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第5回 「英国における大企業の責任活動とコミュニティ投資の具体事例」
日時: 2002年12月13日 午後6時半〜午後7時半
会場: 日本財団ビル2階・大会議室
講師: ディビッド・ハリー 英国ビジネス・イン・ザ・コミュニティ欧州開発部長
司会: 町田洋次 社団法人ソフト化経済センター理事長代行
 
町田 今回は、British Council東京のお骨折りで、ロンドンにあるBusiness in the community(BITC)のハリーさんをお招きしました。
 BITCはNPOですが、大企業を会員にして、企業の社会貢献活動を仲介したり斡旋したりしています。
 ダイエットをして体重を落とすときに、なかなか体重は減らないのですが、体重計で毎日測定をしていると体重が減っていくということがあります。体重を落とすのは個人の意志の力ではなくて体重計のおかげであると言いますが、当たらずといえども遠からず、です。
 もし東京にBITCがあったら、この数年の大企業の不祥事は起こらなかったかもわかりません。NPOが監視し、色々なアドバイスを専門家が行うからです。
 我々はそのような装置を持っていなかったのがいけなかったのかもわからないと反省し、ハリーさんが来日した機会をとらえ、今日の会をセットしました。それではお願いいたします。
 
■ディビッド・ハリー 英国ビジネス・イン・ザ・コミュニティ欧州開発部長
 皆様、こんばんは。ご招待いただいてありがとうございます。今朝は経団連で会議があり、講演させていただきました。
 今回は私にとって全く初来日でありますが、イギリスで現在大変活躍しているBITCについて紹介いたします。
 
BITCのミッション・ステイトメント
 BITCには3つのミッション・ステイトメントがあります。
(1)企業が社会に、そして経済の再生に対してできるだけ質の高い貢献をすることをサポートすること。単に慈善事業をして寄附をするという団体ではありません。
(2)我々は企業会員を募るということで運営している団体です。
(3)きちんとした物理的な組織を持っており従業員も抱えております。できて20年ぐらいたっており、企業会員数は800社、ほとんどは大企業ですが、このごろは中小企業に入ってもらいたいということで積極的に運動しております。
 
 みなさまご存じのチャールズ皇太子が実は私どもの組織の理事長をお務めくださっております。スタッフ数は300人強で、そのうち43名は企業から派遣されている出向者です。
 なぜこんなに大勢のスタッフを抱えているかといいますと、13の強力に活動している地域事務所を持っているからです。ウエールズ、北アイルランド、イギリス、また、スコットランドとアイルランドのほうにはパートナーシップということで提携先の組織があります。
 
BITCが提供するサービス
 BITCは非常に広範なサービスを提供しております。プロジェクト案件のマーケティングからコンサルティングサービスに至るまで、また、社会的な貢献の具体的な案件について仲介を務めるとか、紹介を申し上げるということもしております。
 このごろは、私どもが”円滑役”、”調整役”を務める機会が増えてまいりました。いわば官、民、そして社会の組織の人たちを一緒に集めまして、色々なことをやってもらうわけです。
 なぜ企業はこぞって私どもの組織に加盟してくるのでしょうか。これはビジネス上のメリットがあるからです。
 企業の定評は、実はその企業の持つ競争力を決める決定的な要因の一つになってきました。つまり、企業としての定評を失ってしまえばマーケットも失ってしまうということで、ますます消費者のパワーが高まってきました。
 消費者の力を見せつけられたことがヨーロッパでは約2年前でありました。そのときモンサントがヨーロッパのスーパーに対して遺伝子組みかえ食品をこぞって導入しました。そうしましたら、ヨーロッパじゅうの消費者の反発を買いました。
 特に母親のパワーが強かった。食品に何が入っているかわからないものを自分の子供に食べさせるわけにはいかないということで、結局これを受けてモンサント側は遺伝子組みかえ食品はすべてスーパーから撤去するということになったわけです。
 この間モンサントの株価は50%下落、売上のほうも50%下落、そしてモンサントの会長も危うく首になりかけました。これほど消費者の力は強いのです。
 
企業が良い人材を獲得する
 このごろイギリスの大手の企業のCEOがよくこう言っています。彼らの何人も我々の会議にきて講演をしておりますが、本当に企業というのは競争が厳しく、ベストな人材を募ろうといつも躍起になっています。
 ですから、大卒の人ですとか、最優秀な人にぜひ入ってもらいたいということで、常に隣の企業と競争し合っている状態です。
 いい優秀な人材に来てもらうために企業側で必要なことの第1は、その企業が立派に社会的な責任を果たしているということです。そしてコミュニティプログラムもちゃんと持っていることです。
 そして2番目に、そういったいいプログラムだったら、個人的にも自分がかかわりたいと思うことです。ですから、こういった条件を備えている企業でないと、逆に優秀な卒業生は来てくれないということになっているわけです。
 イギリスも含めまして、ヨーロッパの諸国の大半においては、たくさんのマイノリティの人口がいるわけです。難民の人たちですとか、昔の植民地に住んでいた人たちですとか。
 こういったマイノリティの人たちに対して十分責任を果たしている企業でないと、人々は目を向けてくれません。だから、その分企業としてはマーケットを失ってしまうし、いい人も雇えないことになるわけです。
 
キャンペーン事業
 具体的に私どもの組織が行っている仕事の内容を少しご紹介します。
 第一が教育キャンペーン事業で、これは国の教育省の支援も大いに受けている分野です。予算が300万ポンド(5億7000万円)ですから、かなり規模のまとまった大きなイニシアチブです。
 2番目のキャンペーンは環境にまつわるキャンペーンで、これは企業間で環境にまつわるパフォーマンスですとかインパクトを、ベンチマーキングを使って詳しく測定する作業です。そして環境に配慮した結果、例えばどのぐらいコスト低減ができるかといったようなことをもやっています。
 3番目はコーズリレイテッドマーケティングで、特定のテーマに関連づけた販売方法で、例えばここにあるミネラルウォーターを1本1ドルで売るといたしますと、そのうちの5セントを買う人が望んでいるNPOもしくはチャリティのほうに行く販売方法です。
 これは非常に人気を博しているプログラムで、営業関係もこういったプログラムを好んでいます。なぜなら二つの効果があるからです。売上が上昇し、ビジネスの実績に即直結するうえ、コミュニティに対しても非常にいい評判をとることができるからです。
 4番目は働く人の平等な機会をつくるということで、二つのダイバーシティキャンペーンをやっております。
 一つは女性の社会進出で、このキャンペーンの持つ使命というのは、大手の企業が女性をもっと積極的に雇って、女性をより積極的に活用するということであります。
 さらに役員についても、今後、女性の登用を増やしましょうということで、まだ期日は決まっていませんが、いつの日か、大手のイギリスの企業や役員は50%女性で占められるということを目標にしているのですけれども、まだまだ道のりは長いということは認めます。
 もう一つのダイバーシティキャンペーンというのは、機会を求めてレースをしようということです。
 これは黒人ですとか、民族的にマイノリティに入っている人たちに対しての雇用ですとか、その活動を奨励しましょうということを目的としているものです。
 イギリスですと、黒人の場合は失業者になる可能性は普通の2倍、貧困になってしまう確率も2倍多いのです。特に若くて黒人の場合には、罪を犯して監獄に入ってしまう確率も平均に比べて2倍高く、イギリスで黒人として暮らすことはとても不利なわけです。
 この問題を何とか是正しようということで、雇用を促進するための色々なプログラムのプロモーションをやっているのですけれども、これに加えて別の側面がありまして、これはこのキャンペーンに参加している企業の会員に対しまして、色々な購買ですとか仕入れをしている場合には、できるだけローカルで、黒人や民族的にマイノリティの人たちが運営しているような中小企業から仕入れてくださいということを奨励しています。在来のヨーロッパの人たちからは仕入れないといったようなことなのですけれども、これはとてもうまくいっているキャンペーンです。
 
コミュニティ・インベストメント
 次はコミュニティ・インベストメント、地域社会に対しての投資に関してのプログラムですが、これは会社に勤めている従業員の持っているスキルですとか時間を社会奉仕のために提供してもらうプログラムです。
 ボランティア活動ですとか、メンターになったり、チームワークに加わったり、色々な形態をとることができます。
 つまり、企業として持っているリソースを社会のために役立てようというプログラムでありまして、例えば物理的にその企業が持っているコンピューターをリサイクルしたり、家具をリサイクルして使ったり、従業員のサラリーの一部を寄附として提供したりといったような現物における贈与も入ってくるわけです。
 また、法律ですとかコンピューターの技能といったような形で、ノウハウで社会に貢献する場合もあるわけで、いわば色々なスキルであれ、時間であれ、さまざまなもの、持っているリソースを社会奉仕のために提供するというプログラムです。
 ロンドンを訪ねた方はお気づきになったかと思いますけど、ホームレスの問題が深刻化しております。理由はたくさんあります。
 特にロンドンでホームレスになっている人たちには若い人たちが多い。軍を退役したばかりの人、家出してきた人、もしくは家から独立した人、監獄から出獄したばかりの人、色々いますが、現在、このキャンペーンに100社ぐらいが加わっておりまして、企業としてホームレス対策を打とうではないかというアクションをとっております。
 
二つの再生事業
 最後のキャンペーンが再生に関するキャンペーンで、2種類あります。
 第1番目は都市再生キャンペーンプログラムで、特にイギリスの北部は伝統的な産業がまさに今、斜陽産業になっております。石炭、鉄鋼、造船といったようなところですが、こういう地域は非常に失業率が高い。
 失業率が高いから貧困度も増す、麻薬問題も深刻化するといったように、社会問題がどんどん出てきておりますので、この再生キャンペーンをかけることによって何とかしようということです。
 第2番目の再生プログラムが農村地域の再生プログラムです。
 イギリスの田舎は、本当に貧困度が増しておりますし、剥奪されている状態もさらに深刻化しています。なぜなら企業がどんどんそういった小さな町を離れていってしまい、住民も都市に流れていってしまうという傾向になっているからです。
 これもチャールズ皇太子が言い出して始まったプログラムですけれども、多分、チャールズ皇太子は田舎にたくさん土地を持っているからそういうことを言い出したのかもしれません。剥奪した状態を嘆かれまして、何とか農村地域、田舎を再生したいということで、起業家精神を導入しましょうということで現在プログラムは進んでおり、非常に大きな成功をおさめております。
 
再生のツール「リーダーシップチーム」
 それぞれのキャンペーンは、リーダーシップチームというのが必ずつくられることになっております。このリーダーシップチームは、構成要員が15名から20名程度で、みんなそれぞれの企業の幹部です。
 こういった人たちにチームリーダーになっていただき、チームとして各キャンペーンの戦略的な方向性やアイデアを決めます。あわせて、ほかの企業も参加してくれるように勧誘もします。
 このリーダーシップチームに入るためには、その人を送ってくる企業自体がいわゆる入会料みたいなものを払わなくてはいけないということになっておりまして、その価格は1万ポンド(190万円)です。
 
理事長であるチャールズ皇太子の活躍
 チャールズ皇太子は本当に積極的な理事長であられまして、色々な会議ですとかセミナーに参加され講演をなさっております。
 その中で、皇太子の持論である、企業こそコミュニティのパートナーとして積極的にならなくてはいけないということを常に説いておられます。
 約8年前に、チャールズ皇太子は、企業がコミュニティに参加するために最も効果的な方法は、まず企業の人にコミュニティに来てもらって現場を見てもらうことだと思ったのです。
 このプログラムのもとで、大体1回につき20名ぐらい企業のリーダーを集めました。この企業はまだBITCのプログラムに参加していない人たちですが、丸1日かけて現場を視察してもらいます。
 そのとき、1,000ポンド(19万円)の料金を頂戴し、現場に来ていただいて、そのコミュニティで展開されているプログラムですとか、教育プログラムを実際に目の当たりにして見てもらう。
 そして、他の企業は既にそういったプログラムに参加しているわけですから、既に参加している企業はどのようなベネフィットを享受しているか、どういう成果が出ているのか見てもらうわけです。
 そうすると、大体は発奮して、自分の企業もぜひこのコミュニティの貢献に参加しようということで参加してくれますが、中には忘れてしまって、何のアクションもとらない企業が出てきます。そういうところには、6カ月経った頃、チャールズ皇太子から昼食会の招待状が来ます。
 その昼食会に行くと、じゃあ、この6カ月間何をやっているのですかと聞かれてしまいます。その時、何もしていないとはなかなか答えられないので、いったん参加してしまうとなかなか足を洗えないという形にはなっているわけです。







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