(2)シンガポールの海運
【1】シンガポール港の貨物取扱量
経済危機以降低迷を続けたシンガポールの貿易は、99年4月ターニングポイントを迎えた。この月、8ヶ月ぶりに輸出が、14ヶ月ぶりに輸入がそれぞれプラスの伸びに転じた。その後も貿易は順調に推移し、2000年の輸出は前年比22.3%増の2,395億1,200万Sドル、輸入は同24.3%増の2,198億5,900万Sドルで196億5,300万Sドルの黒字となった。
順調な貿易の推移を受け、シンガポールにおける海上貨物取扱量は、前年比同の326億MFT(Million Freight Tones)、コンテナ貨物取扱量は前年比7.2%増の1,709万TEUとなっている。一方、航空貨物取扱量が対前年比11.9%増の169万トンであった。シンガポールにおける国際貿易は、その殆どが海上貨物の輸送により行われており、海上貨物やコンテナの取扱量の成長が穏やかであったことがわかる。
これらの貨物は、国内外約320の船社により世界約740港との間で輸送されている。
【2】シンガポールの商船隊
2000年末現在、3,335隻、2,304万GTの船舶がシンガポール籍船として登録されている。これは前年末と比べ、それぞれ25隻減(0.8%減)、71万GT減(3.0%減)となっている。
シンガポール籍船は、92年に1,000万GTを超えて以来、毎年100万GT台のペースで増加を続けてきたが、96年に入って増加のピッチを急速に早め、一挙に1,600万GT、1,700万GT、1,800万GTを超え、さらに97年8月に1,900万GT、そして、シンガポールの海事港湾庁(MPA;Maritime and Port Authority)の“2,000年までに2,000万GTを超える”という当初の目標を遥かに早回り、97年10月には2,000万GTの大台に達した。さらに、98年は2,200万GT、99年には2,300万GTを超えたが、2000年は隻数及び総トン数とも横ばいとなった。
シンガポール籍船の推移
(単位;隻、万GT)
|
1990 |
1991 |
1992 |
1993 |
1994 |
1995 |
1996 |
1997 |
1998 |
1999 |
2000 |
隻数 |
1,565 |
1,823 |
2,087 |
2,394 |
2,647 |
2,910 |
3,157 |
3,380 |
3,412 |
3,360 |
3,335 |
総トン数 |
887 |
956 |
1,074 |
1,216 |
1,320 |
1,496 |
1,824 |
2,077 |
2,203 |
2,375 |
2,304 |
|
2000年のデータでシンガポール籍船(3,335隻、2,304万GT)を船種別にみると、隻数では非自航船の1,411隻が最も多く、次いでタグ・ボート725隻、オイル・タンカー425隻・コンテナ船183隻、バルク・キャリア114隻、一般貨物船114隻の順となっている。前年(99年)と比較して、オフショア・サプライ船の15隻増が目立っている。
また、総トン数では、オイル・タンカーが965万GTで全体の41.9%を占め、次いでバルク・キャリア394万GT(同17.1%)、コンテナ船336万GT(同14.6%)の順となっている。前年と比較すると、オイル・タンカーが70万GT減となった他は、ほぼ横ばいとなっている。
シンガポール籍船の船種別隻数及び総トン数
(単位;隻、万GT)
船種 |
1999年末 |
2000年末 |
隻数(%) |
総トン数(%) |
隻数(%) |
総トン数(%) |
タンカー |
オイル・タンカー |
427(12.7) |
1,035(43.5) |
425(12.7) |
965(41.9) |
ケミカル・タンカー |
40(12) |
20(0.9) |
38(1.1) |
17(0.7) |
液化ガス・キャリア |
26(0.8) |
33(1.4) |
28(0.8) |
38(1.6) |
兼用船 |
7(0.2) |
51(2.1) |
12(0.4) |
66(2.9) |
貨物船 |
バルク・キャリア |
127(3.8) |
418(17.6) |
114(3.4) |
394(17.1) |
自動車運搬船 |
50(1.5) |
150(6.3) |
47(1.4) |
149(6.5) |
コンテナ船 |
185(5.5) |
330(13.9) |
183(5.5) |
336(14.6) |
一般貨物船 |
119(3.5) |
122(5.1) |
114(3.4) |
118(5.1) |
その他 |
8(0.2) |
3(0.1) |
8(0.2) |
3(0.1) |
その他 |
旅客船・フェリー |
95(2.8) |
3(0.1) |
86(2.6) |
3(0.1) |
タグ・ボート |
723(21.5) |
16(0.7) |
725(21.7) |
17(0.7) |
オフショア・サプライ船 |
51(1.5) |
3(0.1) |
66(2.0) |
4(0.2) |
非自航船・バージ |
1,435(42.7) |
179(7.5) |
1,411(42.3) |
186(8.1) |
その他 |
67(2.0) |
14(0.6) |
78(2.3) |
9(0.4) |
合計 |
3,360(100) |
2,375(100) |
3,335(100) |
2,304(100) |
|
一方、ロイド統計によると、2000年末現在シンガポールは世界第7位の商船隊(船籍)を保有する海運国となっている。
商船隊(船籍)の世界ランキング(2000年)
(単位;万GT)
1.
パナマ |
2.
リベリア |
3.
バハマ |
4.
マルタ |
5.
ギリシャ |
6.
キプロス |
7.
シンガポール |
8.
ノルウェー |
9.
中国 |
10.
日本 |
11,438 |
5,145 |
3,145 |
2,817 |
2,640 |
2,321 |
2,149 |
1,869 |
1,650 |
1,526 |
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出典: |
“World Fleet Statistics 2000”(Lloyd's Register)。 |
注) |
ロイド統計では、非自航船及び100GT未満の船舶を除いているため、前述のシンガポール籍船の統計数値(2,203万GT)と異なる。 |
ロイド統計を用いてASEAN 10カ国の商船隊を総トン数ベースで比較すると、2000年末現在ASEAN 10カ国で世界の総船腹量(54,068万GT)の7.8%に相当する4,239万GTを保有しているが、このうちシンガポールが50.7%の船隊規模を誇っており、次いでフィリピン16.5%、マレーシア12.6%、インドネシア8.0%、タイ4.6%の順となっている。
ASEAN 10カ国の商船隊(2000年)
(単位;万GT)
シンガポール |
フィリピン |
マレーシア |
インドネシア |
タイ |
ヴェトナム |
カンボジア |
ミャンマー |
ブルネイ |
ラオス |
ASEAN計 |
2,149 |
700 |
533 |
338 |
194 |
100 |
45 |
144 |
36 |
0.2 |
4,239 |
|
ASEAN上位5カ国の1993年末以降の推移をみると、7年前に比べて保有船腹量の増加量ではシンガポールが全増加量の約75%と大半を占めているが、増加率ではマレーシアの2.5倍、シンガポールの1.9倍、タイの1.7倍の順となっている。
マレーシア、タイ等では、増加する自国の輸出入貨物の輸送を自国の商船隊で行おうという動きが強まっており、このための海運育成策にも力を入れるなど、ASEAN 域内諸国におけるシンガポール商船隊の優位を脅かす動きも出てきている。
ASEAN 主要海運国の商船隊の推移
(単位;万GT)
このようなシンガポール籍船の急激な増加の要因としては、以下のようなものが考えられる。
(1)AIS(Approved International Shipping Enterprise)スキームの導入
1991年に導入されたAISスキームの下で承認された企業は、海運業による所得に対する課税の免除を受けられる。シンガポール籍船を10%以上保有していれば同国籍船以外の船舶による収入に対する課税の免除も受けられる。
<AIS企業としての承認の要件>
a) |
世界的なネットワークを持つ国際航海船舶を所有又は運航する企業 |
b) |
シンガポール籍船を10%以上保有する企業 |
c) |
シンガポールで年間400万Sドル以上(人件費・修繕費・施設費等)を支出する企業 |
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(2)リージョナル・ハブとしての役割の増加
東南アジア諸国エリア内の海上物流の増加に伴い、多くの海運企業が地域統括本部等地域全体を管轄する事務所・機能を当地に移すなどリージョナル・ハブとしてのシンガポールの重要性が増している。
(3)その他のメリット
「魅力的な登録料金体系」、「安全性の高さ(国際基準への適合性)」、「船員の雇用が容易(船員の国籍を問われない・外国の船員資格証明を認める等)」などシンガポール籍を取ることによるメリットが多い。
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