B.3 韓国輸出入銀行による優遇措置
B.3.1 序
韓国輸出入銀行
韓国輸出入銀行(KEXIM)は、韓国経済の成長・発展の促進、外国との貿易の振興を目的として、1976年に韓国輸出入銀行法に基づき設立された。この目的の達成のため、KEXIMでは、融資、保証及び貿易関連ファイナンスなどのファイナンス業務を行っている。しかしながら、その基本的な機能は、資本財・サービスの輸出、海外投資、主要資源の開発のためのファイナンスにある。
韓国輸出入銀行法第4条により、KEXIMの資本は4兆ウォンとされており、内訳は韓国政府が54.8%、韓国銀行が39%、韓国産業銀行が6.2%となっている。後者の2行は、政府所有の金融機関である。
KEXIMのファイナンス業務
以上のような目的のために、KEXIMは以下の3種類に分類される数々のファイナンス商品を有している。
(a) |
国内供給者へのファイナンス 国内供給者への輸出融資、出荷前輸出信用、技術サービス信用、海外投資・プロジェクト信用、主要資源開発信用、輸入信用、貿易手形割引
調査対象の全ての造船所で出荷前輸出信用が用いられていた。大宇、現代尾浦及び現代重工では、輸出融資が用いられていた。 |
(b) |
外国の購入者へのファイナンス 外国の購入者への直接融資、プロジェクトファイナンス、外国銀行向け融資資金貸付及び海外事業信用
調査対象期間(IP)においてこれらの措置は用いられていなかった。 |
(c) |
保証 前受金返還保証及びプロジェクトベースでの保証 調査対象の全ての造船所で前受金返還保証が用いられていた。 |
造船業に関する限り、調査対象期間においてKEXIMは輸出融資、出荷前輸出信用及び前受金返還保証を供与していた。
I. 輸出融資
KEXIMの輸出融資は、国の監督下にある銀行から受益者への資金の移転(WTO補助金及び相殺措置に関する協定(ASCM)第1条1.(a)(1)(i)に規定されている融資)に該当する。特に、KEXIMのファイナンスは、韓国造船事業者に韓国の金融市場で得られるものよりも有利な条件で金融上の支援(融資に対する利息)を供与していることから、借り手に「利益」を与えている。
CESAは、KEXIMの融資はLIBORよりかなり高いが、WTO上級委員会がカナダの民間航空機問題で政府が優遇金利を供与したかどうかの決定に用いるのに適切な基準とみなしたOECDの最低金利よりずっと低い金利であったと申し立てている。更に、欧州委員会は、2件の鋼ワイヤに関する調査52で、KEXIMの輸出融資は総裁措置の対象となる輸出補助金であるとの結論を既に下している。
KEXIMの輸出信用は、輸出に必要な資金を供給するため、サプライヤーズクレジットとして韓国の輸出者に対してファイナンスを供与することにより、明らかに輸出を条件に行われており、ASCM第3条1の「法律上、輸出が行われることに基づく」ものである。
CESAは、また、上記の措置は禁止補助金に該当すると申し立てており、輸出信用ファイナンスが、ASCM附属書Iの輸出補助金の例示表の第(k)項の「適用除外(safe
havens)」に該当するかどうか検討している。53
手続き
韓国輸出入銀行法に基づき、KEXIMは、韓国造船所への輸出融資及び外国船主への融資を行っている。この融資への適格性は以下のような様々な要素に基づき決定される。
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仕向け国は「高リスク国」に該当するものでないこと |
- |
資本財はKEXIMが指定したものに該当すること |
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借り手の信用度が十分であること |
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過去3年間、純損失を計上していないこと |
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未払い債務が株主資本を上回らないものであること |
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信用格付けが一定レベル以上であること |
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負債・資本比率が一定値以上であること |
申請者は、信用の所要条件を示してKEXIMに申請を行う。書類審査後、適確要件を満足するものであれば、KEXIMは通常、予備承認を与える。申請内容の詳細審査後、KEXIMは造船所との輸出契約に入る。輸出契約は外国通貨でもウォン建てでもよい。契約価格の100%から所要の頭金(造船の場合契約価格の20%)を差し引いたものが輸出融資の上限となる。最大償還期間は8.5年である。
韓国政府によれば、金利は8%以下とすることはできない。KEXIMは、金利は契約金額、担保、償還期間及び信用リスク評価によって決定されるとしている。
II. 輸出前信用
適格性の基準及び運用は基本的に輸出融資と同様である。しかしながら、上限値は契約価格の90%となっている。
外国通貨建ての輸出信用の場合、利子は以下の基本要素を合算して決定される。
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基本利子:当該外国通貨のLIBOR |
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外国通貨の融資コスト、管理費、付加金(マーク・アップ)の合計額を反映した最低マージン |
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償還期間2〜3年の場合0.1%の期間リスクマージン(これより償還期間が短い場合ゼロ) |
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借り手の信用度が十分であること |
ウォン立ての輸出信用については、金利は以下の基本要素を合算して決定される。
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韓国産業銀行の産業ファイナンスボンドの収益率で決まるプライムレート |
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KEXIMによる信用評価に基づいた最高3%までリスクを拡大した信用 |
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特別調整の拡大:KEXIMは市況及び市場金利に基づき特別調整の拡大を追加できる。 |
III. 保証
KEXIMの前受金返還保証制度(APRG)は、韓国の輸出者(造船所)による関与がない場合には、国の監督下にある銀行から韓国船舶の購入者への資金の移転(ASCM第1条1.(a)(1)(i))に該当する。本保証は、韓国の輸出者によるプレミアムの支払を条件としてKEXIMから供与される。KEXIMによる保証は、当該輸出者が韓国の金融市場で得られるものよりも有利な条件で金融上の支援(商業的でない低いプレミアム料の賦課)を供与することで、借り手に「利益」を与えていると申し立てられている。本保証は輸出される韓国産品に対する頭金の100%を保証するために供与されるものであることから、KEXIMの前受金返還保証制度によりファイナンスの付けられる商談は当然輸出取引であり、当該保証は、「法律上、輸出が行われることに基づく」ものである。従って、本保証はASCM第2条3の特定性を有する輸出補助金に該当する。
CESAは、上述の前受金返還保証のような輸出信用保証は、「政府(又は政府の監督の下にある特別の機関)が輸出信用保証制度について、長期的な運用にかかる経費及び損失を補填するためには不十分な料率で運用すること」と規定するASCM附属書Iの輸出補助金の例示表の第(j)項に該当すると申し立てている。制度の長期的な運用にかかる経費及び損失を補填しない輸出信用保証は、ASCMで禁止されている輸出補助金に該当する。54
手続き
本制度の下で、KEXIMは、直接外国の船主に対してだけではなく、適格性のあるプロジェクトのファイナンスに関係する韓国及び外国の銀行にも信用を供与している。適格性の基準は輸出融資の場合と基本的に同様である。
保証される金額は、元本及び利息の100%である。
KEXIMによれば、1999年の総保証額は2兆9190億ウォンであり、銀行に対する保証料はOECDガイドラインの最低額である。輸入者に対する保証料は当該取引や借り手のリスクに応じて個々に決定される。
1999年にKEXIMに支払われた保証料・手数料の総額は594億9700万ウォンであった。KEXIMは、保証額の約70%は造船業に供与されたものであると認めている。
ASCM第1条に基づき、(1)「政府が資金調達機関に支払を行うこと、又は民間団体に対しこれらの任務を委託し又は指示することを含め、政府又は公的機関が資金面で貢献して」おり、(2)「利益がもたらされること」があれば、補助金が存在する。
ASCM第3条に基づき、「法律上又は事実上、輸出が行われることに基づいて(唯一の条件であるか、二以上の条件のうち一の条件としてであるかを問わない。)交付される補助金(附属書Iに掲げるものを含む。)」であれば、補助金は禁止される。輸出が行われることに基づいて供与される補助金は禁止されており、従って悪影響を示す必要はない。輸出信用制度は附属書Iの範囲の中に明らかに入っており、附属書Iの規定にあてはまる政府の制度はASCM第3条1(a)に違反する禁止補助金である。
前受け金支払保証制度(APRGs)
前受け金支払保証制度について、提訴では、漢拏に対するその危険な状態で正当化し得ない条件でのKEXIMの支援の例示している。漢拏の保証で課されたプレミアムは、破産会社に保証を与えるという事実を全く反映したものとなっていなかったと申し立てられている。
調査中、KEXIM及び調査に協力した造船所は、KEXIMの個々のファイナンスの条件に関する情報は秘密情報であり、KEXIMのファイナンスの条件に関する情報の開示は深刻な商業上の損害をもたらすと考えていた。
前受金返還保証制度について、KEXIMは同制度のプレミアムによりもたらされた収入だけを提供した。収入に関し、KEXIMは、1976年以降KEXIMが関与した保証取引は1件のみであると述べたが、この情報の事実関係を確認することはできなかった。更に、企業再建途上や裁判所管理の造船所の信用リスク評価に関する情報については、事実関係の確認できる情報は一つも提供されなかった。
本制度に関して韓国政府が調査中協力をしなかったことから、欧州委員会は、利用可能な事実を用いるとともに他の情報源からの本制度の評価に基づいている。
1. KEXIMMは前受け金支払保証制度を採算の取れない事業と分類した
KEXIMの年次決算は、本制度に基づくファイナンスに関する事実の情報を提供している。1999年末におけるKEXIMの保証残総額は39億4300万ドルであった。本決算の注釈において、大宇への保証に関して特別な言及がなされている。本件に関し、KEXIMは保証残総額の24%に該当する9億5400万ドルの前受金返還保証を大宇に対して行っていた。KEXIMが大宇に対する保証残額を正常なもの以下のもの、即ち、警告あるいは標準以下のものと格付けていたことを書きとどめておくことが重要である。この格付けは、KEXIM自身が大宇がその義務を完全に履行できるかどうかを深刻な疑念を持っており、KEXIMがその保証を履行しなければならなかった可能性が高いことを示している。
2. KEXIMは信用のない造船所に前受け金保証を供与している
調査中、企業が経営難に陥り、法廷管理やワークアウトとなった後もKEXIMが前受け金支払保証を行っていたことが判明した。前述したように、これらの企業が事実上倒産していたことは明らかである。こうした状況下でKEXIMが前受金返還保証を供与するにあたって純粋な商業上の動機によって行われたかどうかが問題である。
KEXIMが商業的な方法に則って行動したという事実は、これらの企業の信用リスク評価を通じて判断されるべきである。韓国政府は1999年3月10日付のIMF宛ての意図表明のレターで、KEXIMを含む専門金融機関はリスク管理が不十分だったとの認識を示している。韓国政府は、「(i)信用リスクを評価し、融資を管理・運営し、信用履行を制限するシステム、(ii)銀行全体でリスク(金利、信用、市場及び運営上のリスクを含む)を監視・制御するシステム、(iii)リスク管理と内部監査についての設定されたガイドラインヘの適合性の評価のシステムを含めリスク管理を改善する」と述べた。
しかしながら結果的に、KEXIMは保証プレミアムに対する適切な信用リスクの反映を行わないで前受金返還保証を行っている。
3. 韓国政府はKEXIMに膨大な資本を供与してきた
既に提訴でKEXIMが1997年、1998年、1999年に財政支援を受け、KEXIMが運営経費をカバーできなかったことを強く示していると主張する情報が提示されている。
1999年の決算によれば、KEXIMの払い込み資本金は、韓国政府からの出資(1,000億ウォン)及び韓国銀行からの出資(7,000億ウォン)で8,000億ウオン増えている。KEXIMは、この増資を「顧客の融資需要に適応するための継続的な資本強化努力の一環」と記述している。
1999年初KEXIMの払込資本額は1兆2570億ウォンであったが、この1年でKEXIMの資本金は63%増加した。一方で、同行の貸付支出は1999年に17%増加しただけである。これらによって増資の主要目的が顧客の需要や将来の融資目標であることを正当化するのは困難である。正常でないものと格付けされる巨額の負債残高とあいまって、前受金返還保証制度は運営経費や損失を補填することができていないとしか結論付け得ない。
結論的に、上記の3要素に基づき、前受金返還保証は長期的な運用にかかる経費及び損失を補填するためには不十分な料率で運用されている。これは、ASCM附属書I(j)項に適合しておらず、従って、ASCM第3条1(a)に規定される輸出補助金に該当する。
輸出信用
輸出信用及び融資に関し、CESAはKEXIMのファイナンスはLIBORよりかなり高いが、カナダの民間航空機に係るWTOの上級委員会が政府が優遇的な利率を提供したかどうかを決定するのに適切な基準とみなしたOECDの最低金利よりかなり低い利率であったと申し立てている。
韓国政府は本制度に関し調査に協力しなかったが、調査結果では、輸出信用ファイナンスがASCMに適合していないことが明らかとなった。
1. KEXIMは正常な商業条件でファイナンスを供与しなかった
輸出信用ファイナンスの供与にあたって、KEXIMは、通常の商業的金融機関として行動していなかった。1999年決算において、KEXIMは、「商業金融機関から適切な貿易関連ファイナンスを得ることが困難な輸出者・輸入者に様々なファィナンス制度を提供することにより回復に貢献した」と認めている。即ち、当該決算は、KEXIMが、民間金融機関がファイナンスをしようとしない場合に韓国企業に輸出信用を供与したことを示唆している。言い換えれば、これらの企業は信用がないものと見られていたわけである。これは大宇に供与された輸出信用で例証される。1999年末における大宇に対する輸出信用残高は14億2600万ドルで、このうちの10億3900万ドルが正常でないもの、即ち、警告、標準以下又は焦げ付きと格付けられたものであった。
1999年輸出信用ファイナンスは7兆7000億ウォンに上るKEXIMのファイナンス額の99.5%を占めており、1998年に比べ20.4%の増加であった。この増加は、多数の企業が商業金融機関から輸出関連ファイナンスを得ることができず、このため輸出活動へのファイナンスをKEXIMに依存したという事実を説明付けるものである。
この点に関し、提訴に述べられ、また、前受金返還保証制度に関する上述の分析に説明されているように、KEXIMは問題とされている期間に適切な信用リスク評価の政策を実施していなかったと見られる。
更に、KEXIMの輸出信用制度は船舶とプラントの輸出へのファイナンスに主に用いられていたことを述べておく必要がある。これらの2分野でKEXIMの信用ファイナンスの97.3%を占めている。
2. KEXIMの輸出信用ファイナンスは既に輸出補助金に該当すると判断されている
欧州委員会は、既に鋼ワイヤに関する2件の調査55で、KEXIMの輸出ファイナンスが相殺措置の対象となる輸出補助金であると判断している。
3. KEXIMのファイナンスは適用除外条項に該当しない
韓国政府は、問題とされる保証はASCM附属書Iの関連規定の「適用除外」に該当し、禁止輸出補助金にあたらないと申し立てた。この点に関し、韓国政府は、輸出信用制度はASCM附属書I(k)項の「適用除外」にあたるとしている。
しかしながら、OECD公的輸出信用ガイドライン取極めへの韓国の参加によるASCM附属書I(k)項に基づく適用除外については、関連の要件が満たされていないと思われる。当該制度が禁止輸出補助金にあたるとの申し立てから自らを守るために、この適用除外には、輸出信用制度の条件が「輸出信用の条件に関する国際約束の規定に適合すること」を政府がはっきりと証明することが必要とされている。韓国が参加している公的輸出信用ガイドライン取極め(以下、「OECD取極め」という。)の附属書Iには、船舶輸出信用了解が含まれており、同了解では、市中金利又は最低金利(8%)が適用されることなど様々な条件に適合する場合に輸出信用に関する公的支援が認められている。提訴に示される情報は、KEXIMが提供する条件はこの了解の要件を満足していないことを示唆している。
いかなる事態にあっても、本適用除外規定に関して上級委員会はブラジルの航空機の輸出ファイナンスの件(2000年7月21日)で、挙証責任は被提訴側(本件の場合、韓国)にあるとする積極弁護(affirmative
defences)を採用すると定めている。しかしながら、韓国政府は調査に際し関連する証拠を提出しなかった。
上記の要素から、造船業への輸出信用ファイナンスはASCM第3条1(a)の輸出補助金に該当するとの結論が導き出される。本来借り手が支払う必要のある金利、あるいは、国際市場で調達した場合の金利より低い金利で輸出信用ファイナンスが供与されている。上記のように、KEXIMはファイナンス事業を継続するために63%もの払込資本の増資をしなければならなかった。結果的に、適用された金利は企業の信用度を反応したものとなっていなかったと結論付けられるべきである。更に、多額の輸出信用ファイナンスが正常以下であると格付けられてもいる。
以上のことから、韓国政府がKEXIMの制度の下で禁止補助金を供与していた可能性が高いと考えることができる。
しかしながら、欧州委員会は、入手可能な情報を集め、造船業への影響を評価するため、KEXIMの本制度についての分析を続けることとしている。
52 欧州委員会規則618/1999及び619/1999(1999年3月23日)(OJL79)
53 禁止補助金でないとしても、かかる補助金は悪影響を及ぼすものであればASCM第5条に基づく相殺措置の対象となる補助金である。
54 禁止補助金でないとしても、かかる補助金は悪影響を及ぼすものであればASCM第5条に基づく相殺措置の対象となる捕助金である。
55 欧州委員会規則618/1999及び619/1999(1999年3月23日)(OJ L79)
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