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平成14年度ホスピスドクター養成研究事業助成報告書
 
社会福祉法人聖ヨハネ会
聖ヨハネホスピスケア研究所
I 事業の目的・方法
 近年、我が国のホスピス・緩和ケア病棟の急増にはめざましいものがある。ホスピスケアを待ち望んでいた患者・家族には朗報であると思われる。しかしながら、ホスピス医として働こうとする医師の数はいまだ少なく、また経験も少ない。そこで少しでも多くのホスピス医の育成を計ろうとすることが当事業の目的である。方法は笹川医学医療財団からの助成金を受けながら、先進的にホスピスケアに取り組んでいるホスピス・緩和ケア病棟で一年間ホスピス医としての様々な研修を受けることである。聖ヨハネホスピスケア研究所は聖ヨハネ会桜町病院ホスピスと連携し、研修医師に臨床研修を提供している。
 
II 内容・実施経過
〔1〕4月はホスピスチームを形成している各職種がどのような役割をはたしているかについて、知ってもらうための時期と位置づけている。
1)ホスピスボランティア研修(1週間)
2)看護助手研修(1週間)
3)看護師研修(2週間)
 
〔2〕5月以降は医師としての研修に入る。
1)5月から12月 ホスピス病棟で指導医と共に病棟回診を行う。全国ホスピス・緩和ケア病棟連絡協議会の分科会である教育研修委員会が作成したホスピス医の研修プログラムに準じ、癌性疼痛をはじめとした様々苦痛症状に対する症状コントロールを実践的に学び、また患者・家族とのコミュニケーションの取り方、病状説明の進め方、病状悪化時の対応などホスピス医に欠かすことの出来ない知識、スキルを学ぶ。またケースカンファレンス、退院者カンファレンスなどチームケアの要となる各種カンファレンスに日常的に参加し、他職種と問題を共有し、共に考えていくことを学ぶ。
 
2)翌1月から3月 ホスピス外来の一部を担当する。ホスピス外来を訪れる患者・家族の複雑な思いを受け止め、彼らがホスピスヘ期待すること、ホスピスが提供出来ることなどをじっくりと話し合い、外来通院継続、在宅ケアの開始、ホスピス入院予約など、その状況に応じて対応していくことを学ぶ。
 
III 成果
1)症状コントロールについて
 癌患者の多くが経験する疼痛に対して、WHO方式に準じながら適切に対処出来るようになる。モルヒネの作用・副作用を熟知し、使いこなすことが出来る。またモルヒネ以外の鎮痛剤を使いこなし、モルヒネの効きにくい神経因性疼痛の存在とその標準的な対応が出来るようになる。さらにはどうしても取りきることが出来ない苦痛症状に対しての鎮静療法(セデーション)の適応、薬剤の選択が出来るようになる。結果として患者の様々な身体的苦痛症状に対し現時点での標準的緩和治療が出来るようになる。
 
2)コミュニケーションについて
 患者が身体的苦痛以外に精神・心理的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルペイン等を持っていることは良く知られている。しかしながら、それら苦痛に対応していくためには患者の側に腰を下ろし患者の様々な思いにじっくりと耳を傾け、共感し、受容していくことが大切である。多忙な一般医療現場ではほとんど困難な対応であるが、研修者は一年をかけて、それらホスピスにおける基本的なコミュニケーション法を学び実践出来るようになる。これはまた家族の苦悩にも対応していくために大切なことである。
 
3)チームケアについて
 桜町病院ホスピスでは回診、病状説明、外来などほとんどの場面で看護師が同席し、患者・家族への対応が医師のみ、看護師のみのような個別対応にならないように配慮している。また各種カンファレンスには医師、看護スタッフ、コーディネーター、ボランティアコーディネーター、チャプレンなどが参加し、問題の共有を計り共に解決を考えている。そのような場面へ日常的に参加することによってホスピスが様々な職種によってチームを形成し、患者・家族を支援していること学び、自ら実践出来るようになる。また研修の初期4週間の間にボランティア、看護助手、看護師の体験研修を行っているため、それぞれの職種の重要性を認識出来、チームで取り組むことの大切さを更に実感出来ていると思われる。
 
4)グリーフワーク(悲嘆のケア)について
 患者の家族は、患者存命中から予期される喪失の悲嘆の中にいる。また遺族となってからは更に、現実的な喪失の悲嘆の中で過ごすことになる。ホスピスではそのような家族・遺族に対してもケアを提供しているが研修者はその実際に触れることが出来る。また自らその実践者としてケアに参加することになる。これもまた一般病院では殆ど経験出来ないことである。
 
 以上のように研修者は一年の間に患者・家族の様々なニーズを知り、それらに専門家としても、また一人の人間としても誠実に対応していく術を学べることになる。また一般病棟では困難であったチームケアとしての取り組み方も、実践的に学べることになる。よってこのホスピスドクター養成研究は我が国のホスピスに大きな貢献をしている。研修を終了した医師たちが各地のホスピスで活躍することを期待するものである。
 
平成14年度ホスピスドクター養成研究事業助成報告書
 
財団法人ライフプランニングセンター
ピースハウス病院
I 事業の目的・方法
 ホスピス緩和ケアに従事することを志望している医師が、先任者の指導を受けながら実務を経験することにより研修目的を達成できるようなホスピス緩和ケアのプログラムおよび実践の場を提供することにある。
 添付の教育プログラムに示した4つの項目、すなわち、病態生理学/症状マネジメント、患者と家族に対するケア、対人コミュニケーション、およびホスピス緩和ケアについて段階的に習得することを期待している。なお、このプログラムは全国ホスピス・緩和ケア病棟連絡協議会の示したホスピス・緩和ケア教育カリキュラム(医師用)と項目立てが異なるが、内容は相通ずる点が多い。
 養成すべき医師は、直接・間接の申し込みに基づいて採否を決定する。同時期に受け入れ可能なのは原則として一名である。
II 内容・実施経過
 研修者はまず着任時オリエンテーションを受ける。これは多職種共通のプログラムで、施設や地域の概要を知るとともに、自らの職種の業務のみならず他職種の業務やボランティア活動も体験的に知ってもらうためのものである。通常1〜2週間かけて行う。
 上記オリエンテーションの期間を含めた当初の3ヶ月間には研修者は常勤医師の指導監督の下で医療実務に従事する。当直業務も分担する。この期間には教育プログラムのレベルIは達成し、レベルIIの大半を達成することを目標にする。
 残りの9ケ月間は患者を直接受け持ちながら教育プログラムのレベルIIを完全達成し、レベルIIIの課題について知識・技術を獲得してゆくとともに、思索を深める努力をする。なお、レベルIIIについては研修期間中に完全に達成できるとは考えていない。
 当院では長期の研修者は職員の一員とみなしている。病院の行事や集会、委員会活動のみならず、財団法人ライフプランニングセンターの行事にも積極的な参加を要請している。また他の緩和ケア病棟や地域の医療機関等との連携に積極的に関与することを望んでいる。
III 成果
 今回の研修者は、外科領域で経験は3年間であったが、緩和ケアに関する関心は高かった。
 この1年間のピースハウス病院における研修は教育ブログラムの達成度という観点からは満足できるものである。ピースハウス病院および神奈川県県西部地域の特性にも通ずることができた。
 教育プログラムのレベルIIIは自己教育の色彩が強いが、継続してもらいたい。また、課題として残されている緩和ケアに関する研究にも積極的に関与してもらいたいと考えている。
 
−以上−
 
平成14年度ホスピスドクター養成研究事業助成報告書
 
医療保護施設
総合病院 聖隷三方原病院
 
I 事業の目的・方法
1. 目的
 高齢化の進行とともに、末期がんやその他の重篤疾病による死亡者が年々増加する中で、ホスピス・緩和ケア病棟に従事する熟練ドクターが不足している。このような現状をふまえ、わが国のホスピス・緩和ケアの向上のため、将来ホスピス・緩和ケア病棟においてリーダーとなる十分な識見と経験のある専門ドクターを育成することを目的とする。
2. 方法
 平成14年4月1日から平成15年3月31日まで、ホスピス入院患者および在宅ホスピス患者を指導医の指導の下、主治医として受け持ち、ホスピス・緩和ケアの知識を身につける。
 
II 内容・実施経過
 研修期間中(平成14年4月1日から平成15年3月10日現在)にホスピス入院患者61名および在宅ホスピス患者5名を受け持ち、ホスピス・緩和ケアを実践した。
 緩和医療学会、在宅ホスピスケア研究会に参加した。また、症例検討会にて発表した。
 定期的に行っている抄読会で最新の文献を読み、発表した。
 
III 成果
1. 疼痛マネジメント、症状マネジメントにおける態度、技術、知識を身につけた。
2. 心理社会的側面においては、心理反応を理解し、コミュニケーション技術を習得、また、社会的経済的問題の理解と援助についても習得した。
3. 家族、家庭的問題にも対応することができ、死別による悲嘆反応についても理解し、その対処方法を習得した。
4. 自分自身およびスタッフの心理的ストレスを認識し、ケアすることができた。
5. 患者のスピリチュアルペインを理解し、適切な援助について習得した。
6. チーム医療の重要性と難しさを理解し、互いに尊重しあい、チームの一員として働くことができた。
7. 在宅ホスピスケアについても理解し、適切に対応することができた。







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