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2.2 プロペラの構造
 プロペラの構造は数枚の羽根とこれらの羽根を保持すると共にプロペラをプロペラ軸に固定する役目をするボス(CPP又はFPPで羽根をボルトで取付るものはハブ)とから成っている。この羽根とボスとが一体に鋳造されているのを一体形プロペラといい、羽根とボスが個別に鋳造されて、羽根の根元部において、ボスにボルトで締付け固着したものを組立形プロペラというが、現在では特殊な場合以外は殆んど使用されていない。通常のプロペラは一体形のプロペラであり、殆んどは固定ピッチプロペラである。固定ピッチプロペラは初めに設計し、製作したピッチをプロペラ使用中に変更することができない。プロペラボスはプロペラ軸に押込まれ、ボス船首側はプロペラ軸スリーブの船尾端とプロペラボスの間に海水が浸入しないように、3・16図および3・17図に示すようなパッキンゴム(Oリング)を装備する構造としている。通常は3・17図に示すようなパッキン押え方式が用いられる。プロペラはプロペラ軸に所要の押込量で押込まれた後プロペラナットで締付け、固定される。プロペラナットは保護のためボンネットで覆い、ボンネットの内部には海水浸入などによる腐食防止のためグリースなどを充填する。またプロペラボスの空所にもグリースなどを充填する。
 
1)キー付きプロペラ
 キー付きプロペラとはプロペラボスとプロペラ軸とのはめあい部にキーを用いて取付ける構造のプロペラである。
 プロペラボスコーンパート部の1個所にキーみぞを設け、またプロペラ軸テーパ部に設けたキーみぞにキーを植込んだ状態でプロペラ軸のコーンパート部にプロペラを押込む。この時プロペラボスのキーみぞとプロペラキーが嵌合するとともに、プロペラボスコーンパート部の面とプロペラ軸コーンパート部の面との間に摩擦力が発生する。この摩擦力とキーの作用によって主機関のトルクをプロペラに伝える。
 
2)キーレスプロペラ
 キーレスプロペラとはプロペラボスとプロペラ軸とのはめあい部にキーを使わずにプロペラを押し込みコーンパート部に発生する摩擦力によって固定する構造のプロペラである。キー付きプロペラの場合、主機関の高出力や1回転中のトルク変動が大きい船舶ではプロペラキー溝部分の応力集中による大きな応力が作用し、プロペラ軸の船首側のキーみぞなどにクラックが発生することがある。これらの損傷に対する防止策とともに、プロペラの取付けおよび取外しの容易な構造のプロペラキーなし(キーレス)によるプロペラのプロペラ軸への装着が考えられたのが、キーレスプロペラである。
 
2.3 ハイスキュープロペラ
 ハイスキュープロペラは3・37図に示すようにスキュー角が大きいプロペラを言う。ハイスキュープロペラの形状にはバランススキュー型とバックワードスキュー型がある。
 船の主機関の高出力化に伴って、船尾振動が増大し居住性の改善の対策の一環として、日本では昭和55年頃からハイスキュープロペラが採用された。ハイスキュープロペラは船尾振動の原因となるプロペラ起振力を軽減するのが主目的である。ハイスキュープロペラは船尾の不均一な流れに対して、プロペラの感度を弱め、プロペラ自身で、その発生する変動力を減少させようとするものである。ハイスキュープロペラは相当大きなスキューバックをもつ特異な形状をしたプロペラである。
 プロペラの起振力は、船体に伝達される道順により二つの成分に分けることができる。一つは直接的にプロペラ軸を介して船尾管軸受から船体に伝わるベアリングフォースと呼ばれるもので、もう一つは間接的にプロペラの作動によって水圧変動の形で船体および舵の表面を通じて船体に伝わるサーフィスフォースと呼ばれる成分である。
 ハイスキュープロペラの特長として、サーフェイスフォースやベアリングフォースが軽減できる。また通常型プロペラに比較して推進性能は前進時において、スキュー角にはほとんど影響されないし、プロペラのキャビテーション性能にも優れているので、高速船の
プロペラとしても向いている。
 
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3・37図 スキュー型プロペラと普通プロペラ
 
1)ハイスキュープロペラの羽根強度
 ハイスキュープロペラの場合、羽根形状が通常型プロペラと大幅に異なるためプロペラ羽根には曲げによる力およびねじりによる力が複雑に作用する応力分布を呈する。通常型プロペラは、羽根根元部に最大応力が発生するが、ハイスキュープロペラの場合、最大応力の発生個所は、羽根根元だけではなく、羽根先端に近い後縁部にも発生する。3・38図に通常型プロペラの場合の応力分布を示す。また3・39図に可変ピッチプロペラのスキュー角度40度の場合の応力分布および3・40図に固定ピッチプロペラのスキュー角度40度の場合の応力分布の計算結果の一例を示す。
 
2)ハイスキュープロペラの特長
(1)普通翼プロペラと比較して、推進性能、操船性能を損なうことなく、船体振動を大幅に低減できる。
(2)ベアリングフォースやサーフェイスフォースが低減できる。それほど極端なスキューをつけなくとも、ベアリングフォースで、15〜20%、サーフェイスフォースで、30〜40%の減少効果が得られる。
(3)キャビテーション性能が優れている。
(4)プロペラから生ずるノイズが減少する。
(5)低回転・大直径プロペラの採用
 船体振動軽減効果により、在来船での船体振動が許容できるならば、振動レベルが同じになるまで、プロペラチップクリアランスを小さくして、より低回転、大直径プロペラの採用が可能となり、プロペラ効率を上げることができる。
 
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3・38図 通常型プロペラの引張最大応力分布図
 
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3・39図 可変ピッチプロペラの応力分布
 
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3・40図 固定ピッチプロペラスキュー角度40度引張最大応力分布図
 
 
2.4 プロペラ材料
 プロペラに用いられる材料には高力黄銅鋳物、アルミニウム青銅鋳物、ステンレス鋳鋼などがある。一般に高力黄銅鋳物とアルミニウム青銅鋳物が使用される。
 高力黄銅鋳物(JIS記号CAC301、旧記号HBsCl)の化学成分は銅(Cu)が55〜60%と亜鉛(Zn)が33〜42%を主体としてそれにマンガン(Mn)、鉄(Fe)、錫(Sn)、アルミニウム(Al)などの多くの元素を加えた合金である。機械的性質は船舶機関規則などにより、引張強さ430N/mm2(44kg/mm2)以上、伸び20%以上と定められている。材料の比重は約8.3である。
 アルミニウム青銅鋳物(JIS記号CAC703、旧記号AlBC3)の化学成分は銅が78〜85%とアルミニウムが8.5〜10.5%を主体にしてそれにマンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni))などを添加した銅合金である。機械的性質は引張強さ590N/mm2(60kg/mm2)以上、伸び15%以上である。材料の比重は約7.6である。
 船の航路、船種などにより高力黄銅鋳物が使用されることがあるが、最近ではほとんどのプロペラにアルミニウム青銅鋳物が使用されている。







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