資料―3 コミュニティバスの事例
1 北陸3県(石川県、福井県、富山県)の事例
都市政策としてのコミュニティバス (北陸経済研究02年4月号掲載)
●コミュニティバスとは
一般的に「コミュニティバス」という名称で呼ばれているバスは、路線バスと乗合タクシーの間を埋める小型、あるいは中型のバスで、(1)バス不便地域を運行、(2)主に高齢者や障害者のモビリティの確保、(3)中心市街地の活性化、(4)環境負荷の軽減――などを目的としており、主に自治体によって運行されているものである。
従来のバス路線が民間事業者では運営が困難になったとして廃止された後の、代替バスもコミュニティバスの一つの形であるが、住民の要望などにより、福祉サービスの視点をもつ一方、都市政策的なねらいでコミュニティバスが導入されるケースが増えている。
●北陸の都市内循環型コミュニティバス
北陸3県の県庁所在都市には、それぞれ中心市街地を循環するコミュニティバスが運行されている。いずれも都市内のいわゆる交通空白地帯(既存バス路線から歩いていける程度の距離以上離れている等)を走る。高齢者の足の確保等を視野に入れており、通勤、通学目的の利用には対応していない。また、観光目的や公共施設等を巡回するような形のものとは意味合いが異なる。以下に内容を簡単に紹介する。
・金沢市「ふらっとバス」
金沢市は非戦災都市であるため、狭隘な道路が数多く残っており、多数の高齢居住者にとって公共交通を利用することが不便な地域となっている。平成5年から3ヵ年かけて「金沢市における高齢者・障害者等のためのモデル交通計画策定調査」が行われ、ノンステップバスや※STドア・ツー・ドア型、ST固定型の導入が検討された。
ふらっとバスは、「ST固定型」のバスとして、高齢者等の足の確保や、中心市街地へのアクセス改善、人々の交流の活性化などを目的としている。
運行ルートは交通空白地域と交通結節点とを結び循環するコースが取られている。13年9月、JR金沢駅前にバスターミナルが暫定オープンしたのを機に駅前にも乗り入れた。全国で初の小型ノンステップバスを採用し、現在、2ルートが運行されており、14年度末までには第3のルートが運行開始の予定である。
ふらっとバスは、本来観光客を対象としたものではないが、結果として観光にも寄与したものとなっている。
・ST(スペシャルトランスポート)高齢者・障害者などの移動に困難を伴う層に送迎サービスなどを行う交通システム
・福井市「すまいる」
平成11年にバス交通活性化策の一つとして、福井商工会議所・(社)福井県バス協会の主催でコミュニティバスの試行実験を開始、商店街からの強い要望もあって福井市が本格運行した。市中心部から半径2km圏内(中心商店街の利用圏内)に4つの路線を持つ。
本格運行の前には、必ず2ヵ月間の試行実験を行い、「乗り込みヒアリング」「利用者アンケート」「沿線住民アンケート」を実施し住民・利用者の意見や要望を集計・分析し、本格運行ルートを決定している。
「すまいる」は、市中心部と住宅地を結ぶバスであり、その名前は「住まい(地域)に入る」に由来する。
中心市街地への集客、移動制約者の社会参加、バス交通に対する市民意識の啓発等を目的に運行され、中心商店街からの協力も得られている。
すまいるが走ることで、バス全体に目が向けられるようになったといい、バス業界からは歓迎されているが、タクシー業界には競合する部分があり、影響は大きいとのことであった。
・富山市「まいどはや」
富山商工会議所が創立120周年を記念して、コミュニティバス「まいどはや」を試行運行した。中心商店街を1周する約40分のコースで、周辺からの誘客を図り活性化を目的とする。
13年3月に本格運行し、14年度から新たに1コースが加わる。これは、富山市が公共交通空白地域の解消や公共交通の活性化等を目的に中心市街地や公共施設を結ぶ循環ルートを設置したものである。5つの候補の中から地域の高齢化率やバス利用可能性、他の公共交通との重複がないかなどの検討がなされた結果、新ルートが選定された。
当初のルートは、中心市街地を取り囲むルートで新たなルートは中心市街地と周辺の交通空白地帯とを結ぶものである。
利用状況は、まだ必ずしもいいとはいえないが、新たなルート選定は当分行わず、今のルートを継続し定着させる。採算はとれなくても、市民が街の中をのんびり歩き、にぎわいを取り戻すことがその役割として期待される。
●コミュニティバスのねらい
高齢者人口が増加する中で、足の確保が重要であるが、コミユ干ティバスは、小型の車両で幹線道路以外をバス停間隔を短く走行し、般の路線バスに比ベドア・ツー・ドアに近いサービスが提供されるため、タクシーと路線バスの中間に位置すると考えられ、福祉施策としても重要な位置づけがなされる。
一方で、都市内循環型のコミュニティバスは都市政策の一つとして走らせており、活性化のための都市の装置と位置付けられている。中心市街地はそこに生活する人だけのものではなく、都市全体の中心的な役割を果たす特別な場所であるとして、コミュニティバスがその活性化に寄与するものという考え方があり、運行ルートはこのコンセプトにかなった地域で選定されている。
ことし2月1日から改正道路運送法が施行され、路線バスの参入や撤退が自由化された。今後さらにバス路線が再編される可能性も考えられ、地域の足を確保するための自治体によるバス運行がさらに増えると予想される。しかし、安易な運行では何も効果が生まれない。その街にあった本当に必要な形は何なのか、街の実状にあった独自性のある交通計画が必要である。
●コミュニティバス運行の効果
コミュニティバスの運賃は、わかりやすさと利用増を図る目的で「100円」というケースが多い。中には、無料で運行する自治体もある。これは福祉施策として運行する場合にみられるが、しかし、住民がバス輸送というサービスを受けるのであるから、それに対する対価を支払うのは当然であるという考え方もある。
コミュニティバスは、ただ運賃が安く、中心街を循環すればいいというものではない。これらの自治体によって運行されるバス事業は、なかなか利用者数も伸びず苦戦しているところも多い。もともと自治体が運行するバスは採算が見込めないところを運行しているものではあるが、ではバス運行は何をもって成功とされるのか。
実際に運行が開始されて、利用者へのアンケートなど自治体による調査によれば、次のような傾向がみられる。
・利用目的は買い物」が圧倒的に多く、外出機会も増えた
・乗っている人もドライバーもやさしくなる。中年以上の女性が多く、挨拶を交わすなど、コミュニケーションが生まれる
・移動するための選択肢が増えた、定時性が高いと評価
・多少運賃が上がっても続けてほしい
福祉施策としては、高齢者にとって外出機会が増えることによって、寝たきり防止にもつながるという効果も考えられている。また、活性化という観点からすれば、バスの採算だけで考えるのではなく、町ににぎわいが戻る、人口が増えるなどの変化が現れれば、そこに一定の効果があったとみることもできる。
現在の利用状況からみれば、今のところ北陸3市のコミュニティバスは福祉的な効果が出てきているともいえるであろう。さらに都市政策の中の1つとして既存の公共交通との連携と調整によって地域の交通ネットワークの形成を図ることが重要である。
コミュニティバス先進地武蔵野市の「ムーバス」では、利用者のうち高齢者は4分の1に過ぎず、当初の目的ではない通勤、通学にも利用され、市の新たな交通体系として位置づけられている。
北陸3県庁所在都市のコミュニティバスの状況(14年3月現在)
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金沢市 |
福井市 |
富山市 |
愛称 |
ふらっとバス |
すまいる |
まいどはや |
運行主体 |
金沢市 |
まちづくり福井(株) |
(株)まちづくりとやま |
運行委託 |
北陸鉄道(株) |
京福電気鉄道(株) |
富山地方鉄道(株) |
運行開始日 |
平成11年3月28日 |
平成12年4月1日 |
平成13年3月1日 |
路線数 ( )内は、予定 |
2ルート |
4ルート |
1ルート |
(1ルート) |
|
(1ルート) |
路線長 |
4.6、6.2km |
6.5、6.7、7.3、7.8 |
6.1km |
車両 |
種類 |
小型ノンステップバス |
中型ノンステップバス |
中型ノンステップバス |
台数 |
6台 |
5台 |
3台 |
定員(座席数) |
27人(16席) |
34人(16席) |
34人(16)・38人(18) |
車両価格(1台) (改造費等含む) |
2,500万円 |
1,700万円 |
1,700万円 |
運行間隔 |
15分間隔 |
30分間隔 |
20分間隔 |
運行時間 |
8:30〜18:00 |
7:40〜19:30 |
9:00〜19:00 |
バス停間隔 |
200m |
200〜300m |
200〜300m |
運賃 |
大人・子ども100円 |
大人・子ども100円 |
大人・子ども100円 |
所要時間 |
25分・40分 |
30分 |
40分 |
輸送実績 |
1日平均 |
634人・793人 |
179〜378人 |
258人 |
1車両平均 |
16人・20人 |
22人〜10人 |
8.3人 |
運行費補助 |
25,400千円(13年度予算〉 |
14,225千円(12年度) |
23,940千円(13年度予算) |
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