3−0 Wrtsil社
3−1 会社プロフィール
英語名称:W rtsil Corporation
所在国:フィンランド
本社住所:Tarhaajantie 2, PO Box 252, FIN−65101 Vaasa, Finland
連絡先:T:+358 10 709 0000 F:+358 6 356 7188
1996年9月、W rtsil Diesel社がNew Sulzer Diesel(以下NSD)社と合併すると発表され、その後、イタリアのFincantieri社のディーゼル・エンジン製造会社を含めて新会社は1997年4月に設立され、フィンランドのMetra社との合弁によるベンチヤー企業であるW rtsil NSD社の傘下に組み込まれるようになった。2000年9月にMetra社はW rtsil と改名され、同時にW rtsil NSD社がW rtsil Power Divisions(以下WPD)社と改名した。
旧W rtsil 社は、一流のエンジン・デザイナーでありながら、他のメーカーに全くライセンスを供与せず、そのエンジンを自身で製造する戦略をとっていたが、一方のNSD社はこれと対照的に、自社では殆んどエンジンを製造せず、エンジン製造をライセンシーメーカー企業に任せるやり方をとっており、営業戦略がお互い異なる両社が合併したことで、当時の関係者の関心を集めた。
この営業戦略に対する考え方の違いは、元来、旧Sulzer社は主にタンカーや超大型船に搭載される低速エンジンを設計しており、自社の工場よりも、大型船に対応できる建造現場を有するライセンシー企業会社に建造を委ねる方が合理的であるとの事情が背景にある。
W rtsil 社は、フィンランドのVassa本社、Turka支社及び旧NSD社のスイス支店に加えて、高速エンジンを製造しているフランス工場及びガス・エンジンと中速エンジンを製造しているイタリアにもそれぞれ工場を有しており、開発研究や工場作業者を含め総勢1万人を超える従業員を擁している。イタリア工場では、以前はオランダ工場で製造されていたものを取り扱っている。このTriesteにあるイタリア工場では同社最大クラスの4ストローク・エンジンのほか、2、4ストロークの旧Sulzer型のエンジンを製造している。
数年前までW rtsil 社は、舶用、陸上動力施設及びメンテナンスを含むサービスの3つの事業範囲を均等に分割していたが、現在では、エンジンの出荷増に伴い、サービス事業に占める割合が収入金額ベースで最大になっている。舶用とそのライセンス関連事業については、収入の27%と現在は低迷している。2001年度の同社の売上高は5億9,500万ユーロと報告されている。2001年にW rtsil 社が供給したエンジンの総合計出力は、自社が直接製造したものが234万6千kW、ライセンシー製造によるものが238万4千kWとほぼ二分している。
舶用専門雑誌「Diesel & Gas Turbine Worldwide」の統計によると、W rtsil 社の2000年6月から2001年5月の1年間の市場占有率は、中速エンジン(4ストローク)が37%、低速エンジン(2ストローク)は22%で、両者合わせて26%のシェアとなっている。
今後の営業方針についてW rtsil 社は、エンジンだけの製造から、プロペラ、ギヤーボックス、これらの機能化に必要な電子制御装置や情報技術の分野を含む包括的な「総合推進システム」の提供会社へと生まれ変わりたいとの新戦略を打ち出している。2000年6月には、当時世界最大のプロペラメーカーであったJohn Crane−Lips社と協定を結び、プロペラとエンジンを組み合わせた商品パッケージの販売を開始した。また、2002年11月には、三菱重工業との間で新しい舶用低速エンジンを設計、開発する共同開発協定を発表し、この中で、エンジンの高効率化、コンパクト化、経済性向上に加えて環境負荷の低減化への理念を取り入れていくとしている。
3−2 研究開発活動
W rtsil 社の過去3年間の研究開発に割り当てられた予算は増加している。1999年と2000年の予算は対前年度比610万ユーロと8.3%増加したが、2001年には同20万ユーロと0.25%の伸びに抑えられ、年間当たりの研究開発予算は7,980万ユーロとなっている。これを売上総額の割合として試算してみると、研究開発費の占める割合は、4.0%、3.5%及び3.7%と推移している。
W rtsil 社では研究開発技術スタッフを約220人擁している。フィンランドのVassa本社工場に併設された研究所では約80人配属され、主に中速エンジンの研究開発に取り組んでいる。また、スイスのWinterthurにある研究開発施設では、約60人の技術者が配属されており2ストロークエンジンの技術開発を行っている。この2ケ所の研究事業を含め、全社の研究開発事業はエキスパートグループに統括、指揮されている。会社独自の研究開発事業に加え、W rtsil 社ではフィンランドのヘルシンキ、ツルクやスイスのチューリッヒ等の大学と連携して共同研究開発も行っており、さらには、欧州連合が支援する研究開発計画にも参画している。
W rtsil 社では、既存の製品に対する技術的改善研究を継続して実施しているが、全く新しい革新的技術の研究開発事業にも取り組んでいる。エンジンの高効率化、信頼性や経済性の向上に加えて、環境規制の強化に対処するための排出ガス削減技術の研究開発事業にも最近特に焦点を当てて取り組んでいる。
1980年代中頃以降、W rtsil 社は排気ガス削減技術の研究開発に関して、1億ユーロ以上の予算を投入してきており、その成果がようやく商品化となって現れてきた。その中でも、窒素酸化物の削減技術が重視される中、低NOx排出燃焼技術(Low NOx Combustion Technology)は既にW rtsil 社製のエンジンに標準仕様として採用されている。同社では、さらに優れた高効率な排出ガス削減技術の開発事業を積極的に展開している。とりわけ、エンジン内の燃焼空気に水蒸気を加えることによって燃焼中の窒素酸化物(NOx)の発生を抑える技術である加湿式エアモーター(Humid Air Motor:HAM)技術の開発に力を注いでいる。
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