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1.4 プロペラ軸
 プロペラ軸とはプロペラを装着する軸を言う。プロペラ軸は一般に鍛鋼製で、前端は船内で中間軸と一体に鍛造された継手フランジまたは組立型継手フランジとカップリングボルトで結合される。
 3・2図に示すような一体型継手フランジの構造の場合は、プロペラ軸は船内に引抜く、また3・3図3・6図に示すような組立型継手フランジの場合で、可変ピッチプロペラのようにプロペラ軸の後端が一体型継手フランジの場合は、船外に引抜くことになる。なお、組立型継手フランジの場合でも船内に引抜く構造のものもある。
 プロペラ軸の後端の形状は、通常、固定ピッチプロペラの場合は、コーンパートであり、また可変ピッチプロペラの場合は、多くは一体型継手フランジで、プロペラを取り付ける。可変ピッチプロペラの場合でも小型のものはコーンパートでプロペラを取り付けるものもある。コーンパートのテーパは一般にキー付プロペラの場合1/10、1/12が多く採用され、最近では採用がすくないが、1/12.5もある。キーレスプロペラの場合は1/20である。コーンパートの長さはキー付プロペラの場合プロペラのキー強度およびプロペラ羽根とボスとの相対寸法などから決定される。キーレスプロペラの場合は、主機関のトルク、プロペラ推力、ねじり振動付加応力などに対して、プロペラがスリップしない条件、ボスの材料の強度およびプロペラ羽根とボスとの相対寸法から決定される。
 プロペラ軸は船尾管軸受潤滑方式により、海水潤滑方式と油潤滑方式に大別され、プロペラ軸の構造が異なる。
 
1)海水潤滑方式
 3・11図に示すような海水潤滑船尾管軸受の鍛鋼製プロペラ軸の場合は、軸身が海水腐食に対して確実に保護されなければならない。プロペラ軸の保護方法により、第1種プロペラ軸と第2種プロペラ軸に大別され、プロペラ軸の抜き出し検査の期間が異なる。プロペラ軸の抜き出し検査期間は、船尾管軸受の潤滑方式および構造、プロペラの取付構造などにより決まる。原則として第1種プロペラ軸の場合は、5年毎に抜出す。また、第2種プロペラ軸の場合は、3年毎に抜出す。(詳細については、第5章船舶安全法参照
 
3・11図 海水潤滑方式
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 鍛鋼製プロペラ軸の場合、軸身が海水腐食に対して確実に保護されてないと、プロペラ軸の折損事故につながる。プロペラ軸の保護方法として、主としてつぎのものが採用されている。
(1)第1種プロペラ軸
(1)全通青銅スリーブ(一体型スリーブ)を装備したプロペラ軸
(2)分装青銅スリーブ(軸受部)で、その間をゴム巻きで保護したプロペラ軸(3・12図
(3)分装青銅スリーブ(軸受部)でその間をFRPで保護したプロペラ軸(3・13図
 ただしJG認定品のみ第1種プロペラ軸と認められるが、その他のものは、第2種プロペラ軸となる。
(4)船舶機関規則の承認した耐食性材料で製造されたプロペラ軸(ステンレス鋼鍛鋼品)
(2)第2種プロペラ軸
(1)第1種プロペラ軸以外のプロペラ軸、例えば、分装青銅スリーブでその間を黄銅板などで保護したプロペラ軸
 上記は船尾管内にある船尾管軸にも適用される。
 なお、青銅スリーブは、所要の焼ばめしろをもって、プロペラ軸に焼ばめされる。一般に青銅スリーブの内径を公差内に仕上げた後、プロペラ軸外径につぎの値を目標として焼ばめしろをつける。
△=(0.0006〜0.0008)D1
△=焼ばめしろ(直径にて)(mm)
D1=プロペラ軸径(mm)
 青銅スリーブの材質としては、船尾管のリグナムバイタ軸受材などとの適合性がよく、安定した摩耗傾向が見られるCAC402(Bc2)+0.5%Ni材が用いられる。
(3)10年プロペラ軸
 プロペラ軸の抜き出し検査間隔を10年としうる設計の軸系構造をいうもので、日本海事協会などでは、設計規定が定められており、すでに実績もある。
(4)プロペラ軸のゴム巻き
プロペラ軸のゴム巻きは、プロペラ軸の船尾管軸受に相当する個所は分装青銅スリーブで焼嵌めし、その分装青銅スリーブの間をゴム巻きして、海水からプロペラ軸の軸身部を保護するものである。3・12図に分装青銅スリーブの端部とゴム巻きの構造を示す。スリーブ端部にはアリ溝を設け、ハンダメッキを施した上にエボナイト層およびゴム層をコーティングし、プロペラ軸の耐海水防食被覆を行うものである。
(5)プロペラ軸のFRP巻き。
 プロペラ軸のゴム巻きに代る防食法で樹脂(FRP)を積層しながらコーティング(SKSバインディングと呼ばれる)するもので、プロペラ軸スリーブ端部とFRP接合部は3・13図に示すような形状とし、スリーブ端部と軸との間に特殊パッキンを設けることにより、万一FRPの端部から海水が浸入してもスリーブの端部で防止できる。樹脂材料はスリーブおよび軸に対して極めて接着力の強いものを使用し、プロペラ軸の捩り応力に対しても接着はがれのないもので、ガラス繊維で補強されている。
 
3・12図 ゴム巻保護
 
 
3・13図 FRP保護
 
(6)プロペラ軸の船首側組立型軸継手構造
 艤装上、プロペラ軸を船尾側から船尾管に挿入する場合、プロペラ軸の船首側の継手は組立型継手構造を採用する。3・14図に示すような構造では、船尾管船首側封水装置からの漏水によりプロペラ軸の軸身に海水がかかり、プロペラ軸表面にクロスマークが円周上に発生し、軸が折損することがある。この対策として、3・15図に示すようにプロペラ軸スリーブを組立型軸継手まで延長し、軸身を腐食から完全に保護する。更にスリーブ端部と組立型軸継手との間にゴムパッキン(Oリング)を装着し、組立型軸継手のテーパ部およびスリーブ内側への海水の浸入を防止する構造とする。
3・14図
 
 
3・15図
 
(7)プロペラ軸の軸継手の取付け
 中小形船の場合、プロペラ軸の軸継手の構造は、3・4図および3・5図に示すような組立型軸継手が採用されることが多い。
 プロペラ軸のテーパ部と軸継手のテーパ部との合せを行い、テーパ部の当り状態を確認する。
 しかるのち軸継手フランジ面の軸心に対する倒れがないことを確認し、要すればフランジ面の修正をする。
 軸継手をプロペラ軸に取付ける要領は、プロペラの取付けと同様、所定の押込量になるようダイヤルゲージで計測しながら、油圧ジャッキで押し込むのが望ましい。小軸径の場合は、メーカで締付ナットに刻印した締め付けマークまで締付ける場合もある。プロペラ軸の軸継手が一体型の場合、プロペラ軸の軸身露出部が船尾管軸封装置からの漏水に直接ふれないよう防蝕塗料を塗布またはテープを巻いて保護する。
(8)プロペラ軸のプロペラ取付部の構造
 3・16図に示すようにプロペラ軸スリーブ後端部とプロペラボス船首側の空所にゴムパッキン(Oリング)を装着し、プロペラの押込みによってOリングを締め付け、プロペラ軸テーパ部およびスリーブ内側への海水の浸入を防止する構造のものである。この構造は、プロペラの押込量によってはOリングの締め付けが不十分になり、プロペラ軸テーパ部などに海水の浸入の恐れがある。万一プロペラ軸テーパ部およびスリーブ内側に海水が浸入すると、プロペラ軸には、トルクおよび曲げモーメントが作用しているので、プロペラ軸表面の円周上にクロスマークが発生し、プロペラ軸が折損することがある。従って3・17図に示すようなプロペラボス船首側にパッキングランドを設け、プロペラの押込量に影響受けることなくパッキングランドによってゴムパッキンの締付け量を調整できる確実なプロペラ取付け構造とする。
3・16図 プロペラ取付部の構造
 
 
3・17図 プロペラ取付部の構造
 
(9)プロペラキー構造
 プロペラ軸のキーみぞに固定されたプロペラキーは、プロペラボス内側に設けたキーみぞの中に嵌め込まれる。
 キー付きプロペラのキーの強度は、主機関の伝達トルクに対して十分耐えられるよう計画されるが、実際には主機関の伝達トルクがキーのみで受けるのではなく、プロペラをプロペラ軸に圧入し、押込んだ際に生じる摩擦力によっても十分プロペラに伝達されるよう計画される。
 プロペラキーみぞの船首側の形状は、主機関の伝達トルクによる応力集中を緩和するため一般に3・18図に示すようなプロペラ軸表面をスプーン形状に加工することによって、キーみぞの角部からのプロペラ軸のクラックの発生を防ぐことができる。キーみぞの船尾端部は、切り通しするのが一般的である。万一プロペラボンネット内に海水が浸入した場合、浸入した海水がプロペラコーンパート部への浸入を防止する確実な方法として、プロペラ軸およびプロペラの船尾側のキーみぞとも切り通さないで、プロペラ軸とプロペラボスとのコーンパート部を接触させる構造とすることがある。
この場合、プロペラ軸のキーとプロペラキーみぞとの摺合せのむずかしさおよびプロペラ取付け時の作業性が悪いなどの欠点がある。
 
3・18図 キーみぞスプーン形状の一例
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