II−4 中小企業研究開発助成制度
米国は建国以来個人を土台として発展する精神基盤が旺盛であり、個人あるいは中小企業の活力を引き出す立法措置が重要視されてきた。 付録2に中小企業の研究開発を援助する公的及び私的機関を示すが、上下両院の中小企業委員会で常に中小企業の保護育成が討議されている。連邦政府の研究開発予算の一定パーセントは必ず少数民族の企業あるいは個人から購入しなければならないこと、米国の企業は特別の理由がない限り一定パーセントの少数民族を雇わなければならないこと等が法律化されている。1953年中小企業法が成立し、中小企業支援全般を担当する機関として商務省の下に中小企業庁(SBA:Small Business Administration)が発足した。1980年には中小企業開発センター法により中小企業の教育、カウンセリング、地域の活性化、連邦政策の啓蒙等のため全米に750ヵ所に及ぶ中小企業開発センター(SBDC:Small Business Development Center)が設置された。続いて1992年に中小企業技術開発振興法が公布され、中小企業研究助成プログラム(SBIR:Small Business Innovative Research)が発足した。SBAの技術開発局はSBIRプログラムを公募することが義務付けられている農務、商務、国防、教育、エネルギー、厚生、運輸、環境、NASA、米国科学財団、原子力規制委員会(NRC:Nuclear Regulatory Commission)にSBIRに関する基本方針を示し、これに基づいて上記省庁から出されるSBIRの情報を常時中小企業に流している。さらに中小企業庁技術開発局は上記省庁のSBIRスケジュール及び内容の調整、四半期毎のSBIR公募情報誌の発行、SBIR基金の運用状況の年一回の議会への報告等の義務を負っている。SBIR基金には以下4つの目的がある。
・中小企業の技術開発の拡大と改善
・連邦政府研究機関の開発した技術の中小企業での商業化
・連邦政府研究開発への中小企業の参加促進
・社会的・経済的にハンディキャップを負った中小企業(女性、少数民族、肢体不自由者等)の研究開発参加促進
SBIRのテーマは中小企業庁の調整の下に毎年変えられている。エネルギー省(DOE)SBIRでは燃料電池材料、新型タービン部材、燃料電池の開発、米国科学財団(NSF)SBIRでは燃料電池、インテリジェント・コントロール、触媒の開発、商務省(DOC)SBIRではNISTから材料と製造の分野で多くのSBIRプロジェクトが公募されている。SBIRプロジェクトは48CFR連邦契約法に基づき談合による契約、助成金あるいは共同開発契約という形で交付される。SBIRの成果として得られた特許の出願権は中小企業側が持っている。政府は国家目的にその特許技術を使用する場合に限って使用料無しで使用することができる。また、特許権を得た中小企業が製品を製造する場合は、米国内で製造することが義務づけられている。SBIRを与えた省庁も特別の場合を除いては4年間内容を公表しないことになっている。
中小企業の定義は13 CFR Part 121「中小企業規模規則」に詳しく定められているが、業種及び受けるサービスの種類により若干定義が異なっている。SBIR基金の受給資格のある中小企業は従業員が500人以下の営利企業で米国内で操業し、米国籍の企業オーナーが株の過半数を所有している会社に限ると定義されている。造船及び船舶修理業に関係するSBIRは海軍から毎年多くのプロジェクトが出されているが、受給対象会社は研究開発会社、コンサルタント、ソフトウエア開発会社等である。製造業の場合従業員500人と言うのは多くはないが、研究開発会社であればかなりの研究が実施出来る人数である。交付額は1件当たり毎年数10万ドルから数百万ドルに達するものもある。SBIRは民間の隠れた技術を拾い上げるには良い方法であり、海軍では場合によっては同じテーマで2〜3社に研究させ、より優れた技術の発掘に努めている。
SBIRプロジェクトは3段階から成り立っている。第1段階は可能性研究、いわゆる「フィージビリティ・スタディ」である。第1段階は全てSBIRからの出資で、3万〜10万ドルの範囲である。期間は6ヶ月でコンセプトレベルのプロトタイプの実証が要求される。第1段階が成功と判定され予算に余裕がある場合、重要度の高いものから第2段階に進む。第2段階は25万〜75万ドルの範囲でオペレーション・レベルのプロトタイプを実証することが要求される。第2段階も全てSBIRからの出資である。第3段階はSBIRではなく第2段階での成功の結果、その技術の商業化に興味を持つ企業の出資となる。SBIRプロジェクトでは最初の時点から商業化に興味を持っ企業とパートナーを組むよう指導している。この場合のパートナーは大企業でもよく、また日本の企業でも構わない。
連邦政府にはSBIR以外にも中小企業の技術開発を促進する基金制度が多く存在する。造船業と関連して海軍が盛んに出している基金に中小企業技術移転基金(STTR:Small Business Technology Transfer)プログラムがある。このプログラムはSBIRをモデルとして作られたもので、営利企業である中小企業と非営利機関の大学、政府機関研究所が積極的にパートナーを組むことを求めた点のみがSBIRと異なっている。STTR基金の40%以上が中小企業内で使われ、30%以上が上記パートナーの非営利機関内で使われるべきことが定められている。STTRの目的としては下記3つをあげることが出来る。
・政府研究機関の開発した技術の商業化の促進
・中小企業の技術開発力の向上
・税金によって賄われている研究開発基金の投資の回収促進
STTRはSBIRが出されている省庁から出されている。STTRの契約額は第1段階で大略10万ドル程度で、結果が良好と判断され、さらに第2段階に進む場合は50万ドル程度の基金が与えられる。特許に関する権利の取得についても基本的にはSBIRと同じであるが、異なる点はSTTRは中小企業が非営利の研究機関と組むことを必須条件としているので、研究開発完成後の権利の取得についてSTTRに応募する前に関係者間で話し合って文書ではっきりさせておくことが求められている。
エネルギー関連発明基金(ERIP:Energy Related Inventions Program)もSBIR、STTRと同じく中小企業に対するものであるが、個人発明家、個人企業家も受給対象に含まれる点が異っている。ERIPはエネルギー省と商務省の共同運営でエネルギー関連分野の技術開発に交付金の形で与えられる。ERIP基金を受けた結果の発明はそれを完成した米国籍の個人、あるいは法人に帰属する。政府側はSBIR、STTRと同じく米国の国益のためにのみその結果を利用出来る権利を持つことになる。
前述のTRPLやATPも中小企業からの応募は可能である。この他にも中小企業研究開発制度が用意されている。造船業では余り利用されていないが、共同研究開発契約(CRADA:Cooperative Research and Development Agreement)は民間企業と政府が50/50の費用分担で、相互に利益となるテーマの開発により政府の研究機関に参加するメカニズムとして制度化されたものでである。1980年のSterenson−Wydler技術開発法で認められたメカニズムで民間企業と政府研究機関が連邦契約法に縛られずに知的財産所有権を定めることが可能になった。
最後に州の中小企業育成について概観する。各州にSBAの出先機関やSBDCのネットワークが張り巡らされていることは前述の通りであるが、これとは別に州政府主導の中小企業育成組織がさらにきめの細かいメッシュで張り巡らされている。これらの組織は例えば各州開発機関連盟のような上部機関により情報の交換が行われている。州政府の組織の役割は技術開発について言えば技術そのものの開発よりは、地域の発展に好ましいハイテク技術を持つ中小企業を見つけ出し、会社が発展するようあらゆる援助を行ったり、連邦政府のSBAや、SBDCが目の届かないような個人発明家、企業家の発掘、地域技術教育充実等米国製造業の底辺を支える活動を実施している。各州はハイテク会社を設立、育成する州政府レベルのプログラムを告示している。
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