5.2.4 データとセマンティクスの保存
このパラグラフでは、データとセマンティクスの保存について、通常の場合とGellishの場合について比べてみる。
次の例にて説明すると;
−あるポンプ(‘P−1’)が、ある流体(‘S−1’)を汲み上げているとする。
通常のデータベースでは、物の解釈をするセマンティクスを定義する為に、データモデルとして幾つかのエンティティ型と属性型を定義しなければならない。この例では、データモデルは、エンティティ型として、'pump'、'process'や'stream'及びそれぞれの属性が定義される。
Gellishでは、'pump'、'process'や'stream'の概念はエンティティ型ではなく、インスタンスの関係によって汎用的なデータベースに定義されるもので、最低限の数の'basic
semantic axioms’のみを知るだけなのである、またデータベースには沢山の付加的な事柄をふくんでいる。最低限の数の'basic semantic
axioms'は、予め分かっていなければいけないし、かつ付加的なセマンティクスな事柄を定義するに十分なものでなければならない。
新しい事柄を定義するには、数々の初歩的な事を、新しい事柄と既存の事柄との間の関係を表現して定義する必要がある。別の言い方をするなら、新規の事柄は図5.3に示す構造を作る必要がある。
心得ておく必要がある最低限の数の'basic semantic axioms'とは;
-anything
-role
-relation/relations
-plays role
-requires role
-is/is a (is classified as a)
-specialisation of kind (is a specialization of)
-individual thing/individual things
-kind of thing/kind of things
-single thing/plural thing
この最低セットは図5.3に示されている。
(拡大画面:52KB) |
|
図5.3 Basic semantic axioms
2つまたはそれ以上のオブジェクト間の'atomic relation'によって、'オブジェクト'と'role'と'relation'のクラス分けによって、新しい'atomic fact'が表現される。これは、新しいatomic factは、図5.3の青い箱で表わされた9個のrelation(5個中4個の箱は2つのrelationを持つ)によって表わされるということを意味する。セマンテイックを拡張する新しいfactは、'オブジェクト'間のrelationによって表現される、そのオブジェクトとはkind of thingsである。
例として、インペラーO1が渦巻ポンプO2のpartである(impeller O1 is part of
centrifugal pump O2)場合を、Gellishで次の4個の初歩的な関係で表わす;
-object O1 plays role R1
-role R1 is required by relation C1
-relation C1 requires role R2
-role R2 is played by object O2,
次の5個の付加クラスのrelationがある;
-O1 is classified as an 'impeller'
-R1 is classified as a 'part'
-C1 is classified as a 'part-whole relation'
-R2 is classified as a 'whole'
-O2 is classified as a 'centrifugal pump'
実際に実装するには、Roleとクラスに対する明示的な識別子は無視される、何故ならrelationのクラスで賄われるからである。
従って、上記の関係は、通常次の3個のGellishに集約される;
-O1 is classified as an 'impeller'
-O1 is part of O2
-O2 is classified as a 'centrifugal pump'
この例として、5個のクラス分けされたkind of thingsが、これが定義される以前に、定義されていなければならない。これは、STEPlibライブラリで使えるようにGellishデータベースのトップダウン階層定義を生むことにある。
一例として、'centrifugal pump'という定義は、分かっている必要がある。この考えは2個の関係で定義される;
-以下の定義を行うrelationの特種化(Specialization);
'centrifugal pump'は'pump'のサブタイプである
-Centrifugal pumpを定義するには、centrifugalの原則を用いる
'centrifugal pump'は'centrifugal'と定義される
双方の関係は、'pump'と'centrifugal'に関する詳細な定義に立脚して作られる。
図5.3の各々の箱は、単数のthingまたは複数のthingとして解釈されることに注意のこと。例えば、もし'anything'が複数のものに対するポインターであれば、そのクラスの関係は複数の各要素毎のクラスになる。さらに、'kind of things'は、3個のクラスに対してkind of anything、つまりkind of roleとkind of relationをそれぞれ表わすので、'kind of thing'になる。
参考資料
|
− |
Gellish on the Web, a short introduction of the capabilities of Gellish to
express messages. |
|
− |
Guide on STEPlib, a guide to extent STEPlib and the Gellish language. |
|
− |
The Gellish Reference Manual, a Gellish user guide. |
|
− |
The STEPlib database, a set of tables (in EXCEL) or a CLB database file native to the STEPlib Browser. |
6.1 Ship STEP規格化の現状
6.1.1 各国の取組み状況
Ship STEP規格の開発に当たっては、日米欧韓の4者間で(日本船舶標準協会(JMSA)-日本、Navy/Industry Digital Data Exchange Standards Committee(NIDDESC)-米国、Marine E-business Standards Association(EMSA)-欧州、Korea Ship STEP (KS-STEP)-韓国)MoUを締結し、協力して開発に当たっているが、各者の取組み姿勢には大きな違いがある。
(1)積極的な欧米
艦艇分野におけるShip STEP適用に対する具体的なニーズに基づき積極的に取り組んでいる。米国はNIDDESC主導のもとにHarvest、ESTEP等のプロジェクトを展開し、規格の開発・実装検証を推進しShip
STEP規格開発の主導的な役割を果たしている。欧州もEMSAのもと、DNV、LR、GLR等船級協会の積極的な参画を得て、特にProduct Life Cycle
Supportにターゲットを置いて、米国と一体となって積極的に取り組んでいる。
(2)情報収集・調査研究レベルの日韓
これに対し、日本ではJMSAのSTEP/船用AP専門分科会(造船、船級、大学、ソフトベンダーにより構成)による規格案の調査・解析、コメントの提出・反映等の活動が中心であり、規格開発、実装検証等の分担といった直接的参画はごく一部に留まっている。また韓国は、大学・研究機関を中心に、商船建造を対象としたAP218(船殻構造情報)に限定した情報収集、調査研究及び一部の実装テストを行っている状況である。
上記のとおり、Ship STEP規格の開発は、欧米の艦艇オーナー・ヤード、船級協会が中心となって進められており、商船のオーナー・ヤード、舶用工業界の積極的な参画は見られていない状況にある。
6.1.2 規絡開発の状況と技術的問題点
(1)規格開発の状況
“3.4各APの開発スケジュールとステータス”にある通り、現在開発中の4規格の内、AP216(船型情報)は近々ISO規格として発行される予定である。残りの3規格もDIS投票に付されており、現時点での見通しでは、規格発行はAP218(船殻構造情報)が2003年第4四半期、AP215(船体区画配置情報)が2004年第3四半期、AP227Ed.2(Plant/Ship配管情報及び船用機器装置情報)が2005年第1四半期となっている。
(2)技術的問題点
STEP規格は、業務モデルを表すAAM、情報モデルのARM、実装モデルのAIMへと段階的に詳細な検討が進められ、厳密に定義されていくが、これらの相互関連性、整合性を綿密に理解し、評価するためには、実務面と情報面での専門的な知識と多面的な検討・検証が必要となる。
STEP規格を正確に理解するには、規格案に目を通すだけでは困難であり、実業務に照らした分析を加え、実務者が理解できる形に解説する必要がある。また更に、実用レベルでの理解のためには、机上での調査・検討では限界があり、実データに基づいた実装検証・評価が不可欠であるが、リソース面での問題が大きな障壁となる。即ちSTEP規格の開発には、技術面とリソース面での問題が内在している。
上述の背景から、JMSAではこれまで主として規格案の解析・解説を行ってきたが、今後は欧米で進められているIS化に向けたTest
CaseやUsage Guide等の実装技術面での解析・解説に重点を移していく必要がある。但し、これらの情報がどの程度開示され、実用レベルでの理解・検討に有用となるか不透明であるが、少なくとも実装検証・評価に踏み込めるためのガイダンスを整備することが本専門分科会の役割であると認識している。
6.2 今後の展望と課題
JMSA(STEP/船用AP専門分科会)の「船舶関係STEPの国際標準化事業」においては、今後とも、STEPの実用化に備え、ISOの場におけるShip STEP規格の開発動向調査、情報収集、規格案の検討・解説・レポート・意見の提出を着実に実施していく。
一方、我が国船舶業界においては、造舶Webでの機器情報の交換は始まったものの、本格的なSTEPの実用化について、まだ強い要望の声があがっていない現状にある。これは、
□我が国では、船舶の設計、調達、建造、引渡に至るまでの情報は各造船会社独自のシステムで処理されており、この処理手順やデータそのものが各社のノウハウとなっていること
□デジタルデータでの情報交換は、ノウハウの流出につながるとの危倶があること
□他との情報交換は限定的で、現状のビジネス形態では従来のやり方で十分対応出来ること等の事情があると共に、規格を開発する側においても、
□STEPの持つ異なるシステム間での情報の交換・共有・長期保存・ライフサイクルサポート面での利点を、分かりやすくかつ実現可能な姿を示す努力と工夫が不足していたこと
□開発資金と人的リソースの関係で、規格開発に長期間を要し、開発当初にあった業界の意欲を削ぐことになっていること等
の事情があると考えられる。
Ship STEPの開発は最終段階に差し掛かりつつあり、今後は、「船舶関係STEPの国際標準化事業」で得られた知見を基に、業界において、Ship STEPの理解、実用面(技術面、ビジネス面)での検証・評価、業界内活用普及の検討を進めることが望まれる。
|