたことに対して南京大学図書館は衷心より敬意を表したい。
 
5.図書寄贈が中国文化交流に与える影響
 「理解が交流から始まり」「交流を通じて理解を深める」。中日両国は共にアジアにおいて一挙手一投足に影響力を持つ立場にある国である。友好的に付き合い、平和的に発展することは、世界の平和と発展に重大な影響を与えるであろう。図書は知識の媒体と科学の記録として、人類にとって知識を記載する忠実な媒体であり、文化遺産の保存形態でもある。日本科学協会が日本の各界から図書を集めて中国の主要大学に寄贈する事業は、深遠で歴史的な意義を持ち、先を見通した賢明な行動である。それは現在、学生を灌漑する水ではあるが、後世も潤す水であろう。南京大学図書館は、日本科学協会の意思決定者の哲学者のような思考方式と仏教思想の「和を上(尚)とする」的な慈悲広大な心豊かさを心から賞賛する。南京大学に図書を寄贈するという意思決定、そしてその実現は日本科学協会の高徳無量の業であり、南京大学図書館蔵書担当の副館長として日本科学協会に対して衷心より敬意と感謝の意を表したい。
2003年6月3日







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