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8. THD(19規則 2.3.5項)
 THD(Transmitting Heading Device:船首方位伝達装置)は、従来、船舶の船首方位センサは磁気コンパスと500gt以上の船舶はさらにジャイロコンパスの装備が義務付けられていた。即ち500gt未満の船舶は、方位計測センサとしては磁気方位で良かった。
 ところが、AISやRADARの、真方位信号を必要とする機器の装備義務が300gt以上と決められ、全ての客船及び国際航海をする300gt以上の船舶で、ジャイロコンパスを装備していない船舶(500gt未満)には新たな真方位信号を得る設備が必要となった。
 IMOで審議の結果、船首方位検出原理については特に限定せず最終的に真方位が得られれば良いとの考え方が認められ、ジャイロコンパスや電波方式を含めた方位検知技術から補正変換して真方位伝達装置とするTHDの性能基準が採択された。利用して良いとされる方位検知原理として、
1)  地磁気を利用した方式
2)  ジャイロコンパスのように他から独立した方式
3)  電波を利用した方式が存在することをIMO NAVで認知された。
 THDは他の装置(V章19規則 2.3.2、2.3.3、2.4項で要求される)が真方位信号を利用できるように、少なくとも1つのデジタルインターフェイス(国際標準IEC 61162)出力を備えることとなっている。
 
 許容誤差は、各原理共通に、
1) 伝送誤差は±0.2°
2) 静的誤差は±1.0°(緯度による誤差増が認められる)
3) 動的誤差は±1.5°
4) 追従誤差は旋回速度に応じて下記の値以下であること
・10°/秒以下の旋回速度で±05°以下
・20°/秒以下の旋回速度で±1.5°以下とされている。
 問題は、全く異なった原理のものを1つの規格でカバーさせるところに、実際の検査、例えば非磁性体の動揺試験装置や、GPS衛星信号を受信できる屋外での動揺試験装置、あるいはマルチパスの実証・実施など、厳密に言うと規格上同一扱いできない原理があり、従来の手法が適用できない部分があることである。
 THDは高速船対応機器でもあるが、ジャイロコンパスについては、高速船用に特別の基準がありこちらを適用することになる。しかしHSC CODEによると、乗客100人と言う基準と、30ノット以上と言う基準と、300gtと言うそれぞれ異なったディメンションの基準があり適用に問題がある。
 この装置の機器規格(試験基準)はISOで作成中であるが、検出原理別にPartを分けている。従って採用に際しては利用者に選択肢があるが、運用条件によっては検出原理による適不適があることを承知する必要がある。
[IMO MSC 116(73)、ISO 22090-1〜ISO 22090-3]
 
 AIS(Universal Automatic Identification System:船舶自動識別装置)は、船舶の衝突予防のための新しい援助装置として導入される装置である。
 航行中の船舶の衝突予防には、お互いの今後の針路を知ることが最も重要であるが、従来はRADAR映像による航跡から推測するか、無線通信で問い合わせるしか手段がなかった。
 従来の、自己完結型の航法に加えて、他船あるいは陸上からの楕報を利用した避航判断を助ける制度として、これも画期的といえる制度の導入である。
 AISを装備した船舶が自船の位置情報を送信する際に時間帯(スロット)を予約し、その時間帯に自船のデータを連続して送信する自己管理型時分割多重通信方式(SOTDMA:Self-Organized Time Division Multiple Access)を採用している。使用する周波数は、国際的に2周波決められている(公海周波数)が、地域によって不可能な場合は、その使用地域に入ったときに指定された周波数(地域周波数)に切り替える。
 装置の性能要件としては、
1) 使用周波数:公海周波数(161.975MHz、162.025MHz)
地域周波数(156.025MHz〜162.000MHz)
2) VHF受信機能(TDMA 2チャンネルの同時受信)
3) VHF DSC(70CH)受信機能
4) VHF送信機能(TDMA 2チャンネルの交互送信)
5) GPS受信機能
6) 船内情報入力インターフェイス(時刻、方位、船速、回頭角速度など)
7) 文字数字表示
8) 外部信号出力(オプション)
情報は、本船固有の静的情報、船が動くと変わる動的情報及び航行に応じた航海関連情報に分けられ、情報の更新間隔は自船の速度によるレートが決められている。
[IMO MSC.74(69)Annex 3、IEC 61993-2]
 
 HCS(Heading Control System:船首方位制御装置)は、日本ではこの自動型がオートパイロットと呼ばれている装置で広く利用されているものであるが、性能基準が整備され、又、同レベルでTCS(Track Control System:航路保持装置)の新たな性能基準と共に、10,000gt以上の船舶にはこのどちらかを義務付けられることとなった。
 TCSは変針点を結ぶ計画航路上を自動航行するもので、独立直線航路と変針点で自動転針する方法がある。自動航行を行う場合はHCSを接続しなければならず、又、単独装置としてのHCSにTCS機能を加えるものもある。
[IMO MSC.74(69)Annex 2、IEC 62065、IMO MSC.64(67)Annex 3、ISO/IEC 11674]
 
 VDR(Voyage Data Recorder:航海データ記録装置)は、直接自船の航海に使用する目的のものではないが、大局的な判断に基付く長期的な海難事故防止対策のための装置で、画期的なことであるが、乗組員が要望する種類のものでないだけに多く論議がある。航海、操船に関するデータや音声を記録に残し、海難事故が起きた場合に、データを再生して事故時の状態を推定し、今後の海難防止対策の資料にしようとするもので、航空機の分野ではフライトレコーダやボイスレコーダで長年の実績があるが、船舶では新しい発想のものである。
 IMOで決められた情報は、保護された容器(カプセル)に納められた記録体に納められ、回収後データを取り出し解析される。
 カプセルは船体固定型と浮揚型が認められている。
 VDRは主に、データを取り込むインターフェイス及び信号変換回路と、信号処理機能、データ記録機能(カプセル)によって構成される。
主な基準内容は、下記の通り。
1)本体要件
データは改ざんされないような設計にすること。
供給電源が喪失した場合、内部電池で2時間の船橋音響を記録できること。
データは12時間の間連続して記録できること。12時間を過ぎたものは新しいデータで上書きして消してもよい。
記録するデータは時刻との関連付けが行われること。
VHFと直結する音声記録が行えること。
船橋における必要な音響を収録するに足りるマイクロフォンの数が接続できること。
少なくとも1台のレーダーから表示映像を記録できること。
2)記録媒体保護容器(カプセル)要件
摂氏260度10時間、摂氏1100度1時間の耐加熱性試験に合格すること
水深6000m相当の水圧に耐える材質・構造の設計である物であること
水中音響ビーコンは25KHz〜50KHzの周波数帯で、内部電池により30日間以上作動できること。
浮揚型には無線送信機と発光機能を備えること。
無線発信機は、GMDSSのEPIRB相当のもので、光信号とともに、内部電池で7日以上作動することとされている。
無線機の耐火温度がカプセルの条件より低いものは、自動離脱機構は認められない。
記録終了後少なくとも2年間はデータを残すこと。
 VDRに関しては、在来貨物船への適用のためのフィジビリティスタディーが行われている。将来上記基準より緩和されたものが生まれる可能性はある。
[IMO A.861(20)、IEC 61996]
 
 IBS(Integrated Bridge System:統合化ブリッジシステム)及びINS(Integrated Navigation System:統合航法システム)は、機能統合をしたシステムで、従来の単独機器の機器機能や性能を基準化するものと異なる扱いのものである。
 実質的に、船橋での航海当直は、現行規定による装備機器を有効に利用して監視、判断、制御などを行っているものであり、更にこれらを効率良く利用できるように機能統合するものである。
 IBSは船橋におけるあらゆる機能、即ち、航海、機関、通信、荷役、保安・安全、船内管理などに大別する機能を統合するものであり、INSはこの航海の部分の機能統合をするシステムである。
 AISのグラフィック表示や、VDRの広範囲なデータ収録など機器間に跨る規格上の所掌に関する問題が起きて来て、その解決手段として全体を包含するこれらのシステムが再認識された。同時に単独機器を集合させただけのシステムとしての問題点も指摘され、IBSの設計面、運用面での見直しを行うこととなっている。これはフィンランドから提案があり日本とスウェーデンの共同作業で次回NAV48に提案する予定のものである。
 これらの機能統合化システムは、その基準に適合することによって、単独機器の機能に付加価値を生むものである。
 従来、単独機器基準はその規格範囲を他の規格に影響しない範囲に限定するため、単独機器を構成要素とするシステムでは、インターフェイス、付加すべき補正、警報管理、表示内容の統一、表示機器の重複、などの問題をはらんでおり、逆にIBSはこれらを解決する手段でなければならない。
 更に、システムを構成する単独機器は義務付けられている範囲でなくてはならず、これに追加する義務品でない機器については基準がない。
 これらの問題からIBSでは、
1) 性能基準面
特に航海機器、通信機器はIMOの性能基準があり、これらに適合しなければならない前提の下にシステムを構成しなければならない。
言いかえれば型式承認品で構成しなければならず、システム全体のバランスで内容を変更したり、重複する機能を削ったりすることは出来ない。
2) 設計面
システムの構成品(調達も含む)の選定や、操作器、表示器、配置、データ伝送、センサ共用など、設計・計画者の設計思想や能力が影響する。
3) 運用面
航路状況判断、システム内機器の操作モード認識、警報管理、緊急対応など、利用者が直接関与する要望の織り込み。
4) 責任所掌面
航海安全のための支援システムとして、検査当局がシステム全体をどう評価するか。利用者が自動化に対してどのようなポリシーを持ってシステムの規模、自動化の程度を決めるか。設計・製造者の一貫したシステム設計思想と品質管理。利用者、供給者一体となった教育訓練の施行。それに標準化機構での共通基準作り。
などが指摘され、これらを考慮したガイドラインを作成しIMOのCircularとなる予定である。
 
 IBSガイドラインは、設計、運用面での見直しもあるが、航海機器全体をカバーするものであり、今後の単体機器基準作りにも大きく影響する。次世代の課題はこれらが中心になることを見越して、日本が安全航海の基準作りに貢献し得る場作りとして積極的に論議に参加して行くものである。
[IMO MSC.64(67)Annex 1、IEC 61209/IMO MSC.86(70)Annex 3、IEC 61924]
 
 BNWAS(Bridge Navigation Watch Alarm System:航海当直警報システム)は航海当直時に、当直者の居眠り又は心身的事故などで無人運転状態になることを早期に回避する、あるいは作業負担過多など、何らかの理由で警報が発せられても対処できない状態の時に、船橋外の、例えば船長室や控えの乗組員のいる場所に警報を自動転送するシステムである。
 一人での当直時を想定しているが、この様な当直体制があり得る船に適用するガイドラインとして採択された。
 システムしては、船級協会の任意の規格として既に普及しているものである。
 
 正式には、“Guidelines on ergonomic criteria for bridge equipment and layout”で人間工学的に船橋機器の配置を標準化するものである。
 従来からあるISOの船橋配置規格(ISO 8468)が広く参照されていたが、IMOとして一人当直時をも想定してのガイドラインとして採択された。
 
(了)







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