概説
1)目的と調査事項
本調査は、近年の船舶解撤を取り巻く社会経済状況の急速な変化に鑑み、船舶解撤の現状と将来の動向を把握する目的で実施したものであり、具体的な調査事項は、以下を対象としている。
・2001年半ば以降の船舶解撤の再活発化に関する対象船種・船型および地理的配分の分析。
・この活発化に寄与した要因、特に運賃市場条件と解撤能力の変動の影響分析。
・タンカー、ドライバルクキャリア、コンテナ船、ガスキャリア等における解撤と新造船発注のパターンの対比分析。
・船舶解撤産業の将来見通し、特に世界の解撤能力と解撤方法に対する環境・労働安全問題への対処について。
2)参考文献
この報告書はSSY Consultancy & Research Ltd並びにLR-Fairplayの船腹データを利用して作成したものである。その他の主要参考情報源は以下の通りである。
Informa Ltd's monthly “Lloyd's Inactive Vessels”
ILO “Shipbreaking: a Background Paper,” 1999
ILO “Worker Safety in the Shipbreaking Industries”(February 2001)
IMO “Draft IMO Guidelines on Ship Recycling”(October 2002)
Lloyd's Register of Shipping “Maritime Guide”(2000-2001 edition)
Lloyd's Register of Shipping “World Casualty Statistics”(various issues)
Norwegian Ministry of Environment/
Norwegian Ship-owners' Association “Decommissioning of Ships”(October 1998)1
SSY Ship Sale & Purchase Dept's “Weekly Demolition Market Reports”
UNEP2 “Draft Technical Guidelines for the Environmentally Sound Management of the Full & Partial Dismantling of Ships” January 2002)
US Department of Transport “Report on the Programme for Scrapping Obsolete Ships”(March 2000)
3)用語解説
アフラマックス |
船型75,000−119,999dwtのタンカー |
バーゼル条約 |
有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約 |
BFI/BDI |
BFI(Baltic Freight Index)が99年11月にBDI(Baltic Dry Index)に変更された。 |
ケープサイズ |
船型80,000dwt以上の撒積船3 |
dwt |
載貨重量屯 |
FSO |
浮体式石油貯蔵積出設備 |
FSPO |
浮体式石油貯蔵生産積出設備 |
ハンディサイズ |
船型20,000−39,999dwtの撒積船、27,000−37,999dwtのタンカー |
ハンディマックス |
船型40,000−49,999dwtの撒積船、38,000−49,999dwtのタンカー |
IACS |
国際船級協会連合 |
ICS |
国際海運会議所 |
ILO |
国際労働機関 |
IMO |
国際海事機関 |
Informa Ltd |
前Lloyd's of London Press Ltd(LLP) |
INTERCARGO |
国際乾貨物船主協会 |
INTERTANKO |
国際独立タンカー船主協会 |
ITOPF |
国際タンカー船主汚染防止連盟 |
kWt |
キロワット |
LPG |
液化石油ガス |
LR |
ロイズ船級協会 |
lwt |
軽荷重量屯 |
MarAd |
米国運輸省海事局 |
MARPOL |
1973年IMO国際海洋汚染防止条約(1978年議定書を含む) |
MEG |
中東ガルフ |
MEPC |
IMO海洋環境保護委員会 |
MOU |
了解覚書 |
mdwt |
百万dwt |
Mt |
百万トン |
OPA |
1990年米国油濁防止法 |
パナマックス |
船型60,000−79,999dwtの撒積船、50,000−74,999dwtのタンカー |
PRC |
中華人民共和国 |
スエズマックス |
船型120,000−199,999dwtのタンカー |
VAT |
付加価値税 |
VLCC |
船型200,000−319,999dwtの大型原油タンカー |
VLGC |
積載量70,000m3以上のLPG船 |
VLOO |
船型200,000dwt以上の大型鉱石石油兼用船 |
ULCC |
船型320,000dwt以上の超大型原油タンカー |
UN |
国際連合 |
1q02 |
2002年第1四半期 |
2q02 |
2002年第2四半期 |
4)要旨
1. 船舶解撤量と現状
・商船の解撤量は2000年に大きく落ち込み、2001年も緩慢なスタートであったが、2001年第2四半期に始まった世界的な解撤量の急増は2002年末に於いても衰えず、2002年の年間通算解撤量は、近年のピークである1999年の31.2mdwtに達すると思われる。トン数ベースでは2001年第2四半期以降、タンカーが引き続き大宗を占め、総売船量の65%であった。一方バルクキャリアは、運賃市況悪化により2000年の1.5mdwtから2001年には5倍の7.2mdwtに急上昇したが、その後市況回復と共に沈静化した。バルカーの大半はハンディサイズとパナマックスである。その他、2002年にはLPG船、コンテナ船の解撤量が大幅に増加したが、解撤量の大宗はタンカー、バルカー、兼用船で、全体の80%を占める。
・スクラップ売船価格は引き続き不安定で、タンカーでは2001年央の$180/lwtから年末には$135/lwtに落ち込んだ。2002年のタンカーとバルクキャリアのスクラップ価格の平均値は2001年より約10−12%低い。
・解撤量の増加とスクラップ価格の下落が同時に生じたことは、船主にとって解撤を決意させる主要因はスクラップ価格ではなく運賃水準であることを物語っている。
・地理的には世界の解撤中心地は依然としてインド亜大陸と中国で、2001年実績では全体の98%前後を占める。
・環境保護派の反対をよそに、解撤作業は今なお海浜で行われることが多く、これはインド亜大陸では支配的な解撤手段である。これに対して中国では一般にドックや岸壁で行われているが、それでもなお、環境改善を訴えるグループの圧力は強い。
・2001年は、環境団体の「公認」ヤードへの売却が増えている徴候は見られず、むしろ公認されていないインド亜大陸の解撤業者への売却が、少なくともタンカーに関する限り、2001年のレベルを上回っている。
2. 船舶解撤再活発化の原因
・船舶解撤量の増減を決める要素は、主として、運賃市況、規制措置、用船者の選好、船型の陳腐化などである。2001年第2四半期以降の解撤量の増加は、タンカー運賃収入の低落、ドライバルク市況の軟化(低下)、コンテナ船とLPG船の市況不振と、これらいずれの部門でも新造発注量が非常に大きいことの反映でもある。
・別の解撤増加の要因として、シングルハル・タンカーを石油メジャーが用船しなくなったこと、古いバルクキャリアを用船者が避ける傾向が顕著になったこと、さらに寄港国検査(PSC)によってサブスタンダード船の排除が促進されていることが上げられる。
・2002年11月にスペイン沖で「プレスティージ」号が沈没したことで、シングルハル・タンカーのフェーズアウトを求める圧力が強まった。2003年にはこの種のタンカーの使用を抑制する新ルールがEU諸国で施行され、さらに解撤が促進されるものと思われる。
3. 船舶解撤と新造船発注
・船種別、船型別に解撤の進捗度に大きな差がある。タンカー、バルカーとも40,000dwt未満の船型では解撤が進んでいるが、ハンディマックスでは著しく停滞している。スエズマックスでは、2002年の解撤量は低水準にとどまり、このクラスは高齢船が少ないため、この傾向は続く見込み。
・また船種が同じでも新造発注量に大きな差がある。例えばハンディーマックスのバルクキャリアでは現有船腹の4.6%相当分しか新造発注はないが、大型ケープサイズではその比率は15.2%にも上る。
・一部の船種、船型では、解撤量、新規発注量に乖離が生じている。例えばULCCでは2002年に大量のスクラップ売船があったが、新造の発注は殆どない。同じような傾向はLNG船、さらにハンディサイズ・タンカーやバルカーにも見られる。
・海運市場では1990年代末期以来、船腹供給の著しい純増が生じている。まだ大量の新造船手持工事が残っているので、それが引き渡される段階で、船腹過剰を避けるためにはさらに高水準の解撤が必要となる。
4. 船舶解撤業界が直面する諸問題
・スクラップ価格の水準にもよるが、世界の現有の解撤能力は年間4,000万dwtといわれている。現行の解撤方法が今後も継続できるなら、2010年までに大量の船腹の解撤が可能であるが、もしできないということになれば、この能力にはかなりの目減りが生じる。
・バーゼル条約は、締約国から発展途上国への有毒物質の輸出を防止しようとする取決めである。しかしながらスクラップ船がこの条約の対象になるかどうかという点では解釈が様々で、特にEUは指令によってスクラップ船を条約対象から除外している。
・「認められた」解撤方法を採用しているヤードで老朽船を処分するよう船主に義務づける国際的合意は現在のところ存在しないが、IMOやILO、それに環境保護ロビーはこの状況を変えようと考えている。
・IMOでは積載された有毒物質を記載した「グリーン・パスポート」の備え付けを全船舶に義務づけ、内容に変更があれば更新し、各船舶の解撤に取り掛かる前にこれを解撤ヤードに提出するという方式が提唱されている。IMOはさらに、船級協会の検査や安全検査に不合格になり、解撤されることが決まった船舶について詳細を記載する「船舶リサイクル簿」を備えることも提唱している。
・大半の解撤事業者はそれぞれの解撤手法に変更を迫る要求に抵抗しているが、中国には一部「認められた」ヤードが存在し、また(インドにおける解撤工事や95%を監督している)グジャラト海事局は各種の改革実施に取り掛かっている。
・同様に多数の船主も、処分費用の増大が見込まれることから、現行より安全かつクリーンな解撤方法を採用しようとする動きには反対するものと思われる。規制が強化されなければ、これらの海運会社は「認められた」解撤施設に老朽船を売却させようとする努力はしないであろう。
・内々の「場外」取引および/または現金取引の仲介者を利用すれば、船主は非認可のヤードに売却しても環境保護団体の監視の目を逃れることが可能で、そうすればバーゼル条約の適用を免れることができる。
・安全かつクリーンな解撤には、各主要解撤国の政府がヤードの事業活動を一層効果的に規制する措置を講じることが必要である。しかしこれを実行すれば当該解撤事業者の費用を増大させて競争力を弱め、したがって輸入されたスクラップ船に係わる当該国政府の税収、関税収入を減少させる可能性がある。
5. 今後の船舶解撤の展望と新造船発注影響
・船舶解撤について改革努力が現在続けられているが、変革のペースを過大に予想してはならない。安全かつ無公害な解撤方法が標準になるまで、数年は優にかかると思われる。
・改革が現に実行され、海浜での解撤作業が減少すれば、それによる解撤能力の縮小を補う新たな能力が必要となる。理論的には、先進国の余剰な修繕ヤードや艦艇建造所で一部を補うことも可能である。しかしコスト面から見て、この能力は発展途上国に立地することが望ましく、その資金の少なくとも一部は、例えば先進工業国の資本が参加した合弁企業のような形態になる以外は調達できない。
・2010年までの解撤対象船腹はシングルハルタンカーが圧倒的なシェアを占め、その他、ハンディサイズ船も老齢船が多いことから一挙に解撤が進む公算が高い。
・船齢の高いバルクキャリアがまだ多数残存するため今後何年も解撤船腹の供給が着実に続くことになる。特に40,000dwt未満と古い世代のパナマックスが大宗を占める。一般貨物船、LPG船、小型コンテナ船も2010年より前に多くが解撤の対象となる。
・アフラマックス、スエズマックス両型のタンカー、それにハンディマックス・バルカーとLPG船が多数発注されていることからして、2000年代の半ばには新規受注が減少するものと思われるが、VLCC、スーパーハンディマックス、大型ケープサイズの各型、さらにLNG船と中型コンテナ船では今後の発注が期待される。
2 |
United Nations Environment Programme.(国連環境計画) |
3 |
小型ケープサイズは船型80−139,999dwt、大型ケープサイズは140,000dwt以上の船。 |
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