第4章 椎葉村の活性化に向けた基本コンセプト
1 「椎葉らしさ」とはなにか
地場資源を活用した本村の地域活性化にあたっては、どのような地場資源を選択し、どのような手法によって活用していくのかが必要になってくる。本村は、自然、風土、文化、伝統、生活、住民性など、多種多様な地域特性、地場資源を有しているが、その中から地域活性化に資する地場資源を選択するためには、活性化に求められる「椎葉らしさ」を再検討する必要がある。
ここでは、前章までで検討した地場資源の現状に基づき、「椎葉らしら」を下記のとおりとらえる。
椎葉らしさ=椎葉のアイデンティティ、椎葉を豊かにしているもの、椎葉にしかないもの
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(1)「椎葉らしさ」を考える背景
「椎葉らしさ」を検討する視点として、検討の背景となるわが国の社会経済状況をみてみた。
ア 日本再考・日本回帰
長期の経済不況、国際化・グローバルスタンダードに伴う社会・経済の構造改革など、21世紀のわが国は、大きな歪みや暗い影を抱えている。こうした背景の中で、「日本」又は「日本人」としてのアイデンティティの確保に大きな危機感を生じている。そうした中で、社会・経済・文化など様々な角度から「日本再考」が行われている。
その一方で、国際社会における日本人の評価や活躍、国際化の中での新たな日本イメージの創出など、「日本回帰」への潮流が明確化してきている。
椎葉が有する自然・伝統・文化・人・モノをこうした「日本」的視点から再検討することが、21世紀における「椎葉らしさ」の創出に貢献する。
図表4−1 日本再考・日本回帰の背景
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イ 20世紀型の社会・文化・生活からの脱却と地方や個人の尊重への志向
国際的には、東西冷戦が終結し、市場の原理に基づく社会経済化が世界へ浸透する一方で、地球温暖化、資源の枯渇など、人間生活と地球環境との係わり方の抜本的な見直しが進み、大量生産・大量消費社会への嫌忌が顕著となってきている。また、国内では、キャッチアップを目指してきたこれまでのわが国の中央集権型社会が制度疲労を起こし、地方分権への潮流が急になってきている。これらが背景となり、国民には、東京に代表される20世紀の都市型社会の限界が強く認識されはじめている。
また、長期の経済不況に伴う就職困難やリストラ、都市型犯罪の多発、食物の安全性への不安など、個人の生活や尊厳が軽視され、脅かされる社会風潮や事件が続いている。
こうした社会・経済環境の中で、都市型社会からの脱却、個人の生活や尊厳の回復が志向され、地方の生活への再評価、個人を尊重する癒しニーズの高まりなどが生起している。
地場の食材や郷土料理を見直そうという「スローフード」運動の動きもこのような風潮を背景としている。
こうした「地方(農山村)」と「癒し」への対応面から、本村の魅力・資源を再検討することが、21世紀の「椎葉らしさ」の創出に貢献する。
図表4−2 地方や癒しへの志向の背景
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(2)「椎葉らしさ」を形成する椎葉の魅力の抽出
地域の概況や地区カルテなどから、先の「椎葉らしさ」を考える背景を基に、本村の良いところ、特徴づけているものを抽出すると、以下のようになり、「自然」、「歴史」、「暮らし」の三つに大きく整理することができる。
これらを総合すると、一言でいえば「山の生活文化」というものが抽出することができる。
図表4−3 椎葉の良いところ、特徴となるもの
自然
国見岳、扇山等九州中央山地の山々
3つの河川の源流
V字渓谷
滝、湧水
落葉広葉樹の原生林、紅葉
巨木
シャクナゲの群生
峠から見渡せる雲海
鹿の鳴き声
ヤマメ、ホタル
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歴史
鶴富姫と那須大八郎の悲恋物語
鶴富屋敷
厳島神杜
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暮らし
焼畑
狩猟
棚田の風景
椎茸
雑穀
山菜
釣り
神楽
ひえつき節
神楽面打ち師
蜂蜜取り名人
スゲ細工名人
竹細工名人
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山や渓流に関する豊かな自然は、まさに山のものであり、また、人々の生業や生活の中で熟練した技も、山の中に暮らしているからこそのものである。九州の山奥だからこそ平家残党の隠里となりえた訳であり、これにより鶴富姫と那須大八郎のロマンも生まれたといえる。
つまり、「自然の中につくり込まれた、むらの暮らしと文化」こそが椎葉らしさを形成しているものであり、換言すれば、山の暮らしと文化が重層する「日本のむらの原風景」ともいい表すことができよう。
豊かで純粋な自然に包まれた温もり(故郷性)、そこに暮らす人々の温かさ(人格性)、世代を越えて受け継がれてきた伝統芸能(伝統性)、自然と共生しながら生まれた生活文化(風土性)、これらは、都市住民を癒し、また、刺激する要素である。「山に生きる人々の物語」をいかに人々に伝えるかが観光・特産品の分野でも重要であろう。
(3)都市住民を魁了する椎葉らしさ
では、そのような故郷性、人格性、伝統性、風土性がどう都市住民を癒し、刺激するのか。都市住民を魅了する椎葉らしさについて、具体的にあげると以下の7つのことがいえる。
(1)謎めいた地域イメージ
源流地帯であり、また、九州中央山地の奥深くに位置し、どこからも遠いため秘境の地というイメージが形成されやすい。さらに、焼畑、平家伝説など、他の農山村とは一風変わった響きの文化や伝説がある。
(2)文化人が興味を抱いた地域
日本民俗学の大家である柳田國男も注目した、狩猟や焼畑などの山の生活文化が現在でも営まれている。また、吉川英治作の「新平家物語」の舞台として描かれている。上椎葉ダムの通称「日向椎葉湖」は吉川が名づけた。
(3)本物が伝えられている
焼畑などの生活文化、神楽やひえつき節などの伝統芸能、鶴富屋敷、十根川集落といった歴史文化などの多くが、昔と変わらない形で受け継がれており、偽りのない純朴な「本物」が生活の中で息づいている。
(4)九州山地の豊かな自然環境
清らかで豊富な川の流れ、九州では珍しい落葉広葉樹の原生林、数百年もの間椎葉の森をみてきた巨木などのある、穏やかで美しい自然環境の中で、イノシシ、シカ、ヤマメといった生き物が暮らし、山菜、山の草花の種類も豊富である。
(5)白然とともに暮らした山の民の生活文化
山菜・雑穀・川魚など、山の独特の食文化が受け継がれ、神楽、踊り、民謡などの珍しい民俗文化が伝承されている。また、山地で暮らす人々の知恵の結集である、山にはりつく集落と石積みの水田は美しい景観を形成している。
(6)あたたかい人々
「てげてげ」、「かてーり」といった本村の言葉にもみられるように、人情味ある村人のもてなしは都市住民をあたたかい気持ちにさせる。
(7)多彩な物産資源
木材生産、椎茸、蜂蜜づくり、山菜といった豊かな緑の中で育まれてきたものや、源流地帯の川で採れるヤマメやおいしい水からできる豆腐など、自然の恵みを受けた物産資源が豊富である。
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このように、本村には、本物の自然と山の生活が多く残っており、そこで生活する人々がそれらを守り伝えている。これらは、都市ではみられない、日本の山の原風景であり、都市住民にとってアピール力のあるものといえよう。
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