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第2章 技術紹介
1. 電子制御システム
1)舶用機関のコンピュータを活用した電子制御システムについて
1. はじめに
 近年、ディーゼル機関に対し、低燃料消費、低公害排気、信頼性等の両立の難しい特性が厳しく要求されるようになり、この解決法としてコンピュータを搭載した電子制御システムを採用するエンジンが急激に増えている。
 特に、NOx低減など、環境保護に対する規制が先行している、トラック、建設機械用エンジン等、車両分野は、この革新的な技術の導入にいち早く取り組んできた。コンピュータ搭載の電子制御システムは、この分野で、大量生産技術、振動、環境変化など、実用化に伴う課題を解決してきている。
 こうして、先行した車両搭載エンジン市場での経験と技術は、直ちに舶用エンジンに導入されたが、格段に優れたエンジン性能と、確立された信頼性が認められ、急速に舶用市場に進出している。
 とくに、最近になり国際海洋汚染防止法(IMO規制)が動きだしたため、NOx低減や、燃料費低減にとりわけ有利な電子制御エンジンが、ますます注目されるようになった。
 さらに、電子制御エンジンは、コンピュータの能力を活用し、エンジンの保護、故障予知、故障診断機能を充実させることにより、エンジンの総合的な信頼性向上を実現している。
 ここでは、エンジンの電子制御化に、積極的に取り組んでいるメーカーの一つで、最新のコンピュータ搭載電子制御システムを導入している、キャタピラー社のエンジンを例にして説明する。
 
電子制御エンジンの例
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2. 電子制御エンジンは何が出来るか
1)熱効率を飛躍的にあげ、燃料消費率を一段と下げる。
 図1は、電子制御エンジンによるNOxと燃料消費低減効果の例を示すもので、横軸にNOx、その時点の燃料消費率を縦軸プロットしたものである。
 通常NOxを下げると、燃料消費率が悪化する関係にあり、両者を同時に低減することは難しく、この組み合わせで比較することが重要である。
 同図によると、同一NOx値の条件で比較して、電子制御エンジンの燃料消費率は、5−10%の大幅低減となっている。
 
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図1 NOx燃料消費低減例
 
2)NOx、黒煙排出量を大幅に押さえる
 同じく、図1の例では、同じ燃料消費率レベルで見ると、NOxが50%以上低減している。
 また、図2の例では、黒煙、白煙のもとである粒状排出物質(パーティキュレート)が50%以上の減少となっており、全ての使用条件で、黒煙、白煙の発生が少ない。
 この結果、極めて厳しいIMO規制にも、余裕を持って対応可能となった。
 
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図2 粒状排出物質低減例
 
3)出力増大
 熱効率の増大等により、機械式制御に比べ約10−30%程度の出力向上が得られる。
 
4)舶用にマッチした性能特性
 荒天時などに粘りを示す強力なトルクアップ、低温始動、長時間低速運転モード等水温が低い状態での減筒運転、トローリングや低船速モードなど、舶用特有の要求に応える、独特な性能特性を持たせることができる。
 
5)強力な保護監視、診断機能の導入による信頼性向上
 異常、不具合の事前警報と保護、その診断を出すことにより確実に事故予防をはかるようになっている。不具合や整備履歴は記録蓄積され、新たに開発されたサービスツールにより、記録をもとに原因の解析をし、確実な診断をして効率のよい整備が可能となった。
 
3. コンピュータ搭載の電子制御エンジンはどのようになっているか
1)電子制御の種類とその特長
 エンジンの電子制御には、ガバナのみを電子制御する段階から、各種噴射系メカニズムと組み合わせて電子制御をするさまざまな段階があり、電子制御の可能性を最大限に利用し、出来るだけ高圧のもとで、燃料噴射のタイミングや噴射のパターンを、理想的な形に近づける努力が盛んになっている。
 図3は、エンジン電子制御の段階を、燃料噴射系のハード面に注目し、代表的なケースを例として分類したものである。
 キャタピラー社の例では、図3のNo.4、No.5の電子制御が主力となっており、いずれも電磁制御弁組込式ユニットインジェクターを使用している。
 これには、インジェクターのプランジャーをカムで駆動して高圧燃料を得るEUI方式と、蓄圧室の油圧で駆動するHEUI方式がある。
 いずれも、ほとんど同じ構成の電子制御システムを使用するが、今回は主としてEUI方式の電子制御エンジンを例として説明する。
 
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図3 電子制御の種類と特長
 
2)コンピュータ搭載電子制御の必要性
 低NOx、低燃費率を実現するためには、燃料を出来るだけ高圧で、短時間に、しかも、最適の噴射タイミング、パターンで噴射することによって得られる。
 図4に示すように、最適噴射時期は、エンジン速度と負荷(燃料噴射量)の組み合わせによって変わり、更にアフタークーラ空気温度によっても変わる。
 図4の中で、一枚一枚の曲面が、特定のアフタークーラ空気温度に対応しており、実際には多数の曲面で構成された、立体的データとなる。
 この図でも分かるとおり、最適噴射時期は、クランク角で20度を越える進角となり、これは機械式進角メカニズムの能力をはるかに越えるレベルとなるので、電子制御が必要になる。
 更に、必要な進角、高圧、望ましい噴射パターンを得るには、同じ電子制御でも、ユニットインジェクタ式が高圧化に有利で、さらに、電磁制御弁組込ユニットインジェクタは、噴射制御の可動部の慣性が少なく、追従性に優れているため、噴射ポンプのラック、スリーブを電磁ソレノイドで操作する方式よりも有利となる。
 また、油圧駆動ユニットインジェクターは、カムリフトの制約もなく、より自由度がひろがる。
 
図4 燃料噴射時期







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