日本財団 図書館


[質問] こういった活動をする上で積極的に取り組む企業とそうでない企業との差、例えば税制上の恩恵や事業に対してのさまざまな規制といった差が、積極的な企業とそうでない企業にありますか。
 
ハリー イギリスでは税制上の恩典というのは殆どないです。もちろん寄附をするという行為に対して、ある程度税制的な優遇が認められることはありますけれども、これはさしたるものではありません。現在、企業の果たす社会責任については規制上の枠組みというのはない。
 やはりこういうプログラムは、受け手側のベネフィットのほうが非常に大きい。社会活動に積極的な企業と積極的でない企業、どうして二つに別れてしまうのかは、その企業が持っている意思の強さの違いにあると思います。
 
[質問] イギリスの主要企業における女性の役員を将来50%にするという目標があると仰ってましたが、具体的に今どのような策をとっておられるのでしょうか。
 
ハリー 我々として避けたいのは、企業と対決したり、企業を辱めるといったことは絶対にやりたくないと思っていますので、企業に対してもっと前向きにこのキャンペーンに加わってくださいと奨励しています。そのために測定や分析ツールも提供しています。
 ただ、50%の役員を女性が占めるというのは本当に大変で、達成まではまだまだ遠いですが目標として掲げているのです。
 女性の立場を改善するというテーマのもと、色々なイベントやセミナーを開催したり、賞を授与するなどより積極的に活動しています。
 
[質問] お話を伺って、BITCのような組織がなぜイギリスにあって日本にないかということを感じました。
 昔からあったのではなくて、20年前に設立されたとのことですが、どういう動機だったのでしょうか。その起源をお聞かせください。
 それから、企業で働いている社員がボランティアになるとき、企業が何かインセンティブを与えているのか、あるいはインセンティブを与えずに社員の自主性によるのか教えてください。
 
ハリー まず、BITCが創立された理由ですが、大きな理由があったのです。実は1982年、イギリスで一連の非常に深刻な暴動がありました。
 ロンドンのブリックストン、ブリストルで起こった主には人種暴動だったわけですが、非常に社会でも恵まれず、失業率も高くて、貧困度も激しいような人たちが人種的に暴動を起こしてしまいました。それが発火点になり大きな事件に発展してしまいました。
 これを見た3人の企業のリーダーたちが立ち上がりました。その3人とも同族会社を経営している家系から来ている人たちだったのですが、ここで企業として立ち上がらなくてはいけないと。その内の一人がマークスアンドスペンサーの会長だったわけです。
 その会長が言いました。「人々が住んでいる裏道がヘルシーでないと、結局お店が立ち並ぶメインストリートも健全になることはできない。だから企業として立ち上がって助けよう」と。
 こうしてBITCが設立されからこれまでどういった困難があったかというと、やはりクリティカルマスをまとめるまでに時間がかかったということです。
 300社以下の会員企業数しかなかったときには、なかなか300以上に会員数を拡大することができなかった。そのときはとても苦労いたしました。
 福祉国家として活動していたので、もう福祉については国が全部面倒を見てくれる、企業は法人税を払っているからいいではないか、従業員はボランティアをやりたいのだったら個人ベースでやればいいといったような面持ちがあったので、その心理的な形を克服するのに少し時間がかかった。
 でも、いったん企業側が社会的な責任を果たすことでベネフィットがあると認識されてからは、企業がどんどん加わってくるようになって好循環が生まれました。
 従業員のボランティア活動においては、その従業員は企業のために参加しているのではなく、企業の応援を得て企業と一緒にやっているという形をとる。
 つまり、企業としてその従業員に就業時間の一部を充てることを認める、委員会のミーティングを開く場合は会議室を提供する、印刷代を節約したいから会社のコピー機を使わせてあげるといったようなことをするわけです。
 なので、従業員に対して個人的にインセンティブが会社から与えられるということではない。会社は単にその従業員を鼓舞し、かつ色々な宣伝をしてあげるのです。
 
[質問] アカウントマネージャーの制度があるということですが、アカウントマネージャーの具体的な活動、例えば、企業に対して色々な提案をするとかコミュニティの要求を調整するといったことについて教えてください。
 また、BITCの日本展開があるのかどうか、その辺りについて教えてください。
 
ハリー アカウントマネージャーが窓口となって企業会員との色々なやり取りに当たるのでとても重要な立場にあります。
 キャンペーン、コンサルティング、アドバイスサービスという活動を通じ、アカウントマネージャーがインターフェースになって企業と色々なやり取りをしています。
 例えば賞があったとき、申し込んだらどうですかと会社にサジェストする。また、その会社の会社員や役員に対して色々なブリーフィングを行います。
 例えば、私はロンドンにあるシティバンクのアカウントマネージャーなのですが、シティバンクはヨーロッパ全域でコミュニティ投資をやっていきたいと言っています。特に好んでいるテーマが教育と医療です。
 そうすると、私はシティバンクの会長やコーポレートアフェアーズ担当のディレクターと一緒になって、シティバンクのために戦略的なプランを考えるわけです。
 我々の組織もヨーロッパに色々な提携機関がありますから、その中からパートナーにふさわしいところを紹介してあげたりもします。
 リソースを出すのはもちろんシティバンクですが、より良いプログラムにするためにBITCと組んで一緒に協力し合う。
 次に、BITCとして日本にまで活動を広げる予定があるかということですが、我々がイニシアチブをとって海外にオフィスを開くことはしません。まず現地から上がってくる声やニーズに応じて我々が対応するという形をとっております。
 例えば、シティバンクはヨーロッパで今、社会活動を熱心にやっているけれども、今後は日本に広げたい。際しては日本のパートナーを紹介してくれないかということで話が広がっていくわけです。
 実際にそういうリクエストが出た時点で、私が日本に来て、日本のパートナー機関を見つけたり、枠組みをつくったりするということです。
 ですから、日本で本当にニーズの声が多くなったら、我々としてはもちろん喜んでお手伝い申し上げます。もう800社以上の会員企業があるわけですから、そのうちの大半は絶対に日本にもオペレーションを持っているはずですので、今後、そのような声が具体的に上がってくれば、我々としてはぜひ積極的に応じたいと思っております。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION